第2015話:骨の心配じゃねえよ!
わんちゃん達に声をかける。
「あんた達いいかな? これからはこのフェイさんがあんた達のボスだよ。フェイさんの言うことはよく聞きなさい」
「「「「「「「わん!」」」」」」」
「フェイさんの言うことを聞いてお仕事をすると、褒美として御飯がもらえます。わかった?」
「「「「「「「わん!」」」」」」」
「あんた達のお仕事は山のパトロールだよ。具体的に言うと、魔物が現れたり山でケガして動けなくなった人がいたりしたら、すぐに知らせに来なさい」
「「「「「「「わん!」」」」」」」
「よし、いい子達だね。ボスから骨をもらいなさい」
フェイさんに骨を渡す。
これで完全にフェイさんをボスだと認識するだろ。
骨をもらって大喜びではぐはぐかぶりつくわんちゃん達。
可愛いなあ。
おっかなびっくりといった様子で話しかけてくる、フェイさんの親族の年長の男。
「今日は助かったよ」
「いいんだよ。困った時はお互い様だからね」
「あんたのことを誤解していたみたいだ」
「え? 誤解しようのないほど美しく可憐で気品を感じさせるフェイスだと思うけど?」
「顔のことじゃねえよ!」
そーなの?
じゃあスタイルの方?
おっぱいにはあんまり自信がないんだけど。
「族長の嫁取りのことでな……」
「あー、シーハンさんとイーチィか。族長の親族としては申し分のない相手を用意したつもりだったかもしれないけど、あの二人は問題あったぞ?」
「えっ?」
「まずシーハンさんは心に秘めたお相手がいるんだ」
「そうなのか?」
「そうそう。ただお相手が門地のない人なんだよね。だから族長家の仰せで縁談持ってったんじゃ、シーハンさんサイドは断れない。でも相手がいるって聞いちゃうと、ムリヤリフェイさんとくっつけなくてよかったと思うでしょ? 色々考え方はあると思うけど、好きな人と結婚するのが幸せだよ」
「まあ……な。理解はできる」
一族の中でも頷く人が出始める。
「イーチィは悪くないよ。むしろ族長の嫁としてありなんだけど、年齢的にちょっと早いでしょ」
「しかし婚約なら……」
「フェイさん自身がまだ若い。族長を継いだばかりだから、箔付けのために結婚して早く跡取りをって意味合いがあるじゃん?」
「うむ、間違いない。特に族長に子供を望むのは黄の民の総意だな」
「相手がイーチィじゃ、結婚までに数年空く勘定になりそう。何のために今婚約して、相手を決めようとしたのかわかんなくなっちゃう。センスがないとしか思えないな」
「……あんたはそれほどまで黄の民のことを考えてくれてたのか」
「あたしは常に知恵を巡らせているんだぞ? 半分くらいは今考えた理屈だけど」
「何だよ!」
「今考えたんだぬ!」
アハハと笑い合う。
正しい理屈なんてのは、元々あろうが考えついたばかりだろうが一緒なのだとゆーことを知ってもらいたい。
これも今考えた理屈だ。
「状況的には、フェイさんの嫁はインウェンベストだったってば」
「ああ。あんたがインウェン推してたってのは、あとになって知ったんだ」
「フェイさんとインウェンの相性はいいしね。インウェンが輸送隊副隊長やってる関係で、他色の民の間ではインウェンがフェイさんの嫁になるってのは規定路線みたいに思われてたんだよ」
「ほう? 知らなかったな」
「他色の民の事情は、関わりがないと聞かないかもしれないな。でも他色の民に馴染みのない人がフェイさんの嫁になると、あれ黄の民どうしたって、痛くもない腹探られるってこともあり得たんだよ」
「それも今考えた理屈なのか?」
「これは事実だとゆーのに」
今考えた理屈ってことも事実なのは間違いないけどな。
「もう決まったことだよ。フェイさんとインウェンを祝福してやろうよ」
「ああ、もちろんだ」
族長一族の皆さんにも納得していただけたようだ。
フェイさんもどうせ聞いてないようで聞いてるんだろ。
「なあ、おい」
「ん? まだ何かあった?」
年長の男には聞きたいことが残っているようだ。
「わんころ達のことだ」
「この骨はよーく煮てあるんだよ。見た目ほど硬くないから平気だぞ? わんちゃん達にも安全」
「骨の心配じゃねえよ!」
じゃあ何だろ?
「あんたの考えでは、このわんころ達を村で飼えってことなんだろ?」
「まあそうだね」
「処分しちまった方がよくはないか?」
「残酷なことを言うなあ。あたしはこう見えて帝国とガリア公認の聖女なので、慈悲深い行いを心がけているんだ」
処分した方がいいなんて考えが優勢になると、わんちゃん達がかわいそーだわ。
弁護してやるか。
「刑罰ってのは罪が深いほど重くなんなきゃいけないじゃん? 当たり前の理屈では」
「ん? ああ、道理だな、言うまでもない」
「わんちゃん達はあんまり罪深いことしてないんだよ。捨てられちゃったんだから、生きていくために人を襲うのも仕方がなかった。しかも襲うと言っても弁当を狙ってた。情状酌量の余地があるの」
「ふむふむ、なるほど」
「じゃあ誰が悪いって話になれば、わんちゃんを捨てた方が悪いんだな」
「えっ?」
慌て出す族長一族の皆さん。
「これでわんちゃんに厳しい処断をくだすつもりだったら、あんた達にはどれほどの量刑を科したら釣り合うんだって話になっちゃう。正直死刑でも追っつかないと思う」
「そ、そんな……」
「どうする? 断罪される覚悟はできた?」
「ひえええええ!」
にこっと聖女の微笑みを見せてやったら固まる族長一族の皆さん。
あれ、わんちゃん達まで震えてるがな。
よしよし、ごめんよ。
お腹見せなくてもいいからね。
フェイさんが笑う。
「ハハッ、ボチボチ勘弁してやってくれ」
「そお?」
「イヌ達は俺と黄の民が責任を持って雇おう」
「うん、お願いしまーす。できれば寝る時雨風当たらないような建物を、小高いところに作ってやってよ」
「おう、我らの得意分野だ」
よしよし、フェイさんに任せておけば安心だ。
わんちゃん達も御飯を食べさせてもらえば働くだろ。
素直ないい子達だよ。
「これは礼だ」
「何だろ? あっ、素材か。ありがとう!」
うんうん、素材はいくらあってもいいのだ。
輸出品の『ウォームプレート』『クールプレート』に使う量がバカになんないからな。
「ありがとう。じゃーねー」
「バイバイぬ!」
新しい転移の玉を起動して帰宅する。
わんちゃんは可愛くて素直。
お腹見せなくてもいいからね。