第2007話:おっぱいピンクブロンドは見どころがあるらしい
グスタフさんは、A太の父ちゃんとは思えんほどできる男ということがわかった。
できれば応援してやりたいくらいだけど、A太は推せないわ。
とどめを刺すようで可哀そうだけれども。
「ゼンメルワイス家イージドール侯爵は数日中に帝都に上ってくるよ。そしてすぐにヤニック君との婚約が発表されるはず」
「うむ。陛下の意向とあれば是非もない」
憑き物が取れたような顔になるが、しかしそれでもグスタフさんの表情は晴れない。
まあ状況が変わってないからな。
おそらくグスタフさんは、A太とハンネローレちゃんもしくはビアンカちゃんとの婚約を通して、停滞気味の領政に梃入れしたかったんだろう。
ゼンメルワイス家もドレッセル家も富裕で、資金援助が期待できるから。
「てっきりビアンカ嬢への仕打ちの意趣返しかと早合点してしまってな。申し訳なかった」
「A太はおっぱいピンクブロンド令嬢に真実の愛を見たんじゃなかったの?」
「マイケ嬢か……決して悪くないが」
「あれっ? おっぱいピンクブロンドは、グスタフさんほどの情報収集力があっても悩む余地がある子なんだ?」
意外だな?
いや、人気ランキング上位の令嬢なら、それなりの才覚があって当然なのか?
あたしも印象の強い人だとは思ったけど。
ウルリヒさんも興味出てきたみたい。
「グスタフ殿。マイケ嬢は見どころがあるのか?」
「実際に会ってみると、貴族の気品と侍女の気遣いを併せ持つ令嬢だ。またよく状況が見えている。あの美貌だから色々心ないことを言われることもあるんだろうが」
「ほう、グスタフ殿がそこまで評価する令嬢なのか」
「でもエリアス様にはビアンカ様という婚約者がいたんですよ? 近付いてくるなんて下品ではないですか。最低です!」
「むーん? ちょっと不思議だな?」
物事を考えられる令嬢なら、どうしてA太なんかを狙ったんだろ?
もっと条件のいい令息といい仲になれたんじゃないの?
いや、男爵令嬢から見れば、伯爵令息は魅力あったのかもしれないが……。
「A太とビアンカちゃんとの婚約を知らなかったのかな?」
「いや、知っていたらしい。申し訳なかったと謝っていた。愚息の婚約破棄宣言には驚いたそうだが」
「目的があってエリアス君に近付いた、か。エリアス君の方が舞い上がってしまった」
「そうっぽいね。婚約済みなのを知ってて近付いたとなると、結構したたかな子だぞ?」
ウルリヒさんの言うように、おっぱいピンクブロンドにはかなり強い目的があったんじゃないか。
広い視野を持って見られる目を持つとするなら、やはり領絡み?
「グスタフさんはおっぱいピンクブロンドがA太の嫁じゃダメなん?」
「ダメではないが……」
「ぶっちゃけ持参金と援助に期待できないと?」
無言で頷くグスタフさん。
ナップザックから地図を取り出す。
「グスタフさんとこの領地どこ?」
「ここだ」
帝国本土最東端か。
ふーむ、東方が帝国領になる前は国境の重要な地だったに違いないが、時代の変遷とともに地位は低下したんだろうな。
「おっぱいピンクブロンドの実家は?」
あ、グスタフさんとこの隣じゃん。
おっぱいピンクブロンドはA太本人じゃなくて、伯爵家に興味があったから接近した?
ウルリヒさんが言う。
「普通に考えれば港だな」
「あたしも同意見」
「港?」
「ペルレ男爵家領から帝都に売りたいものがあるんじゃないだろうか。陸路じゃとても運べないから、伯爵領の港から海路で運搬したい。おそらく運搬手数料の面で何がしかの便宜を図ってもらいたいので、エリアス君に近付いた」
「おっぱいピンクブロンドの意思だけじゃなくて、そのお父ちゃん男爵の意向が強いんだと思うけど」
「ゴットリープ殿か。うむ、彼もまた覇気のある男」
ウルリヒさんが聞いてくる。
「ユーラシア君はマイケ嬢を見て思うことはなかったか?」
「舞踏会でA太と踊ってるのをチラッと見ただけなんだ。その時はA太の鼻の下の長さが一ツカくらい伸びてるなあ、もっと締まった顔しろって思ってたから、おっぱいピンクブロンドのことを真剣に見てなかった」
「鼻の下がだらしないぬ!」
アハハと笑い合う。
ちょっとくだけた雰囲気になったね。
ヴィルよしよし。
まーでもA太よりおっぱいピンクブロンドの印象が強かったのは事実。
上乳に目を引かれただけではない。
「要するにグスタフさんは自領の経営をテコ入れしたい。でもまだ前伯爵や先代以来の家臣のしがらみが強くて成果を出せない。A太の婚約はいっぺんに状況を変えるチャンスだと思ってる、でいいかな?」
「まあそうだな。ドーラ人のユーラシア殿に見抜かれてしまうのは苦笑せざるを得ないが」
「ウルリヒさん、アレ教えちゃっていいよねえ?」
「構わぬだろう? 発表はまだだが秘密にしろとは言われてないからな」
「グスタフさん、今カルテンブルンナー公爵家領のキールっていう港町が、帝国直轄領になるんだ」
「直轄領に? 何のために?」
「現在フェルペダとしか認められていない東方諸国との貿易を活発化するためだ」
驚愕するグスタフさん。
「……何と思い切った施策だ」
「バーターで北部の未所属地域を我が領地に編入する許可をもらったのだ。ユーラシア君のアイデアでな」
「……なるほど、商業の活発化と編入地開発で十二分に元は取れるということか。妙手だな」
「グスタフさんにも関係あることじゃん?」
「えっ?」
「領内の産物を帝都だけでなく、キール経由で東方諸国に輸出可能ということだ。顧客が多いほどものは売れる道理だろう? グスタフ殿が東方貿易に噛んでくれるとキールが賑わう。それはバルリング家だけでなく、帝国にとっても俺にとっても利益だな」
「A太とおっぱいピンクブロンドの行く末がどうなるかは知らんけど、お父ちゃんの男爵様とは仲良くしときなよ。交易商品が多いほど頻繁に船を出せて儲かるからね」
「実績を見せつけていけば、うるさいやつどもを抑えることも容易だろう」
グスタフさんの顔に赤みが差す。
高揚しているのがわかるよ。
「ウルリヒ殿、ユーラシア殿、感謝する! すぐにゴットリープ殿と連絡を取ってみる!」
「グスタフさんはメッチャ行動が早いなあ。香ばしい香りがしてきたよ。お腹を満たしてから行きなよ。コブタ肉炙り焼きは絶品だぞ?」
おっぱいピンクブロンドに会うの楽しみになってきたな。