第2004話:不埒な天使など畳んでしまえ
王様が興味深そうに言う。
「ユーラシアは度量衡も統一したいと言っていたではないか」
「最初からあれもこれも盛り込むのはムリじゃない? まず一番メリットがあって、かつ難しい部分を片付けようよ。いずれどりょうこうを統一したいってことも考えてるよーって、参加してくれそうな国々には言っときたいけど」
「どこまで受け持つ組織を夢見ているのだ?」
「A国とB国が揉めたから仲裁しますよとか、一国で対処できない海賊団が出た時に対処しますよとか? そういう超国家的な組織に育って欲しい」
「なるほど、世界の王だ」
ルーネぽにょコージモさんは驚いてるけど、王様とお父ちゃん閣下は予想してたみたいだ。
「でも組織が大きくなると各国の分担金も増えるじゃん? 参加国全ての賛同が得られないような権限拡張はするべきじゃないんじゃないかな」
「まずは通貨単位の統一と旧通貨からの移行を数年かけて行う。通貨流通量を参加各国の同意の下にコントロールするということだな?」
「うん。通貨単位の統一だけでも結構大変だよ。恩恵は大きいけど」
特に独自通貨使ってる国はかなり楽になるんじゃないかな。
自分とこで全部決めて通貨発行するんだと、物価が上がったり下がったりしやすいもん。
貿易量が大きくなるほどよさを感じると思う。
閣下が意味ありげな目を向けてくる。
「ユーラシア君はこの計画に一番の障害は何だと考えている?」
「そりゃ天使国だよ。アンヘルモーセン」
お父ちゃん閣下王様コージモさんが大きく頷く。
ヴィルがルーネとぽにょに代わる代わる撫でられている。
よかったね。
「ゴールドとギルの統一のメリットが一番出るところはテテュス内海貿易なんだもん。アンヘルモーセンが機嫌損ねて参加に消極的になったら、メリットが帝国ガリアの直接貿易だけになっちゃう。ゴールドとギルの完全統一さえできないんじゃ、外洋諸国だって様子見になっちゃいそう。参加国が減るんじゃ意味がない。いいこと一つもない」
「問題はアンヘルモーセンが今の状態で特に困ってないということなのだ」
「それなー」
いや、帝国やガリアだって困ってはいないけどね。
統一できれば恩恵が大きくなるというだけで。
どうやってアンヘルモーセンを釣ればいい?
貿易商は通貨単位統一されれば、明らかに嬉しいだろうけど……。
コージモさんが言う。
「サラセニア事変以降、アンヘルモーセンの動きが鈍いように思えます」
「ユーラシア、その方の情報網で何か掴んでおらんか?」
「天崇教布教を中心にテテュス内海で勢力拡大を望む一派、アンヘルモーセン・ダイオネア・ラージャで地固めをしようという一派、カル帝国及びガリアと友好を深めたい一派に分かれてるって聞いた」
「それぞれの勢力は?」
「勢力拡大派がまだ天崇教を中心に根強いって話だったよ。でも政治家は地固め派、商人は対外友好派だって」
閣下が腕を組む。
「……地固め派は形勢のいい方につく。実質は勢力拡大派と対外友好派の二択だな」
「じゃ、友好国に根回しして、参加見込みの国を増やすのが先かな? 商人に噂バラ撒いてからアンヘルモーセンに話持ってく?」
「いや、対話が遅れると態度を硬化させるおそれがあります。なるたけ早い方がよろしいと思います」
天使傲慢だもんな。
天崇教は後回しにされた軽く見られたと感じると、利があっても反対してくることはあり得るかも。
じゃあどうする?
王様が笑う。
「簡単ではないか。実際の会談がいつになるにせよ、まず我がガリアとカル帝国からこの件に関する親書をアンヘルモーセンに届ければいい」
「あたしの役割だね? あたしもアンヘルモーセン行きの転送魔法陣は持ってないから、ヴィルに協力してもらって飛ぶしかないな」
「うむ。アンヘルモーセン国内にヴィルを連れていれば、どうせ天使達に絡まれるのだろう?」
「うーん、多分」
天使はアンヘルモーセンを自分のナワバリだと思ってるだろうから。
悪魔であるヴィルを連れてたら面白く思わないだろうな。
「正当防衛だ。使者を害さんとする不埒な天使など畳んでしまえばよい。それで勢力拡大派は勢いを失う」
「えっ?」
王様ったら、えらく大雑把な作戦だぞ?
この前サラセニアの首都ウトゥリクで天使をけちょんけちょんにしたのが、相当お気に召したらしい。
しかし勢力拡大派が失墜すれば、商売にメリットのある対外友好派が主導権を握るのは明らか。
つまり通貨統一は二つ返事で了承される可能性が高い。
「どうだ?」
「……エサが欲しいね」
「エサ?」
「天使が突っかかってきた場合にいてこますとこまでは任された。でもこてんぱんにしただけで納得させると、横暴だっていう反対派の声も大きくなりそーじゃん? 賛成してくれりゃアンヘルモーセンを優遇するんですよっていうエサが欲しい」
「参加国の中で人口や貿易額の大きい国は、理事国として発言権を大きくせざるを得まい? 最初から参加してくれればアンヘルモーセンも理事国とすると、親書に書いておけばよい」
「王様冴えてるなー」
どうも以前あたしが通貨統一についてチラッと話してから、王様は随分真面目に検討してくれてたみたいだ。
理事国については当然であるし、成功のキーになるアンヘルモーセンが理事国になるのも当然。
ならば最初から明言しておいたって何ら損はない。
「あたし三日後の午前中が空いてるな。アンヘルモーセンのお偉いさんに親書渡してくるよ。それまでに書いといてくれる?」
「わかった」
「陛下にそう伝えよう」
さて、これでよし。
あ、そろそろ夕御飯用意ができるみたい。
いい匂いがしてきた。
食事の前に……。
「王様、ちょっと協力してくれる?」
「む、何だ?」
「天使の使う『ホロレクイエム』って魔法あるじゃん? 王様がこの前習得したやつ。あれに対抗する装備品作ってもらったんだ。天使と対決する前に実際の効果が知りたいの」
「おお、なるほど。準備がいいな」
庭に出、ヴィルが『ノットサブジェクト』のパワーカードを起動する。
「いつでもいいぬよ?」
「ホロレクイエム! む?」
「スキルの対象にならないっていう効果なんだ。バッチリだ!」
これなら天使国行っても万全だわ。
「夕飯は当然食べてゆくのだろう?」
「もちろんだよ。いただきまーす!」
王様も過激なんだからワクワク。