第2000話:ヴォルヴァヘイムの中へ
フイィィーンシュパパパッ。
うちの子達が周りを見渡している。
「いいところですよね」
「あたしらみたいな田舎もんにとっては特にね」
カラーズから帰って来たあと、『ヴォルヴァヘイム』の転送先にやって来た。
一昨日一度来たからわかってるけど、とってもカントリーカントリーした場所だ。
当たり前か。
たまに魔境クラスか、それ以上の魔物が出現しちゃうところだもんな。
人が多いわけない。
「今日は柵の中に入って探索なんでやしょう?」
「予定ではね。天気は大丈夫かな?」
「モーマンタイね」
「じゃ、ガリア行く時間まではハイキングだな」
午後三時過ぎたら、お父ちゃん閣下とルーネを連れ、ガリアの王様に会いに行く予定。
例の通貨単位統一の話をしにだ。
あたしの考えたことが世界を動かすって、実に気分がいいなあ。
お弁当持ってきたし、結構な時間遊べるな。
この前もいた門の横にいる人に声をかける。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「これはユーラシア殿」
「おっちゃんはヴォルヴァヘイムの管理人なの?」
「管理人などという大層な者ではないんだ。単に門の守衛を委託されてるだけの村人さ」
「え、村人?」
おっちゃん二桁レベルくらいの実力あるじゃん。
「元は兵士だったんだ。この前のヤマタノオロチ出現で故郷の集落が危機に陥ってな。兵士のままでは故郷は守れんと知り、辞職して戻ってきたというわけだ。ユーラシア殿には大きな恩がある」
「ヤマタノオロチはあたしも楽しませてもらったから、いいんだけどさ」
「まあ度胸試しとかでヴォルヴァヘイムの中に入ろうとする頓馬もいる。それを止めるのがオレの役割だ」
「ごくろーさまです」
やっぱ中に入ろうとする人はいるんだな。
確かに危ない。
今いるここの魔力濃度がさほど高いわけではないけど、柵の中に魔境クラスの魔物が生息しているというのは雰囲気でわかる。
「ヴォルヴァヘイム域外の周辺地域にさ。巨大魔物を湧かなくすることが可能かもしれないんだ」
「何と?」
「魔力の状態が不安定になって、たまたまメッチャ濃度の高いところができちゃったりすると巨大魔物が出てくるらしくて」
「うむ、聞いたことがある」
「そのたまたまをなくすために、聖風樹っていう木を植えてやればいいんじゃないかっていう説があるの」
「聖風樹……」
「聖風樹の生育条件はわからないよ? でもある程度魔力濃度がないと育たないみたいでさ。今では絶滅しちゃったんじゃないかって言われてるけど、あたしは生えてる場所を知ってるんだ」
「そうか。希望が持てるな」
喜ぶ守衛のおっちゃん。
まだ不確定要素が多い話ではあるが、聖風樹が育つなら林産資源としても有用だからね。
「今度宮廷魔道士を連れて魔力濃度を測定に来るからね」
「話が進んでいるのはありがたいな」
「ところで門開けてくれる? 中行きたいんだ」
困ったような顔をする守衛のおっちゃん。
どうした?
「オレにはこの門は開けられないんだ」
「どゆこと?」
「魔道的にロックがかかってるんだ。カギがないと絶対に開かないと聞いた」
「そーなんだ?」
いや、べつに恐縮しなくたっていいんだが。
「中は立ち入り禁止なんだっけ?」
「立ち入り禁止だが、罰則があるわけじゃない。ユーラシア殿は飛行魔法が使えるんだろう?」
「うちの子が使えるんだ。あたしも飛べるアイテムを持ってはいるよ」
「柵を越えて入ればいい。柵の近くに危険な魔物がいるケースはまずない」
「おっちゃん、ありがとう!」
とゆーことは、ヴォルヴァヘイムもやはり真ん中近くに強い魔物がいるんだな?
バアルの言っていたこととも符合する。
となると魔境か『永久鉱山』かに近い仕組みなんだろう。
「おっちゃんは中に入ったことある?」
「宮廷魔道士のチェックで門が開けられた時、近くだけだがな。柵の外と変わらんよ」
「あたし達はそろそろ行くけど、おっちゃんも来る?」
「いいのか?」
「もちろん」
だってすげー行きたいオーラが出てるもん。
守衛としてヴォルヴァヘイム内部のことを知ることも有意義だと思うしな。
「ずっと門の前に立ってなさいっていうお仕事じゃないみたいだし」
「まあ柵か門に破損がないかチェックしろというのが本来の任務だからな。実力もないのに中に入ろうとする愚か者は滅多におらん」
「じゃ、いいじゃん。あたし達もガイドがいるとありがたいし」
「言うほど中のことは知らないぞ?」
細けえことはいーんだよ。
楽しく行こうぜ。
「じゃ、クララ、お願い」
「はい、フライ!」
「これが飛行魔法か! 感動だ!」
ゆっくり移動し、柵の内側にフワリと着地する。
「なかなか心浮き立つアトラクションだな!」
「おっちゃんわかってるなー」
嬉しくなってくるわ。
世の中には飛行魔法の楽しさを理解できない人もいるからなー。
楽しませ甲斐がある。
いずれ高速『フライ』も体験させてやりたい。
「早速ヴォルヴァヘイム内部のこと教えてよ」
「うむ。地図を見てわかると思うが、ヴォルヴァヘイムは直径約強歩二日のほぼ円形のエリアなんだ。初めて柵で囲われたのは五〇〇年以上昔と言われている」
「へー、そんな昔から恐れられてたんだ」
「外縁部に強い魔物がいるわけではないが、弱い魔物でも市民にとっては脅威だからな」
ごもっとも。
強い魔物はおそらく魔力濃度の低い外縁部には来ないと思う。
柵は弱い魔物を外に出さないために設置されたってことか。
「柵から垂直方向に向かえば中心部があることになる」
「ふんふん、了解でーす」
「ただし、中心部まで到達した者はいないんだ」
「ドーラでも魔境中央部まで探索する物好きはほぼいないもんなー」
「魔物が強いからな」
障気を発する毒の沼が広がってるとかだと行くの嫌になっちゃうけど、魔物が強いだけならどうってことはなさそう。
でも中央部まで行こうとすると、強歩一日もある勘定か。
中のこと何にも知らんのに飛んでいく法はさすがにないので、ま、今日は一応中央部の方向に向かってウロウロするだけだな。
「どんな魔物がいるのかな?」
「外縁部は本当に様々だ。スライム、魔獣、植物系、昆虫系、ゴースト、亜魔族、人形系と一通り出現する。少し中に行くと巨人や飛竜の類がいるというな」
お約束なので一応聞いておく。
「ドラゴンは出ないんだ?」
第2000話、感慨深いです。
残り453話です。