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第1966話:新旧『アトラスの冒険者』

 フイィィーンシュパパパッ。


「やあ、ユーラシアさん。今日もチャーミングだね」

「ポロックさん、こんにちはー」


 開拓地から帰宅後、魔境へ行ったりぴー子にエサをやったりしてからギルドにやって来た。

 自分で言うのは何だが、実に働き者だこと。

 毎日が楽しい。

 

「今日は皆で来たんだね。昼食かい?」

「鶏の香草炙り焼きの香ばしさがあたしを呼ぶんだよ」


 アハハと笑い合う。

 ギルド食堂の鶏の香草炙り焼きの正体がニワトリではなく、洞窟コウモリだと教わったのはポロックさんからだった。

 看板に偽りありも極まれりだが、メッチャ美味いから誰も文句言わないよな。

 教えてもらったのは初めてギルドに来た日だったか。

 懐かしい。


 少し声を落とす。


「……もう大分『アトラスの冒険者』廃止について知ってる人多いんでしょ?」

「上級冒険者は全員知ってると思うね」

「それに関連して注意して欲しいことがあるんだ。おっぱいさんに話しとくから、あとで聞いてね」

「わかった」


 ギルド内部へ。


「御主人!」

「ゆーらしあさん!」

「よーし、いい子達だね」


 飛びついてきたヴィルとポーラをぎゅっとしてやる。

 可愛いやつらめ。


「ポーラお腹減ってない?」

「へってるでつ!」

「あたしは少しサクラさんと話があるんだ。その後に食堂行くから、注文して席取っといてくれない?」

「わかったでつ!」

「鶏の香草炙り焼きを五人分お願い。ポーラも好きなもの注文していいよ。これお金」

「ありがとうでつ!」


 先払いしとけ。

 さりげなくポーラを追い払って依頼受付所へ。

 何かを察したかそれともポーラと一緒の方が楽しそうと見たか、ヴィルはふよふよポーラについて行く。

 うんうん、ポーラを構ってやっててね。


「こんにちはー」

「こんにちは、ユーラシアさん」

「おう、ユーラシア」

「あんたは嗅ぎつけてくるのが早いなあ」


 ツンツン銀髪とふてぶてしい笑いが標準装備のギルドのパパラッチ、ダンがいつの間にか近付いてきた。

 まあダンに知っててもらうのは好都合なんだが。


「美人絵画集第二弾帝国版が動き始めててさ。昨日帝都ナンバーワン踊り子の絵を描かせてもらったの」

「ほお?」

「すげえ美人で、サクラさんといい勝負なんだよ」


 何がいい勝負か言わないけど、ダンもおっぱいさんもわかるだろ。


「クソジジイも大喜びだったろ。本題は何だ?」

「鋭いね」


 内緒話モード発動っと。


「新『アトラスの冒険者』に切り替えの関係の話からね。転移の玉五〇セットは完成したよ。一セットはパラキアスさんに三万ゴールドで売ったから、残りは四九セット。職員さんと店主には無料で配るけど、冒険者には買ってもらう。その資金は新『アトラスの冒険者』運営の原資にする。ここまでいいかな?」

「販売価格は三万ゴールドなんだな?」

「基本小売り価格は三万ゴールドってことね。でも掃討戦のあったアルハーン平原のクー川より西の地区あるじゃん?」

「今移民のいるメインの開拓地だろ? 新『アトラスの冒険者』と何の関係があるんだ?」


 今話すってばよ。


「その移民からの要望で、魔物のいない地区を北に広げたいってことなんだ。木材資源を確保したいとかの理由で」

「なるほどな。もっともなことじゃねえか。で?」

「その計画に『アトラスの冒険者』を投入したい。これに参加してくれたら転移の玉は二万ゴールドにまける」

「なるべく参加させろということですね?」

「そうそう。移民は『アトラスの冒険者』との馴染みが薄いからさ。拡張計画をきっかけに知ってもらおうと思うんだ」

「あんたのやることにはムダがねえな」

「ないんだよ。廃止を冒険者に伝える日、飽魚の月の一日になるかな。新しい転移の玉配布と同時に拡張計画を発表予定ね」


 頷くダンとおっぱいさん。

 ダンとおっぱいさんが承知してりゃ、新『アトラスの冒険者』への移行と移民開拓地拡張計画への参加は問題ないんじゃないかな。

 よろしくお願いしまーす。


「で、ここから本題ね」

「おい、今までのは本題じゃなかったのかよ?」

「塔の村の精霊使いエルは、『アトラスの冒険者』のエンジェル本部所長の娘なんだ。エルの居場所がバレつつあるから、取り返しに来ると思う。おそらくエンジェル所長の『アトラスの冒険者』に関する権限がなくなる、飽魚の月末までのどこかで」

「「!」」


 これは予想外だろう。

 驚愕から立ち直ったダンが言う。


「……あんたは精霊使いエルを異世界に渡す気はないんだな?」

「ない。エルはエンジェル所長の子ではあるよ? 同時に父方、異世界の旧王族の血を引いてて追われる立場なんだ。幽閉されてたところを、塔の村のデス爺がそれとは知らずにこっちの世界に召喚したの。『精霊使い』の固有能力持ちが欲しかったから」

「……だからあんたは今まで、エルの話はほとんどしなかったんだな?」

「まあ。向こうの世界進んでるからさ。エルがいることで知識を得られるヒントになるかもしれないんだよね。有用ってこともある」


 警戒するおっぱいさん。


「異世界から攻めてきますか?」

「最終的にはおそらくね。でも所詮向こうは公務員であって軍人じゃない。魔物と戦い慣れてるこっちの冒険者と、ガチでぶつかろうとは思わないんじゃないかな」

「奇襲か?」

「可能性は一番高いね。奇襲して一瞬でもエルを捕まえて転移で連れ帰れば向こうの勝ち。ただその前に、こっちの『アトラスの冒険者』に接触してくるんじゃないかと思うんだ」

「内応の誘いですね?」

「スパイだね。現役の『アトラスの冒険者』がおゼゼで揺らぐとは思わないけど、君だけこれからも転移できるようにするよとか異世界の素敵アイテムをあげるよって言われたら、ぐらつく人もいそうじゃん? あり得ないから止めて」

「どうしてあり得ないってわかる?」

「だって『アトラスの冒険者』自体が、予算がないからとゆー建前でなくなるんだもん。例えば転送魔法陣を一ヶ月使わないと『アトラスの冒険者』をクビになって、魔法陣も転移の玉も使えなくなるじゃん? そーゆー切り替えしてる人員も装置を維持する予算もないんだぞ? 『アトラスの冒険者』廃止後も転移転送システムが使えるなんて絶対にない」

「素敵アイテムこそありそうな話じゃねえか」


 ダンがありそうと考えるのはわかるけどな?

佳境が近付く。

準備は怠りなく。

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