第1946話:怪しい儀式?
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーラシア様とヴィルではないですか。いらっしゃいませ」
「レダ、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
ゼムリヤから帰宅後、魔境で遊んでからモイワチャッカのぴー子にエサをやり、さらに魔王島へやって来た。
言葉で書くと忙しそうだけど、あたしはいつもこんなもんだ。
勤労精神溢れるウルトラチャーミングビューティーだから。
「ドーラは残念ながら雨降ってきちゃったんだ」
「だから魔王島に遊びにいらしたんですね?」
「まーそう。漂着民の皆さんがしっかりやってるか、様子を見にきたっていう名目はあるけど」
「名目だけだぬ!」
アハハと笑い合う。
ヴィルの間は絶妙だなあ。
「どーかな? レダから見て、漂着民に問題点ありそう?」
「特には。魔物については高位魔族によるガードが完全です。住民に危険はありません」
「うんうん、バッチリだね」
「魔王様がユーラシア様に感謝しているのです。パワーカードのおかげで、魔物駆除が大変楽になったと」
「こっちも漂着民を守ってくれてありがたいからいいんだぞ? また何か欲しいものがあったら相談してね。手に入れてくるか、もしくは悪魔でも買えるように都合つけてあげるから」
「ありがとうございます」
悪魔だってお客さんだ。
経済活動に組み込んでやりゃいいのだ。
あ、漂着民頭ザップさん来た。
「やあ、あんたか」
「そうそう、ドーラの超絶美少女精霊使いこと、ウルトラチャーミングビューティーユーラシア」
「ウルトラチャーミングいい子ヴィルだぬ!」
「名乗りがくどくねえか?」
「くどいところまでエンターテインメントとして消化してよ」
ムリヤリエンターテインメントはひとまず置いて。
「今日は皆が火を焚いて何やってるのかな? 怪しい儀式?」
「違えよ! 海水を煮詰めて塩を作ってるんだよ!」
「おおう、塩作りだったか。弧海州の美少女召喚の火祭りかと思った」
「そんなものはねえよ!」
まあ塩は重要だからね。
いずれ天日干しで作るようになるんだろうけど。
当座の間に合わせにはしょうがない。
「あなたのお悩みはなんですか? コンダクターユーラシアが話を聞くよ」
「コンダクター?」
「コンダクターじゃなかったか。コンストラクター?」
「コンサルタントじゃないぬか?」
「そーだ、それだ。ヴィルいい子! ぎゅー」
「ふおおおおおおおおお?」
「全然話が進まねえじゃねえか」
だからエンターテインメントとして消化しろとゆーのに。
ゼムリヤではややシリアスの場面ばかりだったのだ。
笑いに飢えてる乙女心を察しろ。
掛け合い潤い忍び愛。
関係ないか。
ザップさんが言う。
「で、魔王島での生活はどうなのよ? 聞きたいど真ん中の部分はそこだわ」
「悪魔達はよくしてくれるぜ。当面の問題は食料だな」
「お土産にお肉持ってきたから食べてね」
「おっとすまねえな。催促したわけじゃねえんだが」
「いいんだぞ? お肉は愛で正義で平和の象徴だからね」
「そういや先日、悪魔がキメラの幼獣を一頭くれたんだ」
「キメラはおいしいよね」
「ああ、グロテスクな外見からは考えられないくらい美味かったぜ」
「で、全然話が進まないんだけど」
睨まれても、あたし関係ないじゃないか。
今のはあたし悪くなくない?
「問題は農作物だな。冬が越せるかってことなんだが」
「冬越しは確かに不安だな。レダ、魔王島は冬そんなに厳しくないよねえ?」
「はい。ドーラのノーマル人居住地区と同じくらいだと思います」
「じゃあ冬でも全く作物が取れないってことはないな。といっても冬越しの貯蔵は大事だけど。作物の種は何を持ってきたの?」
弧海州の食料事情がわからん。
「小麦、トウモロコシ、大豆、あとはイモ類多めだな」
「普通だね。でも野菜がないのか」
「漂流中の食料も兼ねてたんでな」
「あ、なるほど」
野菜も積んでたんだろうけど、種は持ってなかったんだろう。
「植えつけ種蒔きの時期としては遅いだろう?」
「うーん、大豆は大丈夫でしょ。トウモロコシとサツマイモもギリギリイケると思うし。種の量がどんだけあるか知らんけど」
「一年通して育ててみないと収量の予測がつかねえ。秋に小麦を蒔いて、来年初夏に収穫できるまでは気を抜けないな」
「うんうん、わかる。弧海州の人は魚を食べないんだ?」
「食うぞ。むしろメイン食材だ。しかしオレ達は町に住んでたんで漁業には詳しくねえんだ。釣り道具も漂流中に失っちまったし」
ふーむ。
じゃ、基本通り農業に力を入れるべきだな。
「これあげる」
「何だこれは。野菜か?」
「クレソンだよ。繁殖力が強くて、水のあるところならメッチャ増えるんだ」
「この前言ってた、やたらと増える食べられる野草ってやつだな?」
「そうそう。冬でも枯れなくて年中食べられるから、ぜひ活用してよ」
「おお、助かるぜ!」
多めに持ってきた。
水辺に挿しときゃ、今の時期なら一ヶ月でわっさわさだろ。
「ごめんよ。ドーラも今移民が一杯来ちゃっててさ。結構食料事情が切迫してるんだ。皆が食料増産に励んでるところなの。もうちょっと落ち着いたら、有用な植物とかニワトリとか持ってきてあげられると思うから、それまで頑張って」
「いやいや、見ず知らずのオレ達のために色々してくれてるじゃねえか」
「いいんだぞ? あたしはカル帝国とガリアでは公認の聖女だからね」
「何だそれ? 胡散臭え!」
胡散臭いゆーな、失礼な。
聖女はマジだとゆーのに。
もっとあたしを崇めろ。
「付近の草木で使えるやつ食えるやつがあれば知りてえな」
「あいにくと魔王島の高位魔族には、植物に詳しいものがおりません」
「うちに植物図鑑を暗記してる有能な子がいるわ。今度連れてくるね」
「すまねえな」
「もしドーラに導入したい植物があったら、あたし達も欲しいんだよ」
魔王島の植物は調べてなかったしな。
ドーラに気候が近いので、魔力条件の問題がなければすぐ導入できそう。
ちょうどいい機会だ。
今度クララに調べてもらおう。
「じゃ、あたし達は帰るね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
あれ、やっぱり魔王島もクエストだったみたい。
しかもまだ続く気配があったのにここで完了か。
完了条件は行った回数だったかもしれないな。
魔王島コロニーはドーラの経済圏に含めたい。
一人『アトラスの冒険者』がいれば、ドーラで売り買いできるだろ。
転移石碑を設置してもいい。