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第1944話:ラッキーを生かす

 メルヒオールさんが提案する。


「歩きながらユーラシアの話を聞こうではないか。街道も見てもらった方がわかりやすかろう」

「りょーかーい」


 街道を南へ。

 基本的に登りの山道だな。

 整備すれば荷車がすれ違えるくらいの幅は十分に取れる。


「ユーラシアの話の続きだが、サービスしてやるとは?」

「言い方を変えると、常に相手に貸しを作っとくの。物事やろうとする時には、もっともな理由があるはずじゃん?」

「当然だな」

「でも警戒されてると、理由すら聞いてもらえないんだよ。どんなにメリットがあると思われることでもだよ? あたしの言うこと聞いとくと得だぞーって普段から思わせとくと、何かやる時皆が協力してくれるの」

「ふむ?」

「でも貸しを作れるような場面が転がり込んでくるのは、あたしの運がいいからかもしれないな」

「例えばヤマタノオロチ退治も、ユーラシアは一種の貸しと考えてるんだろう? ユーラシアにしか解決できないことだ。実力があるからだ」

「その実力も『アトラスの冒険者』になれた運があったからなんだよね」


 これは本当にツイてたとしか言いようがない。

 しかも『アトラスの冒険者』廃止の一年前だもんな。

 ちょっと遅れたらあたしは何もできなかった。


「せっかく掴んだラッキーじゃん? あたしはラッキーを生かすんだ」

「それだ!」


 えっ、何ぞ?


「ユーラシアと知己になったのはラッキーだ。機会を生かさぬのは賢いとは言えぬ。どうだ、ウルリヒ殿」

「そうですな。俺もユーラシア君の案に積極的に乗ってみます。もう迷わない」

「何の話だ?」


 ウ殿下も知らなかったか。

 地図で言うとこの辺。

 ウルリヒさんの領地のキールという港町を帝国直轄領にする代わりに、どこの国の領土でもない北側周辺領域をどうこう。

 メルヒオールさんが感心する。


「ほう、重要な貿易港と引き換えにか。随分と思い切った計画だな。驚いた」

「帝国全体としてもウルリヒさんにとっても得だから」

「……うむ、損にはならんだろうな。しかも政府に貸しを作れる。いかにもユーラシアらしい、大胆なアイデアではある。ウルリヒ殿はこの案に乗ってみると?」

「はい。長期的に見れば絶対に大きな得になると見ました」


 大きく何度も頷くウルリヒさん。


「閉塞していた我が領を変える千載一遇の機会だ!」

「だったらフェルペダ行く時に閣下も連れてった方がいいよ」

「ドミティウスを? ……なるほど、田舎領主が下らぬ画策をしていると、政府に勘繰られることがないようにか」

「うん。変な横槍が入って改革のスピードが落ちると迷惑。それにキールが帝国直轄領になるのはどういうことかっていう、政府側の説明もフェルペダは欲しがるでしょ?」

「ユーラシア君だって政府の役人じゃないか」

「そりゃそーだけど、あたしじゃネームバリューが軽過ぎるんだってば」


 あたしは自分の聖女的な影響力のことはよく知ってるけれども、政治家としての影響力なんかないわ。

 単なる使いっぱしりだわ。

 現在の職務上の地位としてはあたしとドミティウス閣下は同格ではある。

 でも向こうさんがどっちを信用するかと言うことになれば、前主席執政官で先帝の第二皇子である閣下だ。

 今後フェルペダとも関わりが深まることが予想されるから、説明責任もしっかりしとかなきゃいけないからね。


「ふむ、ドミティウスに頭を下げるのは癪だが仕方ない。しかしあいつが素直に同行するだろうか?」

「最初にルーネを誘っといて、閣下も行くかって聞きゃいいんだぞ?」


 ルーネは間違いなく行きたがる。

 だったらお父ちゃん閣下だって行くって言うに決まってる。

 何のエサかも確認せずに食いついてくる魚みたいなもんだわ。

 頭下げて頼む必要なんかありゃしないわ。


「ハハッ、ユーラシアの人間操縦法は名人芸だな」

「そんなんじゃないってば。でもマジで全然魔物いないね」


 結構歩いたけど、魔物の気配すらしない。

 メルヒオールさんが言う。


「土が剥げているな。これが聖モール山越え街道の、ゼムリヤ側で用いている魔物除けだ。二〇ヒロ間隔で埋めてある」

「どらどら? あ、結構な効果だね。随分大きいけど、運んで埋めるの大変だったんじゃない?」

「この術式の効果は大きさに比例だそうだ。安全には代えられないからな」


 魔物除けのケイオスワード文様を彫り込んだ焼き物だ。

 グロちゃんの魔物除けよりずっと効果は大きいだろう。

 ドーラ西域街道に埋めてある魔除けの基石がこれくらいの効果かもしれない。

 

「大した魔物いない、生息密度も高くない。で、この魔物除けが二〇ヒロ間隔だったら、ドーラの西域街道よりずっと安全だろうなあ」

「ドーラの西域街道とは危ないのか? フィフィリア嬢の本に結構な魔物三体に追いかけられたというエピソードがあったが」

「いや、人通りも結構あって、普段は魔物なんか出ないんだよ。出たとしても、せいぜい弱い昆虫系か植物系、スライムくらいなんだそーな。レベル二〇あっても勝てないような草食魔獣の成獣三体に襲われるなんて、例がないって言ってた」

「マッドオーロックスだったか。香水が危ないと?」

「検証はしてないけど多分そーかなって……ウルリヒさん、随分と読み込んでるね?」

「うむ、大層面白い」

「めちゃんこ売れてるみたいなんだ。じっちゃんにもあげるよ」

「すまんな」


 宣伝宣伝っと。

 ウ殿下が難しい顔をしている。

 ウ殿下も欲しかった?


「ドミティウス兄上は、ユーラシアにとって敵なのだろう?」

「ドーラ独立の時の話か。いや、敵とは思ってないよ」

「兄上はドーラに攻め入ろうとした」

「殿下は結構調べたみたいだね。人間も国も、そん時の立場とか考え方ってものがあるじゃん? 閣下には閣下の理想があって、ドーラをああしたいこうしたいっていうプランがあったんだろうから」

「ドミティウス兄上のプランと対立したんだろう?」

「そりゃドーラ人にとっては知ったこっちゃないねえ。でも終わったことだからいいんだぞ? ドーラの発展には帝国が必要なの。権力者とは仲良くしたい」


 ウ殿下納得いかんって顔してるけど、大事なのは現在と未来なのだ。

 過去はどうでもいい。

 拘ってもお腹の足しにならない。

 独立後のドーラに反帝国感情がないのは、今後の発展における最大の要因かもしれない。

過去味方か敵かってことより、信用できる人かできない人かってのが重要。

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