第1928話:降格?
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、ユーラシア君いらっしゃい」
行政府に来たら、大使室の方に通された。
在ドーラ大使のホルガーさんと衛兵長のおっちゃん、文官が三人とアドルフ、パラキアスさんとオルムスさんと小さな男の子が一人。
クリークさんマックスさんは引継ぎが終わって別部署に異動かな?
まあジーク君とレノアの親だから、会えなくなるなんてことはないだろ。
で、このヴィルくらいの男の子は?
「衛兵長のおっちゃんの息子さん?」
「そうだ」
「可愛いね」
「可愛いぬ!」
「お父ちゃんに似なくてよかったねえ」
「よかったぬ!」
「何がいいのだ!」
アハハ。
目鼻立ちよく似てるからわかったんだってば。
男の子が言う。
「あの、ヤマタノオロチたいじのゆうし、ユーラシアさんですか?」
「ヤマタノオロチ退治の聖女ユーラシアだよ。よろしくね」
「ほんもの?」
「本物だとゆーのに。精霊がついてきてるだろーが」
「はじめておとうさんをそんけいしました!」
どうやら今朝パラキアスさんの言ってた、あたしに会いたい人というのはこの子らしい。
お父ちゃん衛兵長の手引きであたしに会えたからお父ちゃんを尊敬する、という意味らしいが……。
「どゆこと? まあ衛兵長のおっちゃんはラグランドに単身赴任だったから、息子さんとのふれあいが少ないってことまでは理解してるけど」
「おとうさんはこうかくされたと、おかあさんがいうのです」
「降格? 何で? 根拠は?」
「ぶかのかずがへったからだと……」
「あっ、なるほどごもっとも。でもそれは大きな勘違いだぞ? お母ちゃんに伝えといてくれる? 前任の在ドーラ大使であったプリンスルキウスが、駐在武官の数はいらないって進言してたんだ。文句があるなら皇帝陛下に直接言いなさい」
文官の一人が噴き出す。
笑いの沸点低い人だな。
「ドーラはいなかだと……」
「田舎には違いないけど、今後急速に発展する国だぞ? カル帝国にとっても重要なパートナーとなるんだ。だからホルガーさんみたいな優秀な人が大使として送られて来るんだぞ?」
「じゃあおとうさんもすごいひと?」
「そこまでは保証しないけれども」
「もう少し頑張ってくれ!」
「保証しないぬ!」
大笑い。
「まーでもお父ちゃんはホルガーさんがラグランド総督だった時、大過なく衛兵長を務めたじゃん? だから続いてドーラに派遣ってことになったんだと思うぞ? 降格でも左遷でもないから心配すんな」
「はい!」
この子はこれでいいけど、お母ちゃんが鬱気味なのかな?
チラッとイシュトバーンさんを見る。
クリークさんマックスさんの時みたいに、新聞記者に記事にしてもらってよ、わかったぜというやり取りを目で行う。
「でもおとうさんはしごとをしていないのです」
「えっ? 何でそう思うの?」
「ドーラはまものがたくさんとききました。おとうさんはまものとたたかっていません」
「すげえ理解の仕方だな。さすがにドーラでも部屋の中には魔物出ないわ」
大使付き駐在武官の仕事は大使の護衛だわ。
魔物と戦うことじゃないわ。
そしてドーラは魔物が多いってことを、誰かに吹き込まれてるんだな?
この子はまだ『輝かしき勇者の冒険』を読める年齢じゃないと思うけど、ドラゴンとかも好きなのかもしれないなあ。
ホルガーさんとパラキアスさんが意味深な目をしている。
何々? 衛兵長さんが家族をドーラに連れてきたはいいが、どうやら奥さんが愚痴ばかりのようだ。
何とかならないかって?
家族連れてこいって言ったのあたしだしな。
仕方ない。
「あんたの名前は?」
「ハリーです」
「ハリーとお母ちゃんは明日時間あるかな?」
「あるとおもいます」
しからばあたしが衛兵長のおっちゃん一家をあちこち連れ回して、気分転換させてやりゃいいな。
「ホルガーさん。明日衛兵長のおっちゃん借りていいかな? 各地を案内してくるよ」
「出張扱いにしておきますので、よろしくお願いしますぞ」
「おっちゃんとこの家族、明日一日あたしが預かるからね。朝九時に行政府前にいてよ」
「あ、ああ。何をするつもりだ?」
「どうやら魔物を見ないと納得できないみたいだから、見物させてあげるよ」
「危険なことはないだろうな?」
「うちの子は蘇生魔法使えるから大丈夫」
あれ、皆すげー不安そうな顔だ。
あたしはいつもジョークのつもりで蘇生魔法って言ってるのにな?
どーも笑いのツボがずれているようだ。
パラキアスさんが言う。
「魔物退治について、ユーラシアのパーティーが世界一であることは間違いないですよ」
「そうそう。ヤマタノオロチくらいまでなら危ないことない」
文官の一人が言う。
「そういえばユーラシア殿はヤマタノオロチ退治の時、新聞記者を連れていったのでしたか?」
「うん。でも退治に行く前はキングヒドラだって話だったんだよね。知ってる魔物だからどうってことないわと思ってたんだ。ヤマタノオロチは見たことなかったから、あらかじめ神話級の魔物だって知ってたら記者さん達は同行させなかったと思う」
あたしは慎重派なので危ないことはしないのだ。
さりげなく無謀じゃないアピールをしとく。
ムダな抵抗はやめろって?
いや、計算高いあたしが、勝利の方程式が立たないことはしないとゆーのは本当だわ。
「結果として誰も傷つかず討伐を成功させた」
「そりゃ勝てる見込みが立たないのに戦ったりしないわ。冒険者は勝ちやすきに勝つんだよ。余裕を持って戦うために、レベルを上げて注意力を磨くの」
「しかしあんたは初めてドラゴンと戦った時は、魔宝玉に目がくらんだからなんだろう?」
「もーせっかくいい話してたのに、イシュトバーンさん混ぜっ返さないでよ」
「有名な話だぜ」
「もっとマシな話を有名にして欲しいなあ」
笑いが出る。
ドラゴンだって勝てないと考えたら戦ったりしなかったわ。
見た感じで察せられる彼我の強さと装備品から、十分な勝ち味があったわ。
せっかく衛兵長のおっちゃんの信用を回復させてやろうと思ってたのに、こっちの信用まで失うところだったよ。
「『ウォームプレート』と『クールプレート』を納品しますので確認お願いしまーす! 『ホワイトベーシック』を売った割増金もありまーす! 最後にお昼御飯を寄越せとお腹が要求していまーす!」
衛兵長のおっちゃんもラグランドでは色々してきたけど、帝国に対する忠誠度が高いことには違いない。
ドーラでもしっかり働け。




