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第1921話:リリーとヘルムート君

 隻腕の傭兵隊長カムイさんが呆れたような顔をしている。


「……まさかすぐにドラゴンを持ってくるとは思わなかったよ」

「ちょっとしたサプライズだよ。でもすぐじゃないし。二時間も経ってるじゃん。モイワチャッカの人の時間感覚はわからんなー」

「わからんぬ!」


 しばしの魔境探索の後、再び『傭兵』の転送先に戻ってきた。

 レッドドラゴンの頭と尻尾を持参したが、ぴー子は食べてくれるだろうか。


「ぴい!」

「やたっ! 喜んでる喜んでる!」

「皮の方は人間様がありがたく頂戴する」


 皮の使い方は学べるところがあるかもしれないな。

 何に利用したかはまた教えてもらお。

 

「うーん、頭は食べづらそうだね」

「いや、しかし目は好きみたいじゃないか」

「目をつついて食べてるのは見た目がえぐいな。まー柔らかくておいしいのかもしれんけど」

「硬い角や牙は使えるかもしれんから取っておこう。次があるなら可食部の首を長めに持ってきてくれ」

「オーケー」


 デカダンスも仕留めたのだが、さすがに持ってこられるサイズじゃなかった。

 人形系はバラして運ぶのに抵抗があるしなあ。

 ドロドロになっちゃうから。

 丸ごと運べるやつじゃないとアカンわ。

 クレイジーパペットやブロークンドールを狩った時に考えよう。


「じゃ、また時々来るよ」

「ああ、助かる」

「バイバイぬ!」

「ぴい!」


 ハハッ、ぴー子が挨拶してくれるわ。

 可愛いやつめ。

 エサを楽しみにしててね。

 転移の玉を起動し帰宅する。


          ◇


「塔の村のコルム兄んとこ行ってくるね。もう今月分の『ウォームプレート』と『クールプレート』ができてるかもしれない」

「はい、行ってらっしゃい」

「行ってくるぬ!」


 アルアさんの工房ではもう完成してて受け取ってきた。

 行政府にもなるたけ早く持ってってやった方がいい。

 貿易商がいつ来るかわかんないからな。


 フイィィーンシュパパパッ。


「おお、久しぶりの塔の村! 懐かしさに涙ちょちょぎれる!」

「四日前に来たばっかりだぬよ?」

「あはは、それもそーだ」


 ヴィルがキッチリとツッコミ役をこなしてくれるようになったなあ。

 とってもいい子。

 ぎゅっとしたろ。


「眩しいハゲがいるぬよ?」

「今日デス爺には特に用はないんだけどな。あ、リリーもいるね。挨拶だけしてこようか。ハゲには物申せっていう諺があるし」

「そんな諺はないぬよ?」

「よしよし、ヴィルはいい子だね。おーい、じっちゃーん!」


 今日のヴィルはツッコミ上手。

 デス爺リリー黒服のところへ。


「何じゃ、お主はいつもいつも騒々……」

「ユーラシア、聞きたいことがあるのだ」

「おお? 被せてきたね。どうしたの?」


 ためらいがちなリリー。

 鋭いあたしはピンときた。

 これは間違いなくラブい話だ。

 とすると……。


「残念ながらヘルムート君は舞踏会に参加しないと思うがな?」

「何故我の言いたいことがわかるのだ!」

「わかるわ。あたしのラブセンサーをバカにすんな」


 宥めるように黒服が言う。


「お嬢様。ヘルムート様は先日の葬儀と即位式にもおられませんでしたし」

「領地のガータンを抜けられないんじゃないかな。いや、本当に舞踏会に出ないかはわかんないよ? あくまで状況証拠と、ヘルムート君が帝都にいるって話が出なかったことから」

「そうか……」

「ガッカリすんな。調べたげるよ。ヴィル、フリードリヒさんと連絡取ってくれる?」

「わかったぬ!」


 掻き消えるヴィル。

 呆れたようにデス爺が言う。


「驚くほど展開が早いの」

「あたしはムダなこと嫌いなんだよね。花の命は短くて」

「ヴィルもお主の命令に即応ではないか」

「ヴィルはためらったりしないな」


 多分すぐ私の言うことを聞いた方が、いい感情を得られると考えてるんじゃないかな。

 ヴィルの判断は正しい。

 赤プレートに反応がある。


『御主人! フリードリヒだぬ!』

『ユーラシア君だね?』

「そうそう、ドーラに咲く大輪の花ことあたし。忙しいとこごめんね」

『何か用かい?』

「ヘルムート君って明日の舞踏会出るのかな? ヘルムート君が出席するなら出ようかなっていう、リリーの心の声が聞こえるの」

「ユーラシア!」

『ハハッ、参加するつもりのようだよ』

「あれ、意外だね?」

『ヘルムートも新領地が大事な時だ。収穫期が過ぎて落ち着くまではガータンを空けたくないとは思う。しかし遠隔地でもないのに、即位式も舞踏会も両方欠席では忠誠を疑われるからね。帝都に出てきて数日は滞在するよ』


 なるほど、新皇帝プリンスルキウス陛下に配慮しなきゃならんとゆー事情もあるのか。

 人間関係は大事だもんな。


『まだこちらに到着してはいないが、先触れはあった。ついでにタウンハウスの購入など、帝都で行えることはしていくと』

「あ、まだ帝都のお屋敷がないからか。わかった。フリードリヒさん、ありがとう!」

『リリー様によろしくね』

「ヴィルもありがとう。こっちに戻ってきてくれる?」

『はいだぬ!』


 赤プレートをしまってと。


「リリーよかったね。ヘルムート君舞踏会に出るって」

「そのヘルムートという御仁が?」

「アーベントロート公爵家当主フリードリヒさんの次男で、本人も男爵。リリーの旦那さん候補ナンバーワンだよ。ヘルムート君の山賊にも市民権を与える施策は、新皇帝プリンスにも注目されているんだ」

「ほう。おめでたいことじゃな」


 ハハッ、リリー否定しやしねえニヤニヤ。


「リリーは舞踏会参加するんでしょ? あたしもなんだ」

「ユーラシアが? どうしてなのだ?」


 実はルーネのデビューがお父ちゃん閣下の思惑でぎっくり腰が何だかんだ。


「お主はダンスなぞ踊ったことがないじゃろ?」

「練習した。ドーラの山ザルには似合わねえと思ったんだけど、やってみると案外面白かった」

「男性パートなのか?」

「驚きの男性パートなんだよ。閣下ったら仮面でこのプリティフェイスを隠せって。ひどくない? 世界の損失だよねえ」

「顔を隠してもわかるものにはわかるであろ? 余興の一種なのではないか?」

「余興かー。リリーも躍る時は注意した方がいいよ。はしゃいで自分のレベル上がってること頭から抜けると、パートナーにすげえ負担かけちゃう」

「うむ、十分気をつける」


 よしよしめでたし。


「じゃあ皇宮へ行こうか。ちょっと待っててね。コルム兄に用があるんだった」

リリーとヘルムート君はお似合いだ。

ガータンは黒妖石の産出地だから、いずれ転移石碑を設置しよう。

リリーも自由に飛べるようにしたろ。

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