第1878話:買う側と売る側のロジック
フイィィーンシュパパパッ。
ヴィルと塔の村へやって来た。
「光り輝くハゲを探すぬか?」
「いや、今日はじっちゃんに用がないんだ」
一昨日デス爺にサラセニア土産のお酒を渡したのは失敗だった。
まだ残ってるだろうから。
今日ドワーフから新しい転移の玉一〇個を受け取る日だが、チェックしてもらうのにほろ酔い加減じゃ信頼性がない。
転移の玉のチェックをエサにしてお酒を渡すべきだったな。
「コルム兄のパワーカード屋行くよ」
「わかったぬ!」
細い路地を通ってパワーカード屋へ。
「あれ、フィフィじゃん」
「あら貴方、御機嫌よう」
すっかり高飛車令嬢風味が抜けてしまったフィフィのパーティーがいた。
コルム兄が言う。
「フィフィさんのパーティーは、今日カードをお買い上げになると全員の七枚枠が埋まるはずだよ」
結構パワーカードにつぎ込んでるみたいだな。
まあ生活に不自由してないならいいか。
フィフィは毎日冒険者活動してるみたいだし、稼ぎも多いんだろ。
「おめでとう! 立派な冒険者だね」
「ありがとう存じます。ところで貴方、このカードの効果をどう思います?」
フィフィからパワーカードの相談か。
マジで一人前になったなあ。
えーと何々?
『流突六連』スキル:流突六連
スキルの『流突六連』は刺突属性の強攻撃を六発叩き込む、汎用のものでは最強のバトルスキルだ。
それを使えるようにしたパワーカード『流突六連』は強力ではある。
「あれ? 心当たりのあるスペックだわ。コルム兄、これってタッカー君の課題のカード? 定番カードのアイデアを出せっていう」
「知ってたのかい? 試作品でまだこれ一枚っきりなんだ」
「タッカー君に直接課題があるって聞いたわけじゃないけど、多分アレク~サイナスさん~あたしっていうルートで伝わってきたの。冒険者目線でこういうカードがあると欲しい人いるかもなって意見を、サイナスさんには言った」
「ユーラシアの意見だったのか……じゃあ売れそうだな」
いや、どーかな?
この『流突六連』というカードは欠点もあるからな。
「これを検討してるってことは、フィフィはアタッカーの決定力が欲しいんだよね?」
「そうですの。強敵相手に必要かと思って。でも『流突六連』のスキルスクロールはお高いでしょう?」
「『流突六連』はメッチャ高いよなー。一〇万ゴールド以上するんだっけ? 比較すりゃパワーカードはバカ安。値段分の価値は十分にある」
コルム兄ニンマリ。
しかしそう簡単に問屋は卸さない。
「欠点には気付いてる?」
「マテウスが教えてくれたわ。スキルを使わない時に恩恵がないと」
「うん。他のスキル付きのカード、例えば『サイドワインダー』や『ホワイトベーシック』には能力値補正があるけど、『流突六連』にはない。つまりスキルを使おうが使わなかろうが、装備枠を一つ埋めちゃうっていうデメリットがある。ってところをどう見るかなんだよね」
「し、しかし、強いスキルを持ってないルーキー冒険者には魅力的だろう?」
「ルーキーには『流突六連』撃てるほどのマジックポイントがないわ」
コルム兄はルーキーに売ろうと思ってたのかよ。
詐欺だぞ。
「普段使いのカードがあって、強敵と戦う際に装備を変えるっていう戦法はありだよ。ただし装備枠を占有する分、スキルを覚えてるケースには敵わない。でもさっきも言ったように値段分の価値は十分にある。それがこの『流突六連』っていうカードだよ」
「……難しいのね。貴方が私の立場なら『流突六連』のカード買います?」
「あたしは強敵と戦いたくて冒険者やってるわけじゃないもん。人形系倒すのにこんなカード必要ないよね?」
「それもそうねっ!」
「おい、ユーラシア! 営業妨害じゃないか! 大体『流突六連』は君の意見なんだろう?」
「あたしが思いつきで口走ったことを、工夫もせずにまんま採用するからだわ。どうする? こんな失敗作は特売にしちゃった方がいいんじゃない? 一〇〇〇ゴールドなら損はないでしょ?」
「くっ……じゃあ一〇〇〇ゴールドで」
「フィフィ、お買い得になったけどどうする?」
「買いますわ! 『流突六連』と『ニードル』一枚ずつ」
ハハッ、フィフィにサービスしたった。
でも『流突六連』は売り方に工夫がいるだけで悪いカードじゃないよ。
あたしが売る側だったら違うロジック使ってたわ。
「ユーラシアに騙されたような気がする」
「まあそう言わんと。あたしはコルム兄を儲けさせに来たんだよ」
「信じられない」
「『ニードル』『サイドワインダー』『アンデッドバスター』『スナイプ』『武神の守護』『サイコシャッター』『ホワイトベーシック』『遊歩』を一枚ずつちょうだい。代金一万三〇〇〇ゴールドね」
「えっ? 毎度ありがとう」
カードを受け取る。
「どうしたんですの? 一人分フル装備ではないですか」
「クエストでモイワチャッカっていう国に行く機会があってさ」
「モイワチャッカ? マテウス、知識を披露してもよくってよ」
このフリは久しぶりだなあ。
フィフィの執事は物知りだから、あたしにもためになるわ。
よく聞いとこ。
「遥か東にある小国で、国旗にガルーダが描かれています。面積はもとより人口規模でもドーラ以下です。三〇年以上にもわたって隣のピラウチ王国と紛争中であり、和平もままならないとか」
「モイワチャッカのタンネトという町で、片腕をなくした傭兵と会ってさ。パワーカードなら元のように戦えるってことで、お買い上げいただいたんだよ」
「へえ、いい話だね」
「かくして傭兵は再び人殺しの生活に舞い戻るのでした」
「ムリヤリ悪い話に!」
アハハと笑い合う。
「今のとは別に『スラッシュ』『スナイプ』『シールド』『ボトムアッパー』を五枚ずつちょうだい」
「……少し数が足りないな。明日でいいかい?」
「うん、これは急ぎじゃないから、多分明後日に取りに来るよ」
魔王島の悪魔達に支給するものだからいつでもいいのだ。
明後日にはデス爺の信頼性も回復するだろ。
「ねえ貴方。リリー様のお帰りはいつになるかしら?」
「あっ、聞いてなかったな。特に帝都で用はないはずだから、式が終わったらすぐ戻るんじゃないの?」
一応皇宮行ってみるか。
「じゃねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
売る側のロジック?
スキルスクロールとパワーカードの値段を比べりゃ一目瞭然でしょ。