第1862話:けっぱれ若人
――――――――――二八八日目。
「姐御、石板がありやす!」
「うわ、マジだ」
アトムダンテと海岸で素材その他のチェックをしていたら、新たな『地図の石板』が来ているのを発見した。
昨日ガリアから転移の玉で帰宅した際、クエスト終了のアナウンスがあったからもしやと思ったが。
「『ガリア・セット』のクエストはフィニッシュね?」
「そーゆーことになるね。新しいやつが来たかー」
たわわ姫クエストとサラセニアのクーデタークエストも終了したので、おっぱいさんに報告しとかないとと思っていたところだった。
昨日の四行詩の謎が『ガリア・セット』最後のクエストというのは、文学少女のあたしに象徴的なことではあるなあ。
しかしこのタイミングで新しいクエストか。
スケジュールが難しくなったな?
「朝の内に灰の民の村に行くのは決定でしょ? 次にギルドかな」
「新しいパワーカードが完成してるはずですぜ」
「あ、そーだった」
ヴィルに装備させる予定の対天使用のカードだ。
役に立たない方がいいものではあるが、備えをしておかないのはよろしくない。
昼以降は皇帝選の結果についてあちこちに連絡しないといけないと思うし……。
「アルアさんとこ行くのはギルドより前だな。まず家に帰ろう。至急クエストだったら灰の民の村のあとにすぐ行く」
「「了解!」」
◇
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「参上だぬ!」
「やあ、いらっしゃいお肉」
灰の民の村にクララの『フライ』でやって来た。
サイナスさんにバエちゃんみたいな挨拶で迎えられたぞ?
お肉が主役ではないとゆーのに。
「珍しいな。今日は全員で来てるのに、歩きではないんだ?」
「何となく気忙しいとゆーか本当に忙しいとゆーか」
「ハハッ、皇帝選の結果が出るとなると、ユーラシアでも気が急くのか」
「かもねえ」
新しいクエストが来ただけで、急に忙しくなった気がする。
至急ではなく、『傭兵』というものだった。
傭兵って、所属する団体をおゼゼで決める職業軍人のことだよね?
これまた転送先の名前だけからは内容のわからんやつだ。
想像の余地が多くてソワソワするなあ。
「アレク達は図書室だよね?」
「そうだよ」
「行ってくる!」
図書室へ。
◇
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユー姉」「姐さん」「ユーラシアさん」
「前途ある若人諸君! 元気かな?」
「ユー姉だって前途ある若人じゃないか」
「そーいえばそうだった。しかもピチピチだった。どうしてくれる」
「どうもしないぬ!」
朝から爽やかな掛け合いだ。
アハハと笑い合う。
ところでハヤテって若人なのかな?
精霊の年齢はわからんけれども。
「これ預けとくよ。アレクがいいか」
ペペさんの描いた『ビートドール』と『勇者の旋律』のケイオスワード文様だ。
「ドーラでの生産をお願いしたい」
「姐さん、話聞いてないか? 攻撃の魔法やバトルスキルのスキルスクロール生産は、緑の民の職人が難色を示しているんだ」
「聞いてる。その前にあたしの話を聞いてくれる?」
「「「うん」」」
「今ドーラで基本的な攻撃魔法や回復魔法のスキルスクロール作ってるの、デス爺だけじゃん?」
「だろうね。ペペさんが基本的なスキルのスクロールを作らないということならば」
「元々あまり需要のあるものじゃねえと思う」
「今までは『アトラスの冒険者』の本部のある異世界でスキルスクロールが作られて、こっちの世界でも販売されてたんだ」
「「えっ?」」
「だから需給バランスが取れてたってことがあるんだけど、『アトラスの冒険者』が廃止されるじゃん?」
「「えっ?」」
何のために転移の玉を作ってもらってるか、ケスとハヤテは気付いてなかったか。
「『アトラスの冒険者』は二ヶ月半後、飽魚の月末で廃止されるんだ。これまだ正式発表されてないから内緒ね?」
「「わ、わかった」」
「『アトラスの冒険者』経由でスキルスクロールを入手することはできなくなる。一方でドーラの人口はどんどん増加するから、スキルの需要は当然増えるね? さて、どうなることが考えられる?」
「……スキルスクロールの価格が上がる」
「そうそう、アレク正解。他にも偽物や不良品欠陥品が横行したり、スキルスクロールを巡って奪い合い殺し合いが起きるかもしれない。需給のバランスが崩れると社会が混乱するもんだ」
うちの子達まで含めて皆が頷く。
「でもあたし達にはスキルスクロール供給を安定させる手段があるじゃん?」
「緑の民の職人に作らせることだべ?」
「ハヤテ正解」
「しかし姐さん……」
「職人が言う、攻撃魔法売るのなんか世が荒れる元とゆーのは真理だと思うよ。でも緑の民が作んなくたって誰かが作るんだよ。だって需要があるんだもん。その誰かが作った品が、緑の民が作るスクロールより質が高くて適正な値段で管理された販売ルートに乗る確率って、どれくらいだと思う?」
「「「……」」」
真剣な面持ちのアレクケスハヤテ。
「帝国みたいに攻撃魔法の販売を禁止して、所持スキルを個人単位で登録させれば、スキルに絡む犯罪は無視できるレベルになるかもしれない。でもドーラには魔物がいるし、政府に国民全員を管理できるだけの統治機構がないじゃん。ならばドーラの実情に合ったシステムを構築するしかないよね」
「ユー姉が考えてるのは。緑の民に作らせて小売り販売者を限定するやり方ってこと?」
「基本はそうなるのが望ましいね。よろしく頼むよ」
「「「えっ?」」」
えっ、じゃねーわ。
アレクまですっとぼけたような反応すんな。
「おいら達が緑の民と交渉するのかい?」
「あんた達がドーラのスキルスクロール生産を仕切ってるからね。こーゆーどっからどう切り取っても利点しかないものは説得簡単だから、練習だと思ってやってみなさい」
「わ、わかった」
「むしろ緑の民みたいに、危険さをわかってる人達が生産担当の方がありがたいわ」
「よくわかるべ」
「でしょ? 攻撃魔法の輸出禁止とか、横流し等の違反した時の罰則を条件に盛り込むとか。全然構わないからね。行政府と交渉が必要なら付き合ってあげるよ」
よしよし、やる気が出てきたようだ。
男の子はこうでなくちゃいけない。
「じゃ、あたし達は帰るね。けっぱれ若人」
「けっぱるぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
慈愛の目で若人の成長を期待するあたし聖女。




