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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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1842/2453

第1842話:真に欲しいもの

 フイィィーンシュパパパッ。

 昼御飯を食べに海の王国にやって来た。

 雨が降ったら海底でお肉。

 これがうちのルール。


「よーし、いくぞお!」

「ファストシールドぬ!」

「グオングオングオングオングオングオーン!」


 ヴィルが盾の魔法を唱えたのを確認して銅鑼を叩き鳴らす。

 いつものように真っ先に転げ出てくる海の女王。


「待ちに待っていた肉だな!」

「待ちに待たれていた肉だよ」

「やったぞよ!」


 ヒラヒラと舞い踊る女王。

 優雅だなあ。

 同じお肉の舞いでも、シャープなバエちゃんの小躍りとは趣きが違うわ。

 えっちらおっちらお肉を運ぶ衛兵達を見ながら女王が言う。


「雨だからおんし達が来るだろうとは思っておった。が、今日はやや時間が早いの」

「今日はサラセニアって国でイベントなんだ」

「ほう、サラセニアとな?」

「午前中に行って帰ってきたところなんだけど、まだ完全に終わったわけじゃなくてさ。御飯食べてからもう一度様子を見に行かなきゃいけないから、ちょっと早めなんだ。ごめんね」

「構わぬぞよ。肉に罪はない」


 そりゃそーだ。

 絶対正義のお肉に罪を問うてはいけない。

 席に案内される。


「ところでサラセニアとは何ぞ?」

「あ、興味ある?」


 女王もドーラ近海からせいぜいちょっと沖くらいしか行ったことないのかもしれないな。

 外国のことは興味があるかもしれない。

 ナップザックから地図を取り出す。


「ここがドーラであっちが帝国でしょ? サラセニアがそこ」

「ふむ、遠い。おまけに小さい国じゃの」

「面積はね。でもノーマル人人口はドーラの何倍かあるんだよ」

「何、そうなのか?」


 女王驚いてら。


「帝国の人にも驚かれたことがあったな。ドーラはもっと大きい国だと思ってたって」

「ドーラのノーマル人人口はどれくらいなのじゃ?」

「ちょっと前まで一〇万人くらいだって言われてたんだ。南部の人口が割とあるってことがわかったから、もう少し多い感じかな。でも一五万人を超えることはないよ。一二、三万人だと思う」

「一二、三万人か。ふうむ、大した規模だと思うが……」

「大きい商売をするためには人口が必要なんだよなー。お客さんがいないと売れないじゃん?」

「まさにそうじゃな」


 あ、女王が商売人の表情だ。

 サラセニアって聞いて、貿易相手国になるか気にしてたのかな?

 ガリアまでは将来貿易相手になる可能性があるかもしれないけど、テテュス内海諸国はムリだろうなー。

 

「ドーラは面積があるじゃん? 水さえ引ければ気候も農業向き。魔物がいなきゃ多分何千万人も住めるんだよね。発展の余地はすごくあるの」

「海の産物も買ってくれ」

「もちろんだよ」


 海の一族とは住む場所でケンカすることはない。

 ただドーラ近海の自由航行権が欲しくて、魚人と争うノーマル人が将来的に出てくるかもしれない。

 でもやりようだと思うんだよね。

 ドーラの海は魚人によって守られているとも言えるんだから。

 満足してもらいたいものだがなあ。


「肉が来たぞよ」

「やたっ! いただきまーす!」


          ◇


「ごちそーさまっ! もー入んない!」


 女王とヴィルがゴロゴロのたうち回っている。

 床がテカテカだとゆーのに。


「はあはあ、肉は最高じゃの!」

「皆で食べると特においしいわ。今のところ炙り焼きフルコンブ塩が最高だね」

「そうじゃ、今度来る時には醤油を持ってきてくれんかの?」

「醤油? わかった」

「すまんの。クセがなくて魚食に大変合うのじゃ」


 魚をよく食べる開拓地の移民も醤油買ってくみたいだし。

 まだ醤油はレイノスより西では売り買いされてないみたいだなあ。

 早く広まって、海の王国でも買えるようになればいいのに。


「つかぬことを聞くけど、女王はカニって食べる?」

「食すぞよ」

「どうやって?」

「茹でたり焼いたりすることが多いかの。小さいものだと丸ごと揚げるということもある」


 小さいやつは揚げればいいのか。

 でもマッチョクラブの甘みさえ感じる柔らかな旨みは、揚げカニじゃ味わえないだろうなあ。

 

「味つけは塩か魚醤くらい?」

「うむ」

「一昨日初めてカニの魔物を食べてさ。茹でたやつを、醤油ベースのちょっと変わったタレでいただくのを教えてもらったんだ。メッチャ美味かったから、うちでも研究して成果出たら教えてあげるね」

「おおそうか! 美味いものは正義じゃな!」


 研究ったって配合比率と何の柑橘使うかくらいだけどな。

 ポン酢醤油は神。

 女王が言う。


「先ほどのサラセニアじゃが」

「うん」

「『アトラスの冒険者』での関わりか?」

「そうそう。『アトラスの冒険者』がなくなっちゃうから、今クエストを大盤振る舞いして配ってるんだ。あたしには比較的外国のやつをくれるから、あっちこっちに行けるようになるんだよね。ありがたいことに」

「ありがたいのか。ならばよいのじゃが」


 ん? 女王はどう考えてたんだろ?


「明らかに自分の生活圏外の遠国じゃろう? おんしは面倒だとは思わぬのか?」

「あたしは『アトラスの冒険者』になった時、魔物を倒せる力と行動範囲が欲しかったんだ。でも今になってみると、それは欲しいものっていうより欲しいものを手に入れるための前提だったんだなーと思うよ」

「ふむ、前提とな? おんしが真に欲しいものは何なのじゃ?」

「何でも手に入る世の中かな」

「何でも手に入る世の中?」

「おゼゼさえあればおいしいものが食べられる、楽しいことに出会えるっていう世界。さらにゆーと、おゼゼを稼ぐ手段のある世界」

「なるほど、全てを手に入れ得る世の中……」


 噛み締めるように呟く女王。


「……わらわはドーラ近海を治めて一〇〇年以上になるが、欲しいものが何でも手に入ると思ったことはないの」

「でしょ? 何でも手に入れることのできる世の中はいいと思わない?」

「思う。おんしが望む世の中を実現したら、わらわも恩恵に与れるのか。大変に愉快なことじゃの」

「でしょ? 協力してよ」

「うむ!」


 力強く返事を返してくれる女王。

 女王もあたし達が海底に来るようになるまで、随分と退屈な生活だったみたいだもんな。

 あたしも『アトラスの冒険者』になる以前は退屈だった。

 前に進む世界は刺激があると思うよ。

 自分の思うような進路を目指せるからだ。


「今日は帰るね」

「うむ、またの」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動して帰宅する。

自分の生まれに左右されず、欲しいものを手に入れ得る世界。

それが自由の世界だ。

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欲しいものは買える世の中だけどおゼゼが足りない。
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