第1837話:明日のたくらみ
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
昼食後にルーネを送り、サラセニアの首都ウトゥリクのサボタージュ中の騎士達の溜まり場にやって来た。
まとめ役的な役割のサルヴァトーレさんが言う。
「やあ、君か」
「そうそう、世界的美少女のあたし。お肉をお土産に持ってきたから、皆さんで食べてね」
「これはすまんね」
腹が減っては何とやらだ。
ちょっとしたことでも士気を高めておくのは大事。
「確認だけど、明日が大公殿下のお葬式で間違いないんだよね?」
「ああ。朝一〇時から宮殿前でセレモニーだな」
じゃあ午前中に終わりそーだな。
お昼御飯どこで食べよう?
余計な心配ができてしまった。
「事態を混乱させるには、一〇時半頃にあたし登場でいいかな?」
「混乱って。何をするつもりなんだ?」
「上空にスレイプニル及び精霊とともに登場。裁きの雷を下して首魁三人を打ち倒すっていうのが、ドラマチックでいいかなって考えてる」
「スレイプニルって……」
「スレイプニル知らない? バカデカい身体の八本脚のウマだよ」
「伝説上の神馬だろう? そりゃ知ってるが……」
「友達なんだ。北国の人達にはスレイプニルのウケがいいんじゃないかと思ってさ。プニル君が宙を舞ってりゃ尋常でないことが起きてるって、国民の皆さんに伝わるでしょ? わかりやすい演出は大事だよ」
あたしは視覚効果とゆーものを大事にする。
雰囲気で呑んでしまえば勝ちだからだ。
呆れた顔をするサルヴァトーレさん。
「……裁きの雷というのは?」
「世界最大の魔法ってやつがあるんだ。ドカーンと空で爆発させるでしょ? ただのフェイクだけれども、皆がビックリしてる内にヴィルがワープで忍び寄って、大公弟ヒラルス殿下とベルナルド騎士団長、ジョコンド商業ギルド長をどーんしちゃうっていう作戦」
「任されたぬ! 似顔絵で顔は覚えたぬ!」
「三人が同じ場所にいてくれれば可能なんだけど、サルヴァトーレさんどう思う?」
サルヴァトーレさんが腕を組む。
「……ヒラルス殿下も団長も、信頼できる騎士の数は少ないはずだ。護衛の都合上、ヒラルス殿下と団長が近くにいるのは間違いない。ジョコンドはどうだかわからんが、セレモニーで商業や流通の安定をアピールするつもりならば、市民に親密なところを見せるためにも同じ場所にいる可能性は高い」
「イケそーだな」
商業ギルド長はどーんできなくても、大公弟殿下と騎士団長を排除しちゃえば勝ちだろ。
いや、騎士団に支持されたらオーケーだな。
「こっちのサボってる皆さんは大丈夫なのかな?」
「ある程度ヒラルス殿下の情報も入るんだ。殿下は時間さえ経ってしまえば他に統治する者がいない以上、サラセニアは自分のものだと考えている」
「殿下の持ってる情報からすると妥当だね。そんなうまくいかんけど」
「不服従の騎士がいることも承知しているが、下手に刺激して反乱でも起こされるとまずい。正式な大公としてヒラルス殿下が即位すれば、再び取り込めるだろうと」
元々サルヴァトーレさんも、自分の剣は正式な大公のものって考えてたみたいだしな。
公子達の無事が知られるまで状況が変化しないってことは予想通り。
「クーデター派が積極的に行動を起こしてないのなら、アンヘルモーセンから情報は入ってないってことだな。天使はあたしの言うこと聞いてると」
「海上保安隊を中立の立場に置くことに成功した。二人の公子殿下の帰還が確実になれば、味方に引き込める」
「いいね。順調。そーだ、拡声器が欲しいな」
「あるぞ。持っていってくれ。ところでガリア軍がどこまで来ているか知りたいんだ。どうにかならんか?」
「むーん?」
王様のところに連絡が来ていたとしても数日遅れの情報になる。
サラセニアに向かってる騎兵隊に直接連絡取れると最高だが、移動中かな?
「……いや、今の時間だと昼休憩かもしれないな。ヴィル、サラセニアに向かってるガリア軍の場所わかる?」
「マークしてるからわかるぬよ?」
「ヴィル偉い! 見つけてもし休憩してたら教えて」
「わかったぬ!」
瞬時に掻き消えるヴィル。
「ふうん、大したものだな」
「でしょ? うちのヴィルはすごくいい子なんだ」
「いや、悪魔を使いこなす君の手腕が、ということなんだが」
「あたしも大したもんなんだよ」
笑ってる内に赤プレートに連絡が入る。
『御主人! こっちは休憩中だぬ! トリスターノと公子のところにいるぬ!』
「そっちに行くからビーコン置いてね」
『わかったぬ!』
新しい転移の玉を起動、サルヴァトーレさんを連れてガリア軍のところへ。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
「「サルヴァトーレ!」」
「スパルタコ殿下、ガリレオ殿下、よく御無事で!」
感動の再会だね。
あっちはあっちでぎゅー。
こっちはこっちでぎゅー。
「トリスターノ元帥だよ。彼はベルナルド騎士団長に従ってない騎士をまとめてるサルヴァトーレさん」
握手。
「行軍の様子はどうかな?」
「ごく少数の脱落は出ているが極めて順調であるよ。今月一九日には騎兵一二〇〇以上が首都ウトゥリクに到着と思ってよい」
スパルタコちゃんが聞く。
「サルヴァトーレ。国内の状況はどうだ?」
「表向き小康状態です。お二方が御健在であることは噂程度であり、一般には知られておりませぬ」
「明日のお葬式で状況をガラッと変えるよ」
「どう変わる?」
「要するにクーデターに賛成してるのが、大公弟ヒラルス殿下ベルナルド騎士団長ジョコンド商業ギルド長の三人と、その取り巻き連中だけじゃん?」
おお、全員の名前出てきた。
あたしすごい!
「精霊の巫女はお怒りであるぞ。両公子はガリア軍とともに帰還するぞ。悪者とっ捕まえろーってふうに持ってく」
「ハハッ、参加できないのが残念だ」
「スパルタコちゃんは豪胆だな。明日中に三人逮捕して騎士団を掌握、その後公子とガリア軍が来るって情報をガンガン流してっていう展開が最高だよ。ヴィル、頼むね」
「任せるぬ!」
「かなり混乱すると思う。サルヴァトーレさんは握ってる情報全て使って、騎士団を味方につけるのに力を注いで。主犯格三人には逃げられちゃっても構わないくらい。市民と政治家を宥めといてよ。有力者連中に公子とガリア軍見せれば納得すると思うから」
「了解だ」
明日楽しみだなー。
『市民を納得させるのに必要だからだよ』という理由で、自身のイベント好きを隠蔽しようとするユーラシア。