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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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1813/2453

第1813話:信用は人と人との間で

「……とゆーわけで、両公子とガリア軍は進発してるよ」

「うむ、実に心強いな」


 サラセニアの首都ウトゥリクの下町で、サボタージュ中の騎士サルヴァトーレさん達と連絡を取っておく。

 情報共有は大切なのだ。


「ガリア軍の構成は?」

「トリスターノ元帥率いる一〇〇〇人規模の騎兵だって。あと一一日で到着するからね」

「戦力としては十分だが……」


 うん、市街戦にでもなったら被害が大きくなっちゃう。

 ウトゥリクの美しい街並みが壊れるのも市民に犠牲者が出るのも、あたしの望むところではない。

 可能な限り被害を小さくするためにはどうするか?


「逆クーデターが望ましいね」

「逆クーデター?」

「情報伝達スピードの問題があるからさ。公子達がサラセニアに向けて進軍してるなんて、クーデター派は知らないわけじゃん?」


 天使達が関わらないなら、アンヘルモーセンからの情報も入らない。

 

「四日後の大公殿下のお葬式で精霊の巫女が派手に登場。裁きの雷で悪しき者どもを撃ち倒す、ってのをやるつもりなんだ。それで大公弟と騎士団長と商業ギルド長を拘束して、後数日で公子殿下が帰ってくるぞーワクワク! っていう展開だと最高。犠牲者が出ないと考えているんだけど」

「可能ならば理想的だが……」

「あ、それからカル帝国の主席執政官ドミティウス閣下が、サラセニアに手出すんじゃないぞっていう書簡をアンヘルモーセンに出してくれるから、クーデター派に援軍はないと思っていいよ」

「君は帝国の実力者まで動かせるのか」

「閣下は美少女にはサービスしてくれるんだ」


 これは誤解を招く表現だったか?

 低く笑うサルヴァトーレさん。


「……昨日の魔宝玉、『道具屋の目』を持つ者に見させたんだ。紛れもない本物だった。完品はおそらくこの世に一つしかないだろうと。値段などつけられないと」

「綺麗だよね。青くてキラキラしてて」

「何故あれを置いていった? オレが持ち逃げすることは考えなかったのか?」

「価値はあるかもしれんけど、ただの石だぞ? 他人との信頼には換えられない。サルヴァトーレさんだってあたしの証拠もない、荒唐無稽な話を信じてくれたじゃん」


 『アトラスの冒険者』が胡散臭いからあたしが苦労するのだ。

 でも『アトラスの冒険者』がよく知られていたら、それはそれで詐欺とか出てきそう。

 結局信用は人と人との間で形成されるもんだ。


「精霊の巫女の考え方というやつか」

「精霊の巫女ってここでしか名乗ってないから怪しいんだけど」

「君の名はユーラシアと言うんだな?」

「うん。あたし名乗ったっけ?」

「ピエルマルコ陛下がそう仰っていたからな」


 グラスを傾けるサルヴァトーレさん。


「ちょっと調べさせたら、ドーラ独立の旗手であるとか帝国に現れたヤマタノオロチを倒したとかいう話が出てきた」

「ドーラ独立の旗手ってのは大げさだよ。あたしはあたしの仕事しただけ。もっと働いた人もいる。ヤマタノオロチについては合ってるな。すげえでっかいヒドラだよ。でもちょっとミスって儲けそこなった」

「というのは?」

「ヒドラの牙って薬になるらしくて高く売れるんだ。ヒドラは再生能力も高いから、首落とすとまた生えてくるじゃん? 牙たくさん取れてすごく儲かるはずだった」

「……儲かる?」

「ところが首が八本もあると、揃えて落とすの難しくてさ。再生の周期が合わなくて未熟な首も切らざるを得なくなって、半端な牙が多くなっちゃった。大分損した」


 あ、興味があるのか、他の騎士団員も集まってきたな。


「愉快な話だな」

「当事者は悔いが残ってあんまり愉快じゃないんだよ。もう一度やらせてくれたら、今度はうまくやるんだけど」

「この子は高位魔族なんだろう?」

「悪魔のヴィルだぬよ?」

「そうそう、うちの子。連絡係やってくれてるんだ。普通の悪魔は悪感情を欲しがるから人に悪さしようとするけど、うちのヴィルが欲しがるのは好感情なんだ。人を不快にさせようとはしないんで、見かけたら可愛がってやってね」

「よろしくお願いしますぬ!」


 早速撫でられに行った。

 よかったね。


「悪魔は天使に絶対勝てないと聞いたが……」

「世の中に絶対なんてことはないよ。昨日ヴィルが天使三人を圧倒したの、見てたんでしょ?」

「見た。あれは素直に驚いたな」

「耐性や持ちスキルの関係で天使が有利なのは事実なんだ。でもうちのヴィルは天使の魔法を無効化できる手段を持ってるし、レベルが全然違うからね。悪魔は天使に絶対勝てないというのは、天使か天崇教のプロパガンダじゃないかな」


 天使に比べて悪魔のウケが悪いのは事実。

 悪魔をメッチャ悪く吹聴しといて、天使は悪魔に負けないっていう建前を作った方が、天崇教を布教しやすいんだろ。

 逆にだからこそ、悪魔に負けたってことを言いふらされると困るんじゃないだろうか。


「最後に聞きたい」

「何だろ?」

「君が高額な魔宝玉を質にしてまで、サラセニアの問題に首を突っ込むのは何故だ? ドーラ人の君には何の得にもならないだろう?」

「あたしは自由に商売できる世界を作りたいんだよね。才覚があればおゼゼを稼ぐことができて、適正な対価を払えばものを手に入れることができる世界」

「サラセニアに肩入れすることが自由に商売できる世界に繋がるのか?」

「とゆーかアンヘルモーセンが邪魔。首都シャムハザイにものを集めて、なんてゆー貿易してるのがダメだ。皆が迷惑する。サラセニアだってそうでしょ? 食料入りにくかったりすることあったでしょ?」

「……なるほど。君の提唱する世界は、サラセニアにとって都合がいいな」

「思惑は違うけど、帝国やガリアもアンヘルモーセンが気に食わないから協力してくれるんだ」

「アンヘルモーセンは攻め滅ぼされるのか?」

「いや、テテュス内海における影響力が小さくなるだけ。戦争なんか起こして、罪のない人達に迷惑かけたくないじゃん? もっと言うと、アンヘルモーセンの国民の皆さんは敵じゃないよ。お客さんだから」


 しがらみのないテテュス内海貿易の実現は、あたしの目指す世界の一部なんだよ。

 大きく頷くサルヴァトーレさん。


「ようくわかった。気に入った」

「あたしの考えが伝わってよかった。今日は帰るね」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動して帰宅する。

精霊の巫女かー。

世を忍ぶ仮の姿なのに、全然忍んでない件。

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