第1806話:そろそろ犠牲になる時間帯
ノルトマンさんが聞いてくる。
「ニライカナイが固有能力持ちというのは本当ですか?」
「本当だよ。パッシブで地味に働く系の能力だと思う。あとこの中だとじっちゃんが固有能力持ちだな。多分かなりレアでトリッキーなやつ」
「ワシがか? 気付かなんだぞ?」
元騎士団長のランプレヒトさんですら、自分でわかってないのか。
じゃあレベル上がってスキルを習得するタイプの固有能力ではない。
変に圧が強く思えるのは、ひょっとすると固有能力なのかな?
「固有能力ってすごいもんじゃないよ? レベル上がんなきゃ使えないやつがほとんどだし、そもそも自分が固有能力持ちなの気付いてない、じっちゃんみたいな人もすごく多い。その程度のもん」
「ふむ?」
「でも自分にどんな力があるか知っていれば今後の人生変わるかもしれないから、ベン君とニライちゃんはどんな固有能力なのか調べとくのをお勧めするよ。信頼できる鑑定士を知ってるけどどうする?」
「うむ、頼んでいいか?」
「任された。ドーラ一の鑑定士がいるから今度連れてくるね。次のレッスンはいつかな?」
「一日練習して一日休むのがいいかと思っているのだ」
「てことは明後日だね。りょーかいでーす。午前中に来るよ」
ん? どうしたニライちゃん?
可愛い顔して。
「あちしもまほうをつかってみたいぞなもし!」
「魔法少女に憧れちゃうお年頃だな? 使ってみる? ベン君にすり傷があるから治してみようか」
ニライちゃんに『ホワイトベーシック』のパワーカードを渡す。
「集中してこれを持って、『ヒール』と唱えてみ?」
「ヒール!」
「あっ、傷が治った!」
「すごいぞなもし!」
ハハッ、子供達大喜び。
よかったね。
ランプレヒトさんが言う。
「これもパワーカードの一種だな? 魔法を使えるようになるタイプか」
「そうそう。この『ホワイトベーシック』は、回復魔法『ヒール』と治癒魔法『キュア』を装備時に使えるってやつね。フィフィも装備してるよ」
「ふむ。実にいいな」
「剣術道場はケガすることもあり得るな。これはあげるから、必要なら使ってよ」
「何、いいのか? 大層高価なものなのだろう?」
「いや、それほどでもないの。ドーラでは一五〇〇ゴールド」
「……バカに安いな? 一〇〇倍の値でも買う者はおるだろうに」
わかる。
『ホワイトベーシック』のコストパフォーマンスはちょっとおかしい。
コモンの素材だけで作れるから安いって理屈なんだろうけどな。
おかげでどこへ持っていっても喜ばれるわ。
使う機会が意外と多いんで、最近ではあたしも携帯してる。
「ところでフリードリヒさんが呼ばれてたのは何でなん?」
ギクッとするフリードリヒさん。
ハハッ、気配を消してやり過ごそうとしたってダメだわ。
あたしだってエンタメに飢えてるんだから。
そろそろ犠牲になる時間帯だわ。
「うむ。生徒の数が多くなると、なかなか目が行き届かんと思われるのだ。師範として手伝ってくれんか? どうせ暇であろう?」
「はあ」
こっちに必死な視線を送ってくるフリードリヒさん。
断ってくれって?
何で自分で断らないのよ。
よっぽどランプレヒトさんのことが苦手なんだなあ。
まあ了解。
「フリードリヒさんに手伝わせるのはやめといた方がいいぞ? 娘婿のプリンスルキウスが皇帝選に立候補してるから、先生をやるとこの道場? 私塾? に変な派閥色がついちゃう」
「考えねばならんことだったか。ユーラシア君の指摘はありがたいな」
「皇帝選がなくても次男が新男爵になったとこだから、領地の方で忙しいよ。フリードリヒさんにはおゼゼだけ出させなよ」
助かったって顔をするフリードリヒさん。
あんたはこれくらいのロジック使えるだろーが。
どんだけランプレヒトさんのこと不得手にしてるのよ?
あれ? ランプレヒトさん首かしげてるがな。
どうした?
「金を出してもらうのは悪い気がするのだが」
「手伝わせるのを悪いと思わないところがパワフルだね。でも門戸を広くするなら、高い授業料取る気はないんでしょ? 運営におゼゼは絶対に必要だぞ?」
「む、しかし……」
「ただおゼゼを徴収するのが悪いと思うのなら、何らかのメリットを付与してやればいいよ。例えば出資させる代わりに人材勧誘の優先権を認めるとか」
「人材勧誘の優先権?」
「ちっちゃい頃から見てればどんな子だかよくわかるでしょ? 優秀な人材を育てるなら皆が欲しがるわ。うちに仕えないかとか、上級の私塾に通わせるから将来はうちにとかの、一番の交渉権を与えるってことだよ。人材は有用だぞ? ウィンウィンだと思うけど」
「素晴らしい試みではないですか。人材獲得のチャンスをいただけるのでしたら、ぜひ我がツムシュテーク家にも出資させてください!」
「ほらほら、ノルトマンさんも乗っかってきたぞ? 受けときなよ」
「う、うむ」
ランプレヒトさん、おゼゼには強くないようだ。
あたしがランプレヒトさんに会いたがるのがわからないって、閣下やプリンスルキウスが言ってたのは、この辺が理由なんだろうな。
「どっちにしても領地帰っちゃうことがある土地持ち貴族は先生に向いてないよ。帝都住みの引退騎士を誘うといいんじゃないかな。剣術ばかりだと偏りそうだね。元文官みたいな人もいて欲しい」
「うむ、実にいいな」
「それから収入と支出を管理できる人を入れないとダメだぞ? 外部の人でもじっちゃん家の人でもいいけど」
「何故? ワシが老後の楽しみとしてやりたいだけなのだが」
「じっちゃんはいいかもしれんけど、習いに来る子達は人生がかかってるじゃん。独立で採算が取れれば、じっちゃんが死んでも潰れない。さもなくばいつ潰れるかわかんない。間口を広く、幼子からっていうコンセプトは素晴らしいんだってば。なくなっちゃったら帝国にとって大きな損失だぞ?」
「ならば僕の方から経理の者を派遣しましょう」
「いいのか、フリードリヒ。すまないな」
「規模が小さいからどうせ大した手間じゃない。人材を見繕うスパイ送っとこくらいの気持ちだから、全然構わないとゆーのに」
「ユーラシア君黙っててくれないか? 全然先手が取れやしない!」
アハハと笑い合う。
「じゃ、今日は帰るね。明後日鑑定士連れてくるよ」
「バイバイぬ!」
さて、フリードリヒさん送ってこ。
ベン君はともかく、ニライちゃんは頭の方も使って欲しいなあ。




