第1803話:フィフィは結構すごい
「既にトリスターノは準備を終えている。一〇〇〇人規模の騎兵はいつでも出立できる」
ガリアの王宮でうちの子達とダンとともにお昼御飯をいただいている。
もちろんぽにょスパルタコちゃんガリレオちゃんも同席している。
ハハッ、御飯をごちそーになるから、うちの子達も呼んじゃったわ。
「スパルタコ、ガリレオ。午後には出発だが、用意はいいな?」
「「はい!」」
「よし、ウトゥリク到着は一二日後の予定だ」
「りょーかーい。五日後以降は反クーデター派がウトゥリクを掌握するから、彼らを安心させるために伝令をどんどん送り込んでよ」
「うむ、しかし早馬でも五日後はとてもムリだな。手伝ってくれるか?」
「わかった。でも七日後カル帝国で皇帝選の帝都市民一般投票があって、八日後に新皇帝決定なんだよね。揉めないとは思うけど、何があるかはまだわかんない」
「あっちもこっちも大変だな」
王様とダンが笑う。
大きなイベントだからねえ。
もっとも皇帝選についてはあたしは完全に傍観者だから、あと遠隔地の投票が間に合わなそうな領主への問い合わせのお手伝いくらいしかやることないと思う。
「今日も面白かったぜ」
「クーデター後の処理として、今日やれることはやったのではないか?」
「そうだねえ」
サラセニアに対する天使と天崇教の影響は排除したと思いたい。
が、アンヘルモーセンの予知能力者がどう判断するかは、実はまだわからないのだ。
サラセニアの支配権奪還もこれからだしな。
王様が言う。
「予知についてだが」
「うん」
聞かれるのではないかとは思っていた。
他の皆さんも興味ありそう。
「未来とはどこまで決まっているものなのだ?」
「決まってはいないんだ。運命って川の流れみたいなもんで、何もしないと当然そうなっちゃうみたいな方向性はあるんだって。でも抗う余地はあるの」
「抗う余地、か。つまり未来を変える余地ということだな?」
「うん。あたしも本来はドーラ独立戦争の時に死んじゃう予定だったとか、半分くらい死ぬ可能性があったとかって、神様や預言者から聞いたよ。面白いよねえ」
「ユーラシアさんは何でも面白がるんですねえ」
ぽにょが感心してる。
ヴィルが頭撫でられに行った。
「まーあたしはあたしに都合のいい世の中にしたいから」
「あんたこれからどうするんだ?」
「帝国行ってくるつもり」
「む? 今日の報告か?」
「報告はもう少しサラセニアの結着に目星がついてからだな。特に帝国に動いてもらいたい件でもないし」
「ふむ? では何の用なのだ」
「ドーラで最近本が出たんだ。その関係で」
これだけじゃ何のことやらわからんか。
王様にフィフィの本を渡す。
「ぽにょと読んでね。帝国で零落れた貴族の令嬢がドーラに渡って、色々トラブルに遭うっていう体験記なんだけどさ。これの著者の令嬢の爺ちゃんの様子見に行こうと思って」
「宣伝か? 世話焼きか? エンタメの匂いを嗅ぎつけたのか?」
「全部だなー」
アハハと笑い合う。
いい気分だなー。
「ごちそーさま。また来るよ。スパルタコちゃんガリレオちゃん。次はサラセニアで会おう」
「ああ」「はい」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
あれ? クエスト完了のアナウンスか。
サラセニアは決着ついたと言えないから、『ガリア・セット』の方かな?
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ああ、精霊使い君。ちょうどよかった」
皇宮にやって来た。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵だ。
ちょうどいいとは?
「公爵フリードリヒ様がいらしたんだ。君を呼べって」
「フリードリヒさんが? とゆーか呼べってどーゆーことよ?」
ドーラ人のあたしを呼べるわけないじゃん。
伝言しとくくらいしかないでしょ。
「君はトラブルの匂いを嗅ぎつけるからと仰っていたぞ?」
「嗅ぎつけるのはエンタメの匂いだとゆーのに」
まったく失礼だな。
しかしフリードリヒさんか。
先帝陛下の遺書を持ってたあたしと皇帝選立候補者プリンスルキウスの義父が今会うなんてのは、余計な憶測を生みそうなんだが。
「何の用だろ? 皇帝選関係?」
「いや、よくわからないんだ。ランプレヒト元騎士団長から召集がかかってどうのこうのと」
「ランプレヒトさん? 今から様子見てこようと思ったとこなんだ。ちょうどいいっちゃちょうどいいな。帰らずに詰め所にいるなら、フリードリヒさんも連れていこう」
「フィフィリア嬢の本の関係で?」
「それが理由の半分だね」
ニライちゃんに稽古をつけるのが始まってるはずだから、どうなってるかも確認したかったのだ。
フィフィの爺ちゃんランプレヒト伯爵か。
元気いい人だと感じたけど、フリードリヒさんを召集ってどういうことだろ?
「一昨日会ったランプレヒトさんの印象はさ。ババドーンのおっちゃんは許さんみたいな感じなんだけど、フィフィに対しては当たりがきついわけじゃないんだよね」
「ふむ、可愛い孫だからか? しかしランプレヒト様の性格だと、フィフィリア嬢を嫌っていてもおかしくはないんだが」
「全然気にしちゃいなかったわ。母方の実家の商家に身を寄せてると思ってたんだ。ドーラに渡って冒険者やってるって教えてあげたらビックリしてた」
「フィフィリア嬢が冒険者というのは、俺も信じられないんだが」
「ステータス的に全然戦闘に向いてないのはその通りなんだけどさ。執事と下男の子とパーティー組んで、割と毎日朝から真面目に冒険者してるんだ。今ではあんたよりレベル上だぞ? お母ちゃんや使用人含めた六人の生活が安定するくらいは稼いでるはず」
「マジかよ。すごくないか?」
「結構すごい。もちろんドーラだったら誰でも冒険者稼業ができるわけじゃなくてさ。続かなくて辞めちゃう人、山ほどいるんだよ? ランプレヒトさんも今のフィフィに会ったら見直すと思う」
フィフィは自分を他人と比べないんだよな。
だから自分に冒険者の才能がないことに悲観しないんだろう。
レベルがあれば大体補えるってのはあたしの持論だが、それを最もシンプルに体現しているのはフィフィだ。
あたしでさえ、どうせレベル上げるなら固有能力持ちが得って考えてるくらいだし。
さて近衛兵詰め所に着いたぞ。
結局大事なのは思考とメンタルだな。
頭悪いやつとやる気のないやつはダメ。