第1800話:敵か味方か
「あんた達は何者なん?」
銀髪ロングの天使が言う。
「見ての通り天使よ。私の名はハリエル、白い短めの髪の子がネリエル、長髪の消えかかった子がピュリエル」
「天使に会うのは初めてだよ。うちの子も可愛いし、あたしも可愛いけど、あんた達も相当可愛いのは理解した」
「そ、そうかしら?」
三人とも露骨にデレた。
天使傲慢だって聞いたけど、扱うの簡単じゃないか。
悪魔と一緒だわ。
認めてやりゃいい。
「ハリエルだっけ? 銀髪のあんたがリーダーってことでいいのかな?」
「そうよ。銀髪の天使は聖魔法を使えるの」
「へー、すごいんだ」
『聖魔法』持ちは位が高いってピンクマンが言ってたな。
「天使って人間に崇拝されたいんでしょ? 具体的にはどうやってるの?」
天使のイメージがいいことはわかる。
でも綺麗なだけで崇拝する者は多くないんじゃないか?
性格が高飛車だと特に。
考えてみりゃ、崇拝の感情を得るのってかなり難しいだろ。
高位魔族が悪感情を得るのとはわけが違うぞ?
どんなカラクリがあるのか、興味があるな。
「信仰心の篤い者にはスキルを授けるのですわ」
「スキルを授ける? スキルスクロールをあげるってこと?」
「いえ、全ての天使には、自分の持ちスキルを対象の者が使えるようにすることができるという、至高の能力が備わっているのですわ」
「マジか」
誇らしげな天使達。
なるほど、スキル習得で釣って信徒を確保するのか。
スキルを授けるという性質上、天使が少々横柄であってもおかしくはないわな。
ふーん、天使は天使でうまい方法を持ってるんだ。
天崇教に寄っかかってるだけじゃないということはわかった。
「スキル授与は一度行うと数ヶ月は使えないという制限はありますけれどもね」
「なるほど、でもすげえ。天使ってどういうものか、ちょっと理解できたよ。ありがとう」
「いえいえ。あなた達も天使を崇拝してくれて構わないのよ?」
「それは遠慮するけれども」
「遠慮するぬ!」
今気付いたように銀髪ロングが聞いてくる。
「……ところで何故あなたは悪魔と行動をともにしているの? 汚らわしい」
「汚らわしくはないとゆーのに。あたしから見ると天使も悪魔も、人間の感情を摂取して生きてる似たようなもんなんだ。天使だからといって崇めたりはしないし、悪魔だからといって恐れ入ったりもしない。天使と悪魔が嫌い合ってるのも知ってるけど、べつにどっちかを応援するわけでもない」
「あなたは悪魔崇拝者ではないのね?」
「違うよ。悪魔は面白いんで付き合ってるだけ。あたしは心が広いから天使とも付き合いたいんだ。でも敵だとそうもいかない」
さあ、本題だ。
王様とダンも興味深げにこっちを見てくる。
サボってないでちょっとは参加してくれりゃいいのに。
「敵? 悪魔は敵ですけれども、あなたは敵ではないですのよ?」
「いい考え方だね。一つ聞こうか。あんた達はどうしてここで我がもの顔で歩いてたのかな? サラセニアは天崇教の国アンヘルモーセンじゃないぞ?」
「サラセニアは……」
「あたしが答えてやろうか。あんた達の仲間に、未来を予知できる固有能力持ちがいるでしょ? サラセニアの大公が急死することを知っていて、それを機会にサラセニアを第二のアンヘルモーセンにしようと企てた」
「「!」」
「ど、どうして未来予知のことを!」
「どうしてかな?」
ただのカンだ。
しかし未来を知ることができるレア能力者がアンヘルモーセンにいることは確定か。
キメ顔を見せて天使達にプレッシャーをかける。
あたしの笑顔の使い方、本当にこれで合ってる?
「アンヘルモーセン政府の指示で、サラセニアでの天崇教布教を活発化させてたことは知ってる。それをやめさせなさい。あたし達が介入したことで、サラセニアを天崇教国にする目論見は失敗した」
「失敗したとは限らないのですわっ!」
「ここで反抗して吠えることは、あたしを敵に回すってことだぞ? となるとあたしはあんた達を括ったまま、アンヘルモーセンの首都シャムハザイを引き回さなきゃいけないことになる。悪魔一人に負けちゃった情けない天使達ですよ。天使なんか頼りになりませんよーって」
「なっ……」
絶句する天使達。
「同時にガリアはサラセニア侵攻開始、カル帝国の軍艦がシャムハザイ港を封鎖する。天崇教の陰謀と横暴を声高に言いふらしながらね。天崇教の権威は地に落ち、あんた達の得られる崇拝の感情は激減する」
「そそそそんなことができるはずないのですわ!」
「こちらにおわすお方をどなたと心得る? 恐れ多くも現ガリア国王ピエルマルコ陛下にあらせられるよ」
「「「ええっ!」」」
「ようやく予の出番か」
「今までだって出しゃばってきて構わなかったんだぞ? でもまあ、えらそーにふんぞり返っててくれればいいよ。こっちで話をつけるから」
「うむ」
すげー不安そうな天使達。
畳みかけたろ。
「王様に質問でーす! 王様は以前、アンヘルモーセンなど消えてなくなればいいと言っていましたが、今でも気持ちに変わりはありませんか?」
「ない。我が友好国サラセニアに手を出すアンヘルモーセンは鬱陶しいことこの上ない。滅べばよいのだ!」
「わかるね? 王様は過激派だぞ? あんた達が把握してるかは知らんけど、貿易に関してガリアと帝国は協定を結んでいるんだ。帝国は自国が得になるように動きます。つまりアンヘルモーセンの横っ面を叩いて、ガリアに恩を売りつける方針を取る」
「「「……」」」
「さて、あんた達には二つの選択肢がありまーす。あたしを敵にしますか? しませんか?」
戸惑いながら銀髪ロングが聞いてくる。
「ど、どういうことですの?」
「さっきの話だよ。サラセニアに対してアンヘルモーセンと天崇教の進出をやめてくれってこと。聞いてくれるなら、王様を宥めてアンヘルモーセンと天崇教を攻撃するのは控えてもらうよ。どお?」
「今まで通りってことですのね?」
「そうそう、今まで通り。あんた達も崇拝の感情は欲しいんだろうから、アンヘルモーセン国内でブイブイ言わせるのは構わない。でもサラセニアにまで手を広げようとするなら敵だ。全てを失うことを覚悟しろってこと」
「わ、わかりましたわ」
「よーし、いい子達だね。放してやろう」
魔法のロープの拘束を解く。
天使がどーゆーもんか大体理解したと思う。
悪魔ほど個性的ではない気がする。




