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第1796話:マジで出たとこ勝負

 ――――――――――二八〇日目。


「よーし、いい天気! バッチリ!」


 今日は凄草株分けの日。

 いつものように畑番の精霊カカシ、大悪魔バアルとお喋りしながら作業を行う。


「時々畑作業っていうのはいいよね。無心になれるというか」

「オイラに任せておけよ。畑作業ばかりじゃユーちゃんらしくないぜ」

「あっ、無心じゃないわ。凄草の甘みばかり考えてるわ」


 アハハと笑い合う。


「甘みって言えばさ、ドーラに果物増やしたいじゃん?」

「イチゴは成功だな。すぐ増えてドーラ中に広まるぜ」

「公爵フリードリヒはイチゴ好きである。品種改良を奨励していて、『パウリーネ』はその最大の成果であるが、他にも色々持っているであるぞ」


 バアルはよく知ってるな。

 フリードリヒさん自身に結構興味があるんだろう。


「色々なイチゴの品種か。興味はあるけど、最大の成果の『パウリーネ』があれば他のはいらんよーな」

「四季なりイチゴの開発を進めていたである。真冬と真夏を除いてかなり長期にわたり収獲することができるである」

「四季なりなんてもんがあるの?」

「ドーラでも土地により寒暖差があるであろう? それを利用して植えつければ、年中切れ目なくイチゴを収穫できるようになるのではないか」

「マジか」

「すげえぜ!」


 輸送手段を考える必要があるが、年中収獲できるのはいいな。

 スイーツ文化の育成にも一役買ってくれそう。


「ただし四季なりイチゴの開発がどこまで進んでいるかは知らぬである」

「ふむふむ、何かの機会に聞いてみよ」


 今は皇帝選の真っ最中だ。

 有力候補プリンスルキウスの義父であるフリードリヒさんにあたしが会うのは、余計な憶測を生むかもしれない。

 皇帝選後だな。


 いや、もし四季なりイチゴの開発が進んでいたとしても、譲ってもらえるだけの取り引き材料がないわ。

 ドーラでは『パウリーネ』を広めて、草のイチゴとゆーものを認知させるのが先決だし。

 結論、フリードリヒさんに貸しを押しつけといて、いつでも譲ってもらえる準備だけしとこ。


「今日はサラセニアであるか?」

「うん。クーデター後の街の様子がわかんないんだよね。ガリアの王様連れてくから、危ないと困るじゃん?」

「その割にはユーちゃん楽しそうじゃねえか」

「わかる? 古いガリア様式が美しい町並みで、しかも商業国なんでしょ? あたしに相応しいお上品な国かと思ってるんだ」

「商業国といっても、石炭しか売るものがないである。石炭とガリアからの港湾使用料、観光収入に頼っているである」


 あとサラセニアの目ぼしい産業は漁業くらいか。

 農業もやってないことはないんだろうけど、国土面積が狭いしな。


「やっぱ観光者は多いんだ?」

「アンヘルモーセンの首都シャムハザイには負けるである。口惜しいである」

「まー買い物が楽しい町にはそりゃ負けるわな。てか何でバアルは観光業の勝ち負けで悔しいのよ?」

「アンヘルモーセンのやることなすこと癪である!」

「おいおい、拗らせてるじゃねえか」


 うむ、バアルは冷静であって欲しいのだが。

 天使とアンヘルモーセンが絡むと、情報の正確性がな?


「あたしもアンヘルモーセン一強のテテュス内海情勢は商売のためにならんと考えてるから、勢力を削る方向で動きたいけど」

「ぜひよろしく頼むである」

「天使が憎いのか、アンヘルモーセンが憎いのか、どっちなんだぜ?」

「一心同体なのである!」

「むーん?」


 サラセニアのクーデターにどこまでアンヘルモーセンが関与してるんだろ?

 ないとは思うが、実働部隊が出てるんだとガリアとの全面戦争になっちゃいそう。

 厄介だな。


「正面からの戦争になれば、アンヘルモーセンが勝てるわけはないである」

「だよねえ。じゃあサラセニアに親アンヘルモーセン政権を作らせて、裏から操ろうとしているだけの可能性が高いな。となると……」


 サラセニアの親アンヘルモーセン派は、ガリアになるべく口出しされたくない。

 ならばクーデターを国内問題として処理しようとするはずだ。

 外国は黙ってろという方向に世論を持っていきたいから。

 そーはさせるか。


「考えがまとまってきたな。あんた達と話してるとためになるわ」

「照れるぜ」

「照れるである」


 うちの子達は頼りになるなあ。

 さて、そろそろ朝御飯だな。


          ◇


 フイィィーンシュパパパッ。


「やあ、ユーラシアさんいらっしゃい。今日もチャーミングだね」

「ポロックさん、おっはよー」

「おはようぬ!」


 ギルドにやって来た。


「ダン来てるかな?」

「ああ、先ほど来たよ。待ち合わせかい?」

「そうそう。サラセニア行くんだ」

「サラセニア?」

「おっと、俺の噂か。モテる男はツラいぜ」


 中からツンツン銀髪とふてぶてしい笑顔を標準装備した男ダンが出てきた。

 こいつは全く緊張を感じさせないなあ。


「デートなのかい?」

「違うぬよ?」

「ダンは多分マルーさんの孫娘と結婚することになると思うよ。まだ先だけど」


 『強欲魔女』マルーさんの名が出た途端、ポロックさんの顔が引きつる。

 ハハッ、どこで誰と話してても、マルーさんが話題になるとこんな感じ。


「……マルーさんの?」

「ダンは気に入られちゃってるんだよね。孫娘のニルエって子がまたいい子なの」


 ダン何も言わないな。

 交際は順調と見ていい。

 時間かけてください。

 きっといい未来になると思うよ。


「サラセニアというのは?」

「三日前おっぱいさんにもらった大至急石板クエストの続きなんだ。サラセニアの大公が亡くなってクーデターが起きてってやつだったんだけど、今日はクーデター後の街の様子を見に行くの」

「まだ三日しか経ってないのか。危ないんじゃないのかい?」

「サラセニアって大きい国じゃなくて、しかも食料や生活必需品を外国との交易にかなりの部分頼ってるっぽいんだよね。クーデター派も外国につつかれると弱いから、国内問題としてさらっと片付けようとすると思うんだ。となるといつまでも戒厳令で市民生活を圧迫すると支持を失うんで、早めに日常を回復させようとするんじゃないかと」

「ふうん、なるほどの事情だね」

「現地見てみないとわかんないけどね」


 マジで出たとこ勝負なのだ。

 チラッと見てヤバそーならすぐ出直しの予定。


「ポロックさん、じゃーねー」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動して帰宅する。

まだバリバリに戒厳令ならすごすごと帰ってくるしかない。

でもあたしの人生そんな風にできてない。

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