第1785話:パワフルな結末
ランプレヒトさんがもう少し聞きたそうな気配だから、フィフィの情報を投下しておく。
元々そのつもりだったしな。
フィフィの話なんか聞きたくないと、いきなりシャットアウトされる可能性もあったから、しめしめの展開と言っていい。
「フィフィには他に行き場がなかったから、ドーラに来たんだと思う」
「母方の実家は羽振りのいい商人だっただろう?」
「父ちゃん男爵がやらかした上フィフィ達が身を寄せることになると、舐められちゃうみたいだぞ? 商売がうまくいかなくなっちゃうといけないから頼れないって言ってた」
「知らなかった……」
「誇りあるエーレンベルクの家名にこれ以上傷をつけるわけにはいかない。私達は去るべきだったとも言ってた。これは本当だぞ?」
おー結構衝撃を受けてるな。
父ちゃんのババドーン元男爵はともかく、孫のフィフィがそこまでツラい目に遭うべきではないと考えたのかもしれない。
ノルトマンさんが言う。
サポートしてくれる気らしい。
「ランプレヒト団長。フィフィリア嬢は本を出版したんですよ」
「本を?」
「じっちゃんにもあげるね」
「すまんな。『フィフィのドーラ西域紀行珍道中』か。随分と色っぽい表紙絵だな。これはあれか、話題になっている画集の絵師だな?」
「そうそう。頼んで描いてもらったの。まー字ばっかりの本は、普通そんなに売れるもんじゃないからさ。表紙で釣るのも大事なんだよね」
「ユーラシア君が面倒みてくれてるのか?」
単なる酔狂だったとは言いづらいじゃないか。
どう答えるべ?
「フィフィがドーラに来たのが大体一〇〇日前だったかな。その頃はじっちゃんが知ってる通りの娘だったと思う。父ちゃんが失脚した、自分は婚約破棄されたで、零落れてドーラまで流れてきたのに、ド田舎だのおサルさんだのほざきやがるの。メンタルはすげえなと思ったけど、まー高飛車令嬢の見本みたいなもんだった」
「うむ、容易に想像できる」
「だよねえ。帝国の貴族社会ではどうか知らんよ? でもドーラで高慢かつ自分勝手なキャラが通用するわきゃないから、ちょっと苦労させてみたんだ」
誰だ、高慢で自分勝手なのはあたしだろなんて考えてるやつは。
否定はしないけど、可憐だと大体許されるとゆー世の中の原則があるんだわ。
「具体的には?」
「ドーラ唯一の港町から最終的に腰を落ち着けることになる村まで、強歩三日くらいの道のりを歩かせた。天気悪い日もあったから、一〇日以上かかったな」
「ふむ、一〇日もか」
「ドーラの道は帝国みたいに整備されてないよ。魔物が出ることもあるから、貴族の令嬢にはかなり厳しいね」
「見知らぬ土地で生きていくのだ。厳しさは必要だろう。いい薬になったろうか?」
ここからがフィフィの真骨頂なんだよ。
「フィフィはビックリするほど現実的な感覚見せつけてくるんだよね」
「どういうことだ?」
「あんたお金はどーすんだって話をしたんだ。最低限も最低限の帝国債があるって話だったけど、貴族の生活が成り立つわけないじゃん?」
「当然だな」
「フィフィどうしたと思う?」
「……あれの母親は大層な美女だったが……」
そーゆー方向に考えが行っちゃうのもムリはない。
「冒険者してるんだ。ガンガン魔物倒してる」
「ま、まさか! フィフィリアの細腕では武器など持てぬであろう?」
「ドーラにはこういうものがあって」
パワーカードを見せる。
「これが武器なのか?」
「武器っていうか装備品だね。魔力を流し込むと具現化するっていうもの。慣れるとこんなこともできるよ。あそこに一輪花が咲いてるじゃん。ヒナゲシかな?」
「ん? ああ、雑草だ」
「ほいっと」
ピッと花を切る。
「お見事!」
「あんな遠くの花を?」
ヴィルが花を持ってきたので、ニライちゃんの髪の毛に挿してやる。
「うん、可愛いね」
「ありがとうぞなもし!」
「普通の武器と比べてそう遜色ない威力があってすごく軽い。女の子には向いてるね。もっともフィフィは後衛なんで、魔法で攻撃したり回復したりしてる」
「フィフィリアが魔法?」
「ドーラでは魔法を売ってるんだよ。さっきのパワーカードでも、装備すると魔法使えるっていうタイプのものがあるし」
「誰とパーティーを組んでいるのだ?」
「フィフィの執事と下男の子だよ。執事さんはできる人でさ。元々レベル二桁くらいの心得はあったね。加えてアイテムの知識とかが豊富なんだ。下男の子は『頑強』っていう前衛向きの固有能力を持っているんだよ」
執事と下男の子がいたから、フィフィはすんなり冒険者活動を始めることができた。
その点だけはツイていたと言っていい。
ため息を吐くランプレヒトさん。
「……つまりドーラには冒険者を育てる素地があるということか。ユーラシア君がフィフィリアに勧めてくれたんだな?」
「いやー、いくらあたしでもフィフィみたいなどんくさい子に冒険者勧めないわ。自分からやりたいって言いだしたんだよ」
「自分から? まさか……」
「道中でレベル二〇あったって勝てないような魔物三体に追っかけられたすぐあとに、ずっと共闘してもらえば何もしなくても強くなれるって言いやがったぞ? ステータスは高くないけど、とにかくずうずうしいわ。考え方や性格は実に冒険者向き」
「……」
絶句するランプレヒトさん。
「っていう経緯がこの本には書かれてるんだ。評判いいからぜひ読んでよ。この前帝国でも発売されてすぐ売り切れちゃったくらい」
「あのフィフィリアがなあ……。ワシは全然見えていなかったようだ」
「あたしも意外だったよ。割と真面目に冒険者稼業してるから、もうフィフィ本人のレベルも一五くらいはあるはず。帝国債の収入に頼らず暮らしていけてると思う」
「うむ」
「フィフィは軽い読み物普及における旗手として、名を知られる存在になるよ。その時は祝福してやってよ。フィフィも喜ぶと思うからさ」
「うむ、わかったぞ」
ランプレヒトさん嬉しそう。
今日来てよかったなー。
フィフィの本がもっと売れたら会わせてやろう。
「さて、ニライカナイ嬢に稽古をつけてやるか」
「「えっ?」」
「うれしいぞなもし!」
えらいパワフルな結末になったぞ?
ノルトマンさんも唖然としてるやん。
ニライちゃん喜んでるから、もう少し付き合ってやるか。
ランプレヒトさんとフィフィには、精神のありように似たところがある気がするなあ。




