表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1775/2453

第1775話:救出成功(茶番)

 隠し脱出路もゴールが近い。

 が、複数の気配を感じる。


「……やはり隠し通路の出口の場所がバレてて、待ち伏せされてるパターンか?」

「そう決めてかかってよさそうだね。まー追手が来なかったことからすると、当然っちゃ当然」

「中級冒険者レベルが七、八人ってとこだな」

「うん、魔道士がいると厄介だねえ」


 最終局面だろうな。

 ダンとひそひそ話をしながら注意深く進む。

 二人の公子、双剣のスパルタコちゃんとおかっぱのガリレオちゃんが心配そうだ。


「ここで転移の玉使うのはありだぜ?」

「ないなー。もうちょっと楽しめという神様の思し召しだよ」

「どこの神様だよ?」

「地母神ユーラシア様」


 おっと、笑うと気付かれてしまうな。


「じゃあ飛び込んで制圧か。危険を冒すメリットがあるのか? あんたのエンターテインメントだってこと以外で」

「あれ、さりげなく最大のメリットを消されたな。公子達が健在であるということを知らしめることができるよ」


 公子達を救えってクエストかもしれんよ?

 でもただ助けるだけでは、目的の半分しか達成できていないのだ。

 公正で活発なテテュス内海交易を求めるあたしとしては、親アンヘルモーセン派のクーデターを失敗させたい。

 今まで通り、親ガリアのサラセニア公国でなくてはならないのだ。

 そのためには亡き大公の息子達が生きているという事実を、これ見よがしにアピールしておくことが必要。


「応援呼ばれて乱戦になると最悪だぜ」

「わかる。できれば一太刀で片付けたいけど……」


 一撃で全員の抵抗力をなくしたい。

 でも『薙ぎ払い』じゃ与ダメージが足りなくて、反撃されそうだな。

 かといって溜め技『雑魚は往ね』は、向こうの先手を許す上にオーバーキルだ。

 じゃあどうする?


「あっ、ちょうどいいスキルがあるわ。『沈黙』付与効果ありの全体攻撃」

「ほう? あんた便利なスキル持ってるんじゃねえか。さすがだな」

「いやまあ大したことあるよ。『沈黙』が効けば魔道士の危険も減るでしょ」

「おう。じゃあ任せたぜ」

「一度も使ったことないスキルなんだ。練習にちょうどいいや」

「おいこら」


 何か?

 おそらく隠し脱出路出口前と思われる部屋に飛び込み、いきなりの……。


「黙秘剣×二!」


 バタバタと倒れる兵士達。

 騎士団員かな?

 魔法使いはいないっぽいが。


「す、すごい……。騎士団員は相当な手練なのに」

「いや、さっきのゴーレムの方がよっぽど強いからね?」

「結局オーバーキルじゃねえか」

「思ったより『黙秘剣』が威力の強い技だったわ。捕縛用のロープ用意してくれてるじゃん。縛り上げて猿ぐつわ噛ませたらクララよろしく」


 全員を蘇生させさらにあたしが『リフレッシュ』をかけたあと、騎士団員達に言い聞かせる。


「妾は精霊の巫女なり」


 にこっとキメ顔を見せると全員が硬直する。

 聖女の笑顔はこうやって使うべきなのかなあ?

 今一つ納得いかないけれども。


「サラセニア大公の正統な後嗣に弓引く不忠者めらが! しかし……」


 騎士団員らをゆっくり眺め渡す。

 ふむ、それなりに鍛えられているなあ。

 一番レベルの高い人は三〇近くある。


「汝らは騎士団長ベルナルドに逆らえなかったのであろう? 今回は許そうではないか」


 騎士団員らの間に安堵が広がる。

 やはり一部騎士団員の暴走ではなく、騎士団長ベルナルドが敵であることは確定、と。


「妾の力は先ほど見せた通りである。二度目はないと思うがよい」


 もう一度キメ顔、再び固まる騎士団員達。

 段々面白くなってきたなあ。


「妾は予言する。サラセニアの未来は正統なる大公とともにあると」


 騎士団員のあたしを見る目が尊敬を帯びてきた。

 いいぞいいぞ。

 でもスパルタコちゃんとガリレオちゃんが健在であることも、よく覚えておくんだよ。


「大公弟ヒラルス並びにアンヘルモーセンの天使どもに伝えよ。公子スパルタコと公子ガリレオは、ガリア王ピエルマルコの元に送り届ける。妾の支持する正統なる大公の帰還まで、短き春を謳歌しているがよい、とな。さらばだ」


 こんなもんだろ。

 新しい転移の玉を起動し、皆をホームに連れ帰る。


          ◇


「ここがドーラのあたしん家だよ。もう安心だから、しばらくのんびりしててね」


 一仕事してからのタイムのハーブティーは、スッキリしていいなあ。

 ダンが聞いてくる。


「さっきの精霊の巫女ってのは何なんだよ?」

「ドーラの美少女精霊使いとは名乗れないでしょうが。ドーラに関係あるなんて思われたら国際問題になっちゃうかもしれない」


 あたしは自由で平等な商売のできる世界を作りたいのだ。

 面倒な遺恨やしがらみを作りたいわけじゃない。

 だから同様にユーラシアの名も出しにくい。

 だってあたし帝国の役職持ちになったんだもん。

 個人の勝手で帝国に迷惑かけらんない。


「どーもテテュス内海諸国は、天使に対する思い入れみたいなもんがあるんだよね。で、天崇教の本部だか総本山だかがある、アンヘルモーセンが尊重されてる面があると思う」

「だから天使に対抗しうる精霊という存在を意識に植えつけてやる?」

「そゆこと」

「アドリブでやるのがあんたの冴えてるところだな」

「いや、あたしが最高なのはいつものことだけれども。騎士団長や大公の弟の名前がするっと出てきたことに自分でビックリだわ。今日は冴えてるよ」


 アハハと笑い合う。

 実際には普通の精霊が人間の社会に関わってくることはないし、悪魔や天使よりレベルが低くて弱いわけだけれども。

 二人の公子達が頭を下げる。


「感謝する。お主達がいなかったら地下で亡霊になっていたところだ」

「ありがとうございます。命の恩人です」

「いいんだよ。ところで一昨日からあの隠し脱出路を彷徨ってたの?」


 大公が亡くなったのは一昨日って話だったが。


「襲われたのは今朝の未明なのだ」

「急いで脱出路に逃れたのです」

「入り口と出口を塞いで死ぬのを待つ魂胆だったのかよ。えげつねえな。ん? どうした。何考えてるんだ?」

「大公殿下が亡くなったのが一昨日でクーデターが今朝なら、大公の死に事件性がないってのは本当なんだなーと思って」


 暗殺なら即挙兵だろ。

 丸一日以上空ける意味がない。


「さて、ヴィル。ガリアの王様と連絡取ってくれる? 緊急で重要な用件だって言ってね」

「わかったぬ!」


 消え失せるヴィル。

まあまあのイベントで、暇潰しにはなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ