第1750話:炭鉱の町マイン
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
うちの子達を連れてタルガ正門に戻ってきた。
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
よしよし、いい子だね。
トサ様がもの珍しそうに言う。
「あんたが精霊使いだってことは聞いた。そいつらがあんたの精霊か?」
「そうそう、三人ともうちの子。美少女精霊使いの愉快な仲間達だよ。こっちからクララ、アトム、ダンテね。精霊は人見知りだから普通の人とは喋んないんだ。ごめんね」
トサ様感心しとるわ。
相当精霊に興味あるみたいだな?
「ふうん、これが精霊か。人間とそう変わらねえじゃねえか」
「あんま変わらないねえ。精霊使いのあたしからすると、ノーマル人と変わらず話もできるしな?」
見た目が特徴的で、持ち魔力が全体的に多い。
素で飛んだり転移できたり、特殊な力を持つ子もいるっていう違いはあるけど。
「辺境開拓地区には精霊いないんだ?」
「見たことねえな」
「ふーん? 人間少ないところには精霊いてもおかしくないんだけどな」
まあ魔物も多いからか。
精霊にとっても暮らしやすい環境とは言えないかも。
「精霊の特徴は?」
「魔法力や最大マジックポイントが大きくて、大体魔法を使えるよ。わかりづらいけど実体を持たないんだ。だから普通の武器を使えない」
「ん? でもあんたんとこのパーティーはガンガン魔物倒してるんだろ?」
「普通じゃない装備品があるの。魔力を流し込んで具現化させるっていう」
パワーカードを見せる。
トサ様も辺境開拓民として、魔物との戦いは日常だろう。
武器には興味があるはず。
「ほーう、面白いものがあるじゃねえか。トサ様驚いたぜ」
「今日付き合ってくれるお礼として、トサ様にも一枚あげるね。『ホワイトベーシック』だよ。これ装備してると『ヒール』と『キュア』が使える優れもの」
「マジかよ? 回復魔法治癒魔法が使えるのか。すげえな!」
大喜びのトサ様。
魔物のいるところならポーションや万能薬も出回っているんだろうが、白魔法使えるのは安心感が違うからな。
「これいくらするんだ?」
「ドーラでは一五〇〇ゴールドだよ」
「ええ? 安過ぎるだろ。価格設定おかしくねえか?」
「いや、あたしもおかしいと思うけど、本当なんだ」
だって『ヒール』のスキルスクロールが一本五〇〇〇ゴールドだしな?
「多分原価が安いからじゃないかな」
「ドーラではどこでもこんなものが手に入るのか?」
「売ってるところは限られてるね。パワーカードはドーラでも知名度の高いものじゃないんだ。職人の数も少なくてさ」
「そうなのか? やたらと便利じゃねえか。もったいねえな」
魔法付きのパワーカードは売れるだろうなあ。
職人がもっと欲しい。
あ、ハマサソリがモゾモゾしてる。
「つかぬことを聞くけど、タルガの人はハマサソリ食べないのかな?」
「食うわけねえだろ。毒持ちだぞ?」
「ハマサソリの毒は熱すると分解しちゃうんだそーな。この前油で揚げて塩振って食べたらかなりおいしいの」
「ええ、マジかよ?」
「マジぬよ?」
「まー無毒化するって言っても尻尾は気味悪いから、切って食べたんだけどさ」
一斉に頷くうちの子達。
信じられんかもしれんけど一度食べてみなよ。
「まだお腹減る時間じゃないから、ハマサソリの話はいいや。ボチボチ行こうか。クララ、お願い」
「はい、フライ!」
石炭の町マインへ。
◇
「マジかよ。ほんの一〇分くらいで着いたじゃねえか。どうなってんだ?」
炭鉱の町マインに到着、フワリと舞い降りる。
「飛行魔法はレベル依存なんだ。うちのクララはレベルカンストしてるから、今のは世界一の飛行魔法だよ」
「ほおーう、精霊の嬢ちゃん、すげえじゃねえか」
声かけんなよ。
クララが慌ててるじゃねーか。
とにかく町の中へ。
「へー。町のド真ん中に街道が通ってるんだ?」
「おう。炭鉱のある道の南は、外部の者立ち入り禁止の場所が多いんだぜ。道の北行くか」
「りょーかーい」
ふむふむ、立ち入り禁止の場所が多いのか。
トサ様に案内してもらってよかった。
東西に延びる道沿いに発達していること自体は普通だな。
「宿やお食事処が多い気がする」
「炭鉱労働者が多いからだろ」
「なるほどー……危ない!」
道を歩いてた中年男性がよろけたところを、石炭を積んだ荷馬車が通り過ぎようとする。
運転が乱暴だなあ。
普通に助けるけど。
「お、嬢ちゃん、すまねえな」
「いいってことよ。あんなでっかい荷馬車初めて見たよ。マインはすごいねえ」
「マインを訪れるのは初めてかい?」
「うん。ここはいつもこうなの? 事故多くない?」
「多いな。まあボケッとしてるやつが悪いんだぜ」
さっきの荷馬車も、歩行者のことが見えてないような運転だったぞ?
労働者ケガしたら生産性落ちるんだし、何か考えなきゃいけないんじゃないかな。
足を押さえるおっちゃん。
「あ、左足ケガしちゃった?」
左足首の魔力の流れが悪い。
「いや、違うんだ。これは古傷でよ。昔荷馬車に接触した時のやつだけどな」
「結構ひどいぞ? サービスだ。治しとくよ。クララ」
「ハイヒール!」
「よし、オーケー」
「あっ、痛くねえ!」
おっちゃん大喜び。
よかったね。
「ありがとうよ。ここまでしてもらったのに何も返せねえが」
「いいんだ。代わりにこの町の問題点があったら教えてよ。交通の危険以外で」
「飯が不味いんだ」
「そりゃ大問題だね」
アハハと笑い合う。
マインの食料はほぼ帝国本土から運んでくるということらしい。
空飛んできて植生を見た感じだと、この辺なら農業できると思うけどな?
そしてタルガの魚も入んないのか。
「食料もタルガまで運んで売った方が儲かるんだろうよ。マインにはロクな食い物が入らねえ」
「あれ? 高く売れるところで売るのは当たり前だな。メッチャ納得の理由だぞ?」
「マインは所詮炭鉱の町だからな。石炭以外に何もねえよ」
「ふーん、もったいない気がするな」
今後帝国が内海貿易に本格的に乗り出すとすると、このマインも商人が多く立ち寄る町になるはずだ。
でもこんな魅力のない町だと、商人のテンション下がっちゃうぞ?
労働者の士気だって上がらないだろう。
マインの梃入れは地味に重要だ。
「おっちゃん、ありがとう!」
「こっちこそありがとうよ」
再びクララの高速『フライ』でびゅーん。
動力船の原料の産地マインが近くにあるからか。
タルガが港町として栄える理由の一つだな。