第1736話:おいしいお肉のエサ
――――――――――二七二日目。
「雨かー。雨が降ってしまったか」
翌朝、ざあざあではないけれど、しとしと降っている。
むーん?
「姐御、どうしやす?」
「考えなきゃいけないね。ダンテ、これどこが雨降ってるのかな?」
「ドーラのセンターからイーストはレインね。エルフのコロニーは降ってないね」
「ほうほう、西は雨降ってないのか。クララ、飛行魔法って雨の日使うとどうなのかな?」
「空気の膜が雨を弾きますよ。濡れません」
雨降ってる時の使用感までチェックしてるんだな。
さすクラ。
新しい転移の玉を渡す。
「昼御飯は雨の日のパターン通り、海の王国にお邪魔しよう。あんた達はお肉狩って来てね。あたしはエメリッヒさん連れて、エルフの里行ってくるよ。ワイルドボア飼育の状況がどうか、様子見てくる。場合によってはアビーとエメリッヒさんも海底に連れてくかも」
「「「了解!」」」
「よーし、行ってくる!」
『遊歩』のパワーカードを使用し、エメリッヒさんの小屋へびゅーん。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
エルフの里にやって来た。
ハハッ、エメリッヒさん驚いて、キョロキョロしてら。
「ほう、ここがウッドエルフの住処近くなのか? すげえ森だな」
「木が巨大だよね。エルフは森の恵みで生きてるんだって。木を大事にしてるんだよ」
「エルフって耳が長いって聞いたことあるが、本当なのか?」
「うん、長い。でも耳が長いのは森エルフの特徴だって聞いたことあるな。洞窟に住むエルフはそうでもないらしいけど、会ったことないからよくわかんない」
明らかにワクワクしてるのがわかるわ。
やっぱ宮廷魔道士やってたような人は、未知のものへの好奇心が強いなあ。
さて、門だ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「おう、お客人か。いらっしゃい。そちらは初めてかな?」
「元帝国宮廷魔道士のエメリッヒさんだよ。カナダライさんがワイルドボアの家畜化進めるって話あったじゃん? あれどうなってるか、様子見に来たんだ」
「おう、順調だぜ」
「やたっ、順調か!」
「ただ……」
「わかってるわかってる。エサに困ってるんでしょ?」
「そ、そうなんだぜ」
エルフは森の恵みに頼っている。
逆に言うと、農耕が得意じゃないってことだ。
ワイルドボアのエサには、あちこちから草や根を取ってくるしかないんじゃないか。
小麦作ってるならそろそろ収獲時期だけどな。
「あたしもワイルドボアの家畜化にはメッチャ協力したいんだ。エサとしてどうかなと思われるものを持ってきたよ」
「おお、助かるぜ! 通ってくれ」
まず族長アビーに挨拶してこよっと。
一番大きな三角の建物へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「あら、ユーラシアさん、いらっしゃい」
「お土産だよ、はい」
「おにーく?」
「いえーす、いっつおにーく!」
「やったあ!」
しなやかにくるくる回るアビー。
この辺の反応はバエちゃんに似てるなあ。
「そちらはどなたでしょう?」
「エメリッヒさん。今カナダライさんがお肉を育ててるでしょ? その助けになると思われる人だよ」
「まあ! 大切な肉フレンドではないですか!」
「そうそう。お肉はどこで飼育してるかな? 見学したいんだ」
「御案内しますね」
ところでエメリッヒさん、一言も発しませんね?
肉フレンドはやめろと言いたげですけど、今更抜けるなんて許さないぞ?
ブタの復活はあたしにとっても楽しみなんだから。
「エメリッヒさん喋んないけどどーした?」
「いや、色々言いたいことあるんだが、エルフの村なんだなあと」
「何当たり前のこと言ってんだ。エルフの村に遊びに来て、帝国の宮殿みたいのが建ってたらビックリだわ」
「族長殿が白いのは何故だ? 特別だからか?」
「森エルフは普通、緑色っぽいんだけど、アビーは特別っちゃ特別だな。神話だか伝承だかに『白き族長が民を導く』ってのがあるそーな。生ける伝説的なやつ」
「すげえんだな」
「それほどでもあるんですのよ」
この辺あたしに似てる返しだな。
しかしアビーと似てるってどうなんだ?
危機感を覚えなきゃいけないかしらん?
「魔法も達者で、炎・氷・雷三系統の魔法を使うって聞いたな。合ってる?」
「合ってます」
「森エルフって、風魔法が得意なイメージあるけどな?」
「そ、それはその通りなんですけれども……」
どうしたアビー。
何故挙動不審になるのだ?
「私は風魔法をほぼ使えないんです。歴代の族長は皆風魔法が得意と聞いていますので、恥ずかしくて……」
「謎の羞恥心だな」
アビーはもっと恥ずかしがらなきゃいけないとこあるだろ。
「あれ? でもアビーは風魔法くらい作れるでしょ?」
「おい、作れるってどういうことだよ?」
「アビーは伝説級大魔道士だから、自分でオリジナルのスキル作れるんだよ」
「マジかよ! この前の幼女魔道士も、一人でスキル作るって話だったじゃねえか。ドーラどうなってんだ?」
正確にはペペさんは幼女ではない。
「まードーラは魔物が身近で、優れた魔法やバトルスキルが必要って現実があるじゃん? 帝国みたいにスキルを管理されてるわけじゃないし、近場で魔法ぶっ放してもさほど怒られるわけじゃないし」
ある程度無茶が許されてるところへ、アビーやペペさんみたいに才能あって箍の緩んでる人が誕生しちゃうとどうなるか?
独力で魔法作れる人のでき上がりなんだなあ。
環境大事。
「私は怒られましたよ」
「以前アビーが『大木斬り』っていう風魔法作った時、森の一区画から木が消え失せたんだそーな。で、足が冷えるからスキル作るのやめたって」
「全然わからねえ! 前後の脈絡がねえ!」
「伝説級魔道士のエピソードなんて、パッと聞いて理解できるもんじゃないんだって」
本当だぞ?
何故かアビーが勝ち誇ったような顔してるけど。
「お、これサツマイモだろ?」
「うん。アビー、これもう大丈夫だわ。ひゅるっと伸びたつるを三分の一ヒロくらいに切って、畑に挿すの。水さえ十分なら、挿したやつ全部が苗になるからね。結構大きく広がるんで、半ヒロくらい離して植えた方がいいよ」
「わかりました! おいしいお肉のエサ!」
「焼いたり茹でたりすると、人間が食べてもおいしいんだぞ? アビーの好みかはわからんけど」
アビー油っぽいもの好きだからな。
甘いものはどうなんだろ?
アビーの言い回しは割と独特。