第1729話:本官の職責と違うでござる
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア」「「ユーラシア君!」」
近衛兵詰め所に付いた途端、三人の殿下に話しかけられる。
ウルピウス殿下と双子皇子だ。
ウ殿下はやれやれって顔だけど、双子皇子焦ってない?
何で?
もう皇帝選のことなんか考えなくていいくらいだぞ?
お父ちゃん閣下もプリンスルキウスも、双子皇子のことなんか何とも思ってないだろ。
「マルクス兄上ガイウス兄上が大変お困りのようでな」
「「そうなのだ!」」
「何でよ?」
おかしいな?
一昨日の皇帝選壮行会セレモニーのことを知っていれば、もう双子殿下の存在など毒にも薬にもならないということが知られてると思ったのだが。
つまり将来の皇帝に目の敵にされることなどない。
双子殿下のお嫁さんの実家の懸念は解消しているはずでしょ?
ウ殿下が説明してくれる。
「皇帝選立候補者の新聞報道と壮行会での、兄上達の扱いについてなのだが」
「うん」
「他の候補者達から敵認定されていないのはよく伝わった。しかしあまりにも兄上達の存在感がなさ過ぎるのではないかとのことでな」
「えっ?」
意外な視点だな。
存在感がないのなんか元々だろ。
本官の職責と違うでござる。
とゆーか下手に目立つ皇子だったら、皇帝選の波乱要因になっちゃってたわ。
立候補の影響だって、もっと面倒なことになってたぞ?
「……つまり、双子皇子の皇族としての人脈なり影響力なりを期待して娘を嫁がせたのに、話が違うではないか。っていう、お嫁さんの実家からの切なるクレーム?」
「「「正解だ」」」
「知らんがな」
「「何とか手を貸してくれ!」」
双子皇子慌ててるが気付いてるか?
ウ殿下が珍獣を見るような顔で見てんぞ?
報酬取り立てるぞーって言ってた時、双子皇子が喜んでたのはこれか。
物事を平和に収める聖女の鮮やかな手腕を見て、嫁さんの実家の文句も何とかしてくれるんじゃないかと気がついた。
だからあたしとの絡みを大事にしようと考えた。
小知恵が回るんだから。
情報を小出しにすんな。
「双子皇子見てて何で存在感空気なのわからんかな? あっ、自分を偉く見せようと、お嫁さんにホラ吹いてたんでしょ?」
「「じ、実はそうなのだ!」」
お嫁さん美人って話だったしな。
ものにするために自分を大きく見せる必要があったということか。
鳥の求愛行動みたいに思えてきたけど、虚勢を張ること自体はよくあることだ。
双子皇子のスペックが、あまりにもお嫁さんの実家の要求を下回り過ぎてたということだな?
「パス」
「「ええっ!」」
「ええ、じゃないわ! 手伝う理由がないじゃん。あたしだって暇じゃないわ!」
「ユーラシア君は短期間に帝国中にその名を知らしめた実力者だから」
「ユーラシア君は苦難に直面している者を見捨てない評判の聖女だから」
「真実を告げられちゃしょうがないな。実力者で聖女なユーラシアが救いの手を差し伸べてやろう」
「「ちょろっ!」」
ちょろくないわ!
まあまあ面白そうではあるから。
侯爵伯爵に顔繋ぎできるのも悪くないしな。
「ウ殿下も来てよ」
「構わんが、何故だ?」
「ウ殿下は若いけど、見るからにやるやつで前途洋々じゃん? ウ殿下みたいな人が双子皇子のことを気にかけてるっていうシチュエーションは、説得力が増すんだよね」
「「ウルピウス、助かる!」」
でも双子皇子随分仲良くなったんじゃないの?
それだけで相乗効果ある気がするけど。
え? 両方ゼロだから相乗したってゼロだって?
メッチャ納得の理由で自己完結だわ。
「どこ行きゃいいかな?」
「「ラウンジだ」」
あ、皇宮内に皆さん集まってるんだ。
ラウンジへゴー。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
えーと紹介お願いします。
ザイフリート侯爵家当主のバルトロメウスさんと、左分け皇子のお嫁さんのペトラさん。
キルヒホフ伯爵家当主のインゴルフさんと、右分け皇子のお嫁さんのジルケさん。
あーんどチョップ男爵家当主のルイトポルトさんに、それぞれのお付きの人ね。
了解でーす。
ペトラさんとジルケさん、似たタイプの可愛らしい人だな。
双子は女性の好みも似るらしいニヤニヤ。
何でもいいけど、皆当主様お出ましやんけ。
先帝陛下が亡くなったことを知って帝都に出てきたにしては早過ぎる。
プリンスの結婚式で来て、陛下の容態がかなり悪いという情報を得たと考えるのが妥当か。
最も身分の高い侯爵バルトロメウスさんが話しかけてくる。
「ようこそ。高名なユーラシア殿に会えると聞きましてな。ウルピウス殿下も御足労いただきありがとうございます」
あれっ? ちょっと思ってたのと違う状況だな。
これはあたしに対する好奇の目だ。
サボリ土魔法使い近衛兵と双子皇子の話から、お嫁さんの実家が困ってるから知恵を拝借ということかと思ったけど、必ずしもそうではないらしい。
でもお嫁さんの実家からつつかれてるのは本当みたいだな。
双子皇子が人脈を見せろって言われて、評判の美少女であるあたしに白羽の矢を立てたってことか。
言葉が足らんわ。
となればごくオーソドックスに……。
「じゃ、この前の皇帝選壮行会に至った経緯から簡単に説明するね」
得意技美少女精霊使いの説得力を見よ。
ぺらぺらぺらの助。
「……遊びの延長のつもりか、イモでも食ってろって主席執政官閣下は大変御機嫌斜めだったよ。でも市民にも選ばせるって形式なんで、ある程度候補者の数がいた方が賑やかしに……皇帝選の正当性が強まるから、双子皇子の立候補は意味のないことじゃないの。最終的にはいい落としどころで全然問題ない。これから先余計なアクションを起こさず大人しくしてればだけど」
「余計なアクションとは?」
「例えば右分け皇子、右分け皇子でございます。皇帝になったらあんなことをします。貴族の皆さんにはこんな便宜を図ります。ですから予に清き一票をっていう選挙活動。自分達が仕事で忙しいのにあいつらは一体何やってんだと将来の皇帝陛下の不興を買うと、お嫁さんの実家ともども徹底的に排斥されるよ。特に主席執政官閣下が当選すると必ずそーなる」
震え上がる一同。
これこの前双子皇子には言ったことだけどな。
一応念のため。
「重々注意いたします」
「いたしてくださいぬ!」
アハハ、ちょっと雰囲気がくだけた。
ヴィルいい仕事だね。
ヴィルは雰囲気を読むのが上手。
どうしたらいい感情が得られるというのがわかっていて、最近その技がかなり磨かれているね。