第1724話:リリーと焼き肉
「ほほう、大変な賑わいではないか」
リリーと黒服を連れて、カラーズJYパークに焼き肉パーティーを堪能しに来た。
ちなみにヴィル以外のうちの子達は、灰の民の村で他の精霊達と焼き肉を楽しんでいる。
「でしょ? でも一年前はここ、何にもなかったんだ」
「どういうことだの?」
「リリーはカラーズに来たの初めてだったかな? 帝都に比べりゃ人口何十分の一しかないんだけどさ。ドーラでは大きめの集落の集合体なんだよ。でも集落同士仲が悪くてね。ほとんど交流がなかったの」
「ふむう。今この盛況からは考えられんではないか」
「本当にねえ。感慨深いよ」
全ては黄・黒・灰の民の村の焼き肉親睦会から始まった。
懐かし過ぎて、涙がちょちょぎれる前にお腹がぐうと鳴っちゃう。
「今日の焼き肉パーティーは、ぬしが肉を調達しているのか?」
「そうそう。お肉狩ってきてパーティーやるぞーって。今月の移民が来たばかりだから、親睦を兼ねてね」
「精霊使いユーラシアではないか」
「あ、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
焼き肉の列に並んでいたら、黄の民族長のフェイさんが来た。
「そちらは?」
「帝国の第七皇女のリリーとその従者セバスチャンさんだよ。皇女の分際で不埒なことに、塔の村で冒険者やってんの。リリー、彼はハオランの姉ちゃんの旦那さんでフェイさん」
「うむ、よろしく」
「こちらこそ」
握手。
「おいしそうに焼けたところを持ってこさせよう」
「おいしそうってとこに惹かれるけどいいんだ。ゆっくり楽しんでいくから」
「そうか。皇女殿下よ、存分に満喫していってくだされ」
「うむ、ありがとう」
にこやかに立ち去るフェイさん。
カラーズの各村がまとまりを見せているのは、フェイさんの存在が大きい。
「……考えてみりゃ、カラーズにもリリーと関わりある人が何人かいるなあ」
「何? そうなのか?」
「うん。この辺歩き回ってりゃ会うんじゃないかな」
「しかし腹を満たす方が先であろう?」
「もっともなことだね。外で食べる焼き肉ってすげえおいしいの。堪能していこうよ」
◇
「ふー食べた食べた。満足です!」
「満足だぬ!」
あれ、リリー複雑な顔してるじゃないか。
何故に?
「ただで食べたと思うと気が引けるの」
「そーゆー感想の人って初めてだから新鮮だわ」
「む? 皆ずうずうしいのだの」
「今日はお祭だからいいんだよ。申し訳ないと思うんだったらあたしを崇めなよ。今日のお肉を提供してるのあたしだぞ?」
「肉の女神万歳!」
「おお? 肉の女神ときたか。さすがリリー」
アハハと笑い合う。
あ、あれは……。
「おーい、カグツチさーん!」
「おう、精霊使いではないか。そちらのお嬢さんは?」
「美少女精霊使いのユーラシアだよ」
「悪魔のヴィルだぬよ?」
「そうでなくてだな」
アハハ。
ついやりたくなってしまう、いわゆる一つのお約束ってやつだよ。
ヴィルもわかってるので、バツグンのタイミングでカットインしてくるし。
「帝国の第七皇女のリリーだよ。塔の村で冒険者やってるの。レイカとは冒険者友達なんだ」
「何と。皇女殿下が奇特なことだ」
「レイカの父ちゃんのカグツチさん。リアクションがレイカと似てて笑えてくるよ」
握手。
「レイカは元気でやっていますかな?」
「うむ、夕御飯は大体レイカとも一緒になるのだ。その日起きたことを話したりしている。レイカは最近、結構な大物を仕留めるのが日課のようだぞ」
「うむうむ、達者ならよろしい。レイカのパーティーには男子が二人いるでしょう? レイカの婿はどちらになりますかな?」
思わずリリーと顔を見合わせる。
「ユーラシアはどう思う?」
「いや、あたしはレイカとしょっちゅう会ってるわけじゃないしな。むしろリリーの見解を聞きたいんだけど」
レイカんとこのパーティーは、不思議なほどラブい雰囲気がない。
という印象をあたしは持っていたけれど、最近どうかは知らんもん。
しかしジンもハオランも思惑があって冒険者活動をしている。
レイカの将来と交わらん気はするけどな?
「レイカはモテるのだ」
「むちむちでばいんばいんだもんねえ」
「塔の村で古株であるし、画集で名を覚えた者も多いしの。しかし異性の話をしているのを聞いたことがないな。冒険者活動に打ち込んでいるからではなかろうか?」
「わかる」
レイカは性格的に脇目を振らないんだよな。
前しか向いてない。カグツチさんが困ったような顔をして言う。
「レイカもいい歳だ。いつまでもそんなことではよろしくないのだが」
「レイカは思い込んだら突撃って感じじゃん? 今はしょうがないんじゃないかな。大体まだ冒険者始めて一年も経ってないんだから。一番楽しい時だと思うよ」
「孫の顔を見たい」
「あんたはあんたで先走り過ぎるなとゆーのに」
まったく親子だなあ。
カグツチさんも一人で寂しいんだろうけど。
「レイカんとこのパーティーは、長いこと活動することないと思う」
「そうか?」
「うん。パーティーメンバーのジンが紙屋の息子で、いずれ実家の商売が忙しくなるから呼び戻されるだろうし」
同じくパーティーメンバーのハオランは、故郷の自由開拓民集落クルクルを栄えさせたいという目的がある。
魔物を倒せる強さは欲しかったろうけど、必ずしも冒険者活動がしたいというわけでもないだろう。
パーティー解散となった時に、冒険者を続けたいモチベーションがレイカにあるかって考えると疑問だな。
「するとレイカはいずれ赤の民の村に帰ってくる?」
「多分。いや、冒険者って長く続ける人は稀だからね? 当然戻ると思うよ」
頷くカグツチさんと黒服。リリー聞いてるか?
生活を安定させて、趣味でたまに冒険者活動やるくらいの方が幸せだと思うよ。
転移石碑と転移の玉があれば十分可能だ。
嫁にいくことも真剣に考えなよ。
求められてることなんだから。
リリーが言う。
「ぬしはずっと冒険者を続けるのであろ?」
「初めの目的だった、魔物を倒せるレベルは手に入れたからな。おゼゼとお肉に不自由しなければ冒険者なんかやらないと思うわ」
「つまり生涯冒険者ではないか」
「あれ? そうなるのかな?」
「そうなるぬ!」
爆笑。
まあ楽しさを追い求めるために、冒険者もいいものだ。
「カグツチさん、またねー」
「バイバイぬ!」
さらにウロウロ。
リリーもいずれカラーズを案内したかった。
祭りの日でよかった。




