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第1707話:くだらぬ二人の皇子

 ――――――――――二六八日目。


「よーし、今日もいい天気! イチゴがうまーい!」

「ユーちゃんはいつも元気がいいなあ」


 凄草株分けの日なのだ。

 涅土の精霊畑番のカカシ並びに大悪魔バアルと話をしながら作業を進める。

 公爵フリードリヒさんにもらったイチゴの品種『パウリーネ』が、美味いし甘いし大きいしで大変よろしい。

 

「帝国の皇帝が亡くなったんだろ?」

「お亡くなりになった。御愁傷様です。急に忙しくなって大変だった」

「コンスタンティヌスは賢人といって差し支えない皇帝であった」

「へー。バアルの評価でも賢い人なのか」


 あたしは会ったことないからよくわからん。

 まあでも考えてみりゃ皇帝が病気で寝たきりなのに、何の問題もなく国が治まってた。

 また市民の皇室への尊敬がすごく篤い。

 信頼と実績があったからなんだろうなあ。

 

「コンスタンティヌスが即位した時、皇位継承権保持者は二人しかいなかったのである」

「マジか」


 つまり弟レプティスさんともう一人しかいなかったってことか。

 そりゃヤバいな。

 流行り病でも発生すると、皇帝候補がいなくなっちゃったかもしれない。

 乱の元だわ。


「元来身体が強くなかったにも拘らず積極的に子をなし、皇帝家の血筋の安定に貢献したである」

「ただの好色皇帝じゃなかったってことだな?」

「でも皇位継承権保持者は多けりゃ多いで揉めるからなー」

「皇太子を定めれば揉めないである。第一皇子ガレリウスの身体が弱かったのは、コンスタンティヌス一代の不運であった」

「確かにねえ」


 バアルの言うことは、作為的に悪感情を得ようとするのでなければすごくまともだなあ。

 知識も思考力もあるからだろう。


 仮にガレリウス殿下の身体が頑健であったなら、立太子されてスムーズに皇位を継いだんだろうな。

 優秀な兄弟に補佐される幸せな時代が到来したに違いない。

 あれ、でもそーなるとドーラの独立もなく、あたしの人生こんなに面白くならなかったかもしれないな。

 エンタメとの両立って難しいもんだ。


「最終的に皇帝に立候補したのは、ドミティウス、ルキウス、レプティスの三名であるか?」

「今のところはね。立候補は今日締め切りなんだ。最終的に誰かはまだわかんない。あたしの知ってる範囲では、今名前の挙がった三人だよ。あと第五皇子と第六皇子が立候補するかもって話だった」

「マルクスとガイウスであるか」

「どんな人?」

「くだらぬやつである」

「了解」


 バアルは優秀じゃない人に全然興味を示さないからな。

 ただゼムリヤのヒゲピンのおっちゃんでわかるように、採点が辛い傾向はある。

 マルクスとガイウスという二人の皇子も、人間としては面白い人かもしれない。


 もっとも当選を狙う気があれば、同母兄弟なら立候補一人に絞るだろ普通。

 あんまり頭いいとは思えん。

 おまけにバアルがくだらぬやつって言い切るような人達に、会ってみたいとは思わん。

 あたしだって暇じゃないのだ。


「フロリアヌスは出馬せぬのであるか?」

「一つの焦点だよね。本人は出るつもりはないらしいんだ」


 フロリアヌス殿下は皇位継承権二位。

 一位のセウェルス殿下が脱落した今、皇帝になったって全然おかしくない、正統な皇妃様の子だ。

 ただフ殿下は人気や年齢、政治的実力からして、立候補しても当選することはないだろう。

 でも皇位継承権の優劣を重視する、原理主義者的な層の票をかなり取るんじゃないかな。

 主席執政官閣下とプリンスルキウスに流れる票数が変わるので、当落の撹乱要因になりそうなのだ。


「一番支持された者がトップになるって、わかりやすくねえか?」

「うん。わかりやすい」

「しかし人気だけならリリアルカシアロクサーヌになるであろう?」

「人気だけだとリリーかもね。ただ帝都の新聞社が行った次の皇帝になってほしい人っていうアンケートではプリンスルキウスが一位、主席執政官閣下が二位、リリーは三位なんだよ」

「ほう」「ほお?」


 人気だけだと計れない部分とゆーか、見るところは見られてるとゆーか。


「ではルキウス皇子が皇帝になるのか?」

「いや、そんな簡単じゃないんだ。これあくまで新聞読んでる人のアンケートだから。読んでない人には別の思惑もあるんじゃないかな」

「主の予想ではどうであるか?」

「わっかんないなー。主席執政官閣下かプリンスルキウスか、どっちかであることは間違いないよ。でもどっちだって言われるとまるでわかんない」

「主はルキウス推しなのであろう?」

「まあね。でも主席執政官閣下も大分あたしの存在に慣らしたったから、皇帝になってもドーラは困んないと思う」

「言い草がすげえ!」


 ハハッ、吹いたった。


「以前の閣下はバアルと陰謀を企てる、内向きの人だったわけじゃん? でも最近はそんなことないんだよね。積極的に女性を取り立てようとしてるし、多分皇帝になってもプリンスを執政官に据える気がする」

「ふむ、ドミティウスも変わったであるな」

「側にいる悪魔がバアルからガルちゃんに代わったってことも大きいと思うけどね」

「ドミティウスの考えに影響があるであるか?」

「ガルちゃんはバアルほどの大悪魔じゃないじゃん? あたしから見ると扱いやすい無害な子」

「照れるである」

「何でそこで照れるんだ。この大悪魔め」


 アハハと笑い合う。

 ガルちゃんは気配を消すのが上手だ。

 例えば閣下に言われた通りに誰かを探ってくるとか、振られた仕事はそつなくこなすんだろう。

 でも自分から積極的に悪巧みするような子ではないのだ。

 閣下を巻き込んで大胆な悪事や戦争を計画するようなことはない。

 というかバアルみたいな凝り性の悪魔が特殊なのかも。


「ユーちゃんの思い通りに物事運んでるじゃねえか」

「メッチャありがたいわ。皆が大体あたしの言うこと聞いてくれるんだよね。美少女は得だって思ってる」

「美少女もおっぱいが小さいのも関係ないである」

「何でおっぱいの大きさと並列の関係なんだよ。まったくバアルは主人に対して不敬だと思わないのか」

「おっぱいが小さいのは些細な瑕瑾である。吾が主が優れた存在であることには変わりないである」

「バアルはいいこと言うなあ」

「実にちょろいである」

「何だとお!」


 アハハ、楽しい掛け合いだなあ。


「よーし、作業終わり! 朝御飯タイムだ!」

べつに会いたくないのに、こーやってフラグを立てると会わなきゃなんなくなる宿命。

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