第1678話:明日遺書の内容を発表する
陛下が亡くなったことで、施政館のトップ達が柄にもなく浮き足立ってるのか?
帝国が混乱したらドーラのためにならんと言ったところだろーが。
まードーラについてはこの際慮外なんだろうけど、あたしにとっては重要なんだわ。
比較的事情のわかってるプリンスルキウスとリモネスさんがこっち見てくる。
気合入れてくれって?
遺書についてはあたしにも責任があるからな。
了解。
「陛下が亡くなりました。次の皇帝決まってませんじゃ、どうやったってある程度は揉めるんだって。皇帝が決まらない間ずっとゴタゴタは続く。有効な手を打てないでいる内に皇帝候補者達が暗殺でもされたら、収拾つかなくなっちゃうでしょ?」
アデラちゃんとパウリーネさんの顔から血の気が引いとるがな。
よしよし、ヴィルは肩車してやろうね。
「でも遺書がありますよ、あたしが持ってるよ、明日発表だよとなれば、注目は遺書とあたしに集まるでしょーが。世論が沸騰はするけど混乱はしないな。あとは遺書の内容次第だね」
「うむ、ユーラシア君の言いたいことはよくわかる。しかし……」
閣下はまだ何かあるのかよ?
恨みがましい目を向けんな。
「一人で片付けるんじゃなくて、施政館に相談して欲しかったな」
「一人で片付けたわけではないとゆーのに。うっかりさんとリモネスのおっちゃんが、施政館じゃなくてあたしに遺書を預けたことから察しなよ」
「……」
ぐうの音も出ない閣下。
揉み消される可能性、騒動の中で紛失してしまう可能性。
あたしが遺書を持っていることが陛下の意にかなうと、二人は考えたのだ。
「だが新聞記者に前もって知らせておくのはやり過ぎだろう!」
「やり過ぎではないって。実際に遺書持ってるのはあたしだし。お取り潰し覚悟で情報漏らすほど記者さん達も度胸ないだろうし」
「「「ユーラシアさん!」」」
アハハ、冗談だとゆーのに。
実際のところ、新聞記者の方から陛下の遺書が存在するという話が漏れても、どうってことはない。
だって遺書の内容知らないし、存在を証明することもできないしな。
いかにもありそうな噂話レベルでしかなかった。
「目の前のある問題を始末しようじゃないか。えーと、市民を抑えるのが先かな? それとも御飯?」
「もちろん市民を安心させるのが先だ。できるかい?」
「できるよ。拡声器貸して」
どうせ新聞記者トリオが施政館に連れ込まれたことは知れ渡ってるわ。
だったら施政館前には大勢市民が押し寄せてるはず。
玄関に行ってみると……。
「おーやっぱり大騒ぎ。帝都は人口が多いなあ」
「ゆ、ユーラシアさん!」
職員達が何とか収めようとしてるけど、こーゆーのは聞きたいことを聞かせてやらないとムダだぞ?
あたしに任せなよ。
拡声器に手を伸ばす。
『レディースアンドジェントルメーン! ドーラの美少女精霊使いユーラシアですよ。皆さん、あたしのために集まってくれてありがとう!』
「「「「「「「「そういうのいいから!」」」」」」」」
ハハッ、総ツッコミだ。
自分が重要人物になったみたいで気分がいいなあ。
いや、あたしは既に重要人物だったわ。
『皆さんは号外の内容は理解してるかな?』
「見た。本当なのか?」
「記者は縛り首か?」
『記事は本当で記者さん達は無事だとゆーのに。そしてじゃーん! これが陛下の遺書だよ!』
ナップザックから取り出した二通の遺書を高々と掲げる。
群集の視線がウルトラチャーミングビューティーじゃなくて、遺書の方へ行っとるわ。
あたしは重要人物だと思ったけど、遺書に負ける程度だった。
まだまだだなあ。
「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」
『グレゴール元公爵と賢者リモネスは公明正大なあたしに遺書を預けた!』
「「「「「「「「うおおおおお!」」」」」」」」
『封は見えるかな? まだ開けてないから、内容は誰も知らないんだ。ただリモネスさんによると、皇帝後継者に関する重大な決定について書かれていると断言できるとのこと!』
「「「「「「「「うおおおおお!」」」」」」」」
『明日の午前中、帝都中央広場にてこの二通の遺書を開封、内容を読み上げるぞ!』
「「「「「「「「うおおおおお!」」」」」」」」
『今日発表できるのはこれで全部! 帝国市民諸君よ、まだ知らない人達にこのことを伝え、明日を楽しみに待て!』
群衆が急ぎ足で散っていく。
こんなもんだろ。
疲れ切った様子の受付のお姉さんが言う。
「た、助かりました。ありがとうございます」
「来るの遅くなってごめんよ。主席執政官閣下がガタガタうるさいもんだから」
「ユーラシア君だって昼食が先かみたいなこと言ってたじゃないか!」
「言ってたね。責任半分こだ」
アハハと笑い合う。
ん? プリンス何?
「ユーラシア君は呆れるほど市民の扱いがうまいな」
「あたしはイベント盛り上げるの大好きだよ。お祭りやるんだったらあたしにも関わらせてよ」
青汁イベントの時もどうのこうの呟いてるけど、聞かなかったことにしよう。
プリンスはまだ青汁を根に持ってるのか。
あれは自分で飲んだんだぞ?
「政治家向きの資質だが……」
「政治家は真面目なほど儲からないって聞いたよ。ならあたし向きではない」
来月からあたしを、非常勤の施政館参与兼臨時連絡員にしてくれるって話だったか?
あたしも兼業政治家になるのかな?
閣下が言う。
「明日の会場の設営は政府で行おう。遺書の内容発表については任せていいかな?」
「うん、任せて。って言っても手紙読むだけだけど」
「父上はかなりのクセ字だ。身体が弱っていたこともあるから、相当読みづらいと思うが大丈夫か?」
「え、そーなん?」
閣下ったら予想外の情報放り込んで来たな。
と思ったら悪い顔してるわ。
あ、あたしが手紙の内容読んでるか反応でチェックするつもりだったのか。
「まーうっかりさんとリモネスのおっちゃんがいれば問題ないな」
「会場には警備に騎士を動員しておくよ」
「うん」
騎士がいるなら一応の秩序は保たれるだろ。
揉みくちゃになって会場に辿り着けないなんてこともなさそう。
遺書の内容発表の段になれば静まり返るだろうし。
『ぐう』
「お腹が反乱を起こしそうです。速やかに適切な対応をお願いします」
「すぐ昼食を用意させよう」
「やたっ! 閣下ありがとう!」
明日は遺書の内容発表イベントだ。
さりげなくあたしの存在感が高まるなあ(さりげなくない)。




