第1673話:新婚と新婚未遂
「パウリーネさんも一緒でいいじゃんニヤニヤ」
「いいと言っているだろう!」
「強情だなー」
プリンスルキウスを連れて、施政館からあたしん家まで戻ったところだ。
プリンスの御機嫌がとっても斜め。
皇帝陛下がお亡くなりになったことを、今から各地に伝えに行かなきゃいけないのに。
拗ねてていいと思ってるのか、まったく。
「パウリーネさんと何か予定があったんでしょ?」
「……公爵邸を訪れ、食事まで時間を共にする予定だったのだ」
「あ、まだパウリーネさん皇宮に住んでないんだ?」
「まだ皇宮側もパウリーネ側も整理ができていないからな」
結婚が急だったから準備が整ってないんだな?
でもさあ……。
「やっぱイチャイチャするつもりだったんじゃん。意地張らないでパウリーネさん呼ぼうよ。それのが楽しいよ?」
「いいと言っているだろう!」
もー頑固だな。
「どっちにしても陛下御逝去じゃ、のんびり会食なんてムリじゃん」
「……やむを得ないな」
「プリンスは心得てるからいいかもしれんけど、パウリーネさんがガッカリしちゃうかもしれない。可愛そうじゃない?」
「む……しかし君はからかう気満々なんだろう?」
「満々だけれども」
「満々だぬ!」
そら見たことかみたいな顔しても、あたしはラブい雰囲気が好きなんだもん。
からかいたいお年頃なんだもん。
「会食はダメでも、パウリーネさん連れてあちこち連絡するのはありだぞ? お仕事なんだから。パウリーネさんいたって邪魔になんないし、皆さんに紹介しとくのはむしろいいこと」
「……理屈は正しい気がするが、もう一つ納得いかないというか」
「まーいいじゃん。少々冷やかされてもパウリーネさんが喜んでくれる方が」
「……それもそうか」
「間違った。大々的に冷やかされてもパウリーネさんが喜んでくれる方が」
「……冷やかさない選択肢はないんだな?」
「ないんだぬ!」
ヴィルの断言。
よしよし、いい子だね。
主人のファイナルアンサーを正確に酌んでくれる。
「……仕方ない。ヴィル、パウリーネと連絡を取ってくれるかい?」
「これ持っていってね」
「はいだぬ!」
新しい転移の玉を持ってヴィルが掻き消える。
「ガリアの王様に、プリンスが次期皇帝の有力候補だぞって伝えてあるんだよ。どうせなら夫婦で訪れると印象がいいじゃん?」
「一理あるな。以前から考えていたことなのかい?」
「今思いついた理屈だけれども」
呆れたような視線を向けたって、防御力の高いあたしには刺さらないとゆーのに。
赤プレートに反応がある。
『御主人! パウリーネだぬ!』
「パウリーネさん? プリンスルキウスに代わるね」
「パウリーネかい? ルキウスだ。陛下が崩御されたという報は知っているかな?」
『はい、つい先ほど伺いました。大変驚いているところです』
「今からユーラシア君とともに、各地に連絡して回らないといけなくなったんだ。だから……」
『お食事会は中止ですね。残念ですが仕方ありません』
「あちこち行くから、パウリーネさんも来ない? ってことなんだ。新婚旅行だよ新婚旅行」
『よろしいんですか?』
「もちろんいいよ。紹介したいところもあるんだ」
『ぜひお願いします!』
「じゃ、ヴィル。パウリーネさん連れてきてね」
『わかったぬ!』
これでよし。
簡単じゃねーか。
パウリーネさんだってプリンスとあちこち行きたいんだからニヤニヤ。
あ、来た来た。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
「ルキウス様!」
「パウリーネ!」
ハハッ、あっちでもぎゅーしてるじゃん。
やっぱ呼んでよかった。
「じゃ、まずガリアからだな。ヴィル、王様と連絡取ってくれる?」
「了解だぬ!」
再び姿を消すヴィル。
王様この時間だとどこにいるんだろ?
王宮にいればいいけど、議会政堂に出勤途中の馬車とかだと見つけるの時間かかるかも。
しかしすぐ赤プレートに反応がある。
『御主人! ピエルマルコ王だぬ!』
『ユーラシアか?』
「そうそう、麗しの美少女精霊使いことあたし。朝忙しい時にごめんね」
『何事だ?』
「ちょっとした事件なんだ。王様には早めに知っておいてもらいたいことだから、すぐそっち行っていいかな?」
『そうか。待っているぞ』
「今どこにいるの?」
『王宮だ。出るところであったのだ』
「タイミングよかったなー。急いで行くよ。プリンスルキウスとそのお嫁さん連れてね」
『ほう、ルキウス殿には会ってみたかったのだ』
「でしょ? なかなかやるやつだよ。ヴィル、ビーコン置いてね」
『わかったぬ!』
新しい転移の玉を起動してガリアの王宮へ。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
王様が感心したように言う。
「転移術は実に便利だな」
「いいでしょ。とゆーかヴィルがよく働いてくれるからなんだよね。あたしのだからあげないぞ?」
「御主人のものだぬ!」
アハハと笑い合う。
もう一回ぎゅっとしたろ。
「こちらがカル帝国のプリンスルキウスと、妃のパウリーネさんだよ。新婚ほやほや」
「これはこれは、遠いところをよくいらした。ユーラシアが推している皇子ということで、ルキウス殿には最近注目していたのだ」
「こちらこそ英明で知られるピエルマルコ王に拝謁する機会がこんなに早く訪れるとは、望外の幸せです。そちらが?」
「ラブリーぽにょだよ」
「ベアトリーチェだ。予の妃となることが内定している」
赤くなるぽにょ。
初々しいのおニヤニヤ。
新婚と新婚未遂の空気が甘々しいわニヤニヤ。
「プリンスルキウスとパウリーネさんは、つい五日前に結婚したばっかりなんだよ。今日は新婚旅行みたいなもん」
「ほう、そうであったか。めでたいことだな」
「王様とぽにょの結婚はいつ頃になるの?」
「秋口を予定している。収穫期にかかる前くらいだな」
「おめでとうございまーす!」
和気あいあいの雰囲気だ。
ここまでは。
「ところで予が早めに知っておくべきこととは何なのだ? 」
「カル帝国のコンスタンティヌス陛下が、今朝未明に亡くなったんだ」
「「!」」
一瞬で空気が引き締まる。
予想外のことではないとは言え、世界最大の国家の君主が逝去することは大事件ではあるから。
「……今朝未明。ははあ、だからルキウス殿が同行しているのか。こちらへ」
応接室に通される。
訃報伝達時であってもエンターテインメントを忘れないあたし。




