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第1644話:市民権システムの構造的欠陥

「ただいまーって、あれ?」


 新聞社から皇宮の近衛兵詰め所に戻ってきたら、リリー黒服の他に何故かプリンスルキウスがいる。

 何か用があったかな?


「ユーラシア、帰りが遅かったではないか。施政館での話が長引いたのか?」

「いや、新聞社に寄ってきたんだ」

「政府の役付きになるのを自慢しにか?」

「そうそう。施政館の食堂でタダ飯食べられる身分になっちゃうぞ。羨ましいだろって」


 笑い。

 リリーもこの辺りの事情はプリンスに聞いてたみたいだが。


「アデラ先生も執政官室付きになるのであろ?」

「うん。って、アデラ先生?」


 どーして先生呼びなん?

 違和感あるわ。


「アデラ先生は一時期、我の家庭教師をしてくれていたのだ」

「そーなんだ?」

「うむ、研究が忙しくなられてからは難しくなってしまったがの」


 アデラちゃん平民なのに、皇族の家庭教師やってたのか。

 優秀なら身分は問わないっていうのは、皇妃様の意向かもしれないな。


「アデラちゃんが専門に研究してた分野は何なの?」

「地理学だな。特に地政学だぞ」


 武術のわけはないとは思っていた。

 アデラちゃんは見るからに戦闘素人だしな。

 でもリリーの口から家庭教師って聞くと、一瞬武術しか思いつかなかったわ。


 アデラちゃんは地政学が専門か。

 細かいことじゃなくて、グローバルに物事を捉えられる人だな。

 だから植民地大臣の外務大臣のって話になるのか。

 世界のことでわかんないことはアデラちゃんに聞こ。


「プリンスはどうしたの? パウリーネさんという者がありながら、あたしと会うのは都合がよろしくないんじゃない?」

「そういうんじゃないから!」


 どーゆーのだったろ?

 とゆーかさっきお父ちゃん閣下から分厚い資料渡されてたじゃん。

 察するに、プリンスが在ドーラ大使だった期間の知っとくべき事柄がてんこ盛りなんでしょ?

 読み込まなきゃいけないんじゃなかったの?


「明日、リリーとガータンに行くんだろう? 予も同行させてもらえないか?」

「えっ? リリーとヘルムート君のラブ要素が薄れるからごにょごにょ……もちろん構わないよ」

「歓迎されてないのはわかった」


 アハハと笑い合う。

 しかしプリンスがガータン?

 義父の公爵フリードリヒさんに会いたいのはわかるけど、次男の男爵ヘルムート君に会いたいの?


「ユーは何しにガータンへ?」

「市民権非保持者に対する施策を視察したいんだ」

「山賊かー」

「場合によっては帝国全土に広げるべきだろう?」

「領ごとに事情が違うから、同じことやらせてもダメかもだけどね。空の民は帝国では大きな問題なんだ?」

「治安と税収にダイレクトに関わる。むしろこれまでどうして山賊に対する場当たり的な対応しか取れなかったかが疑問だ」

「こんな話してると、リリーが眠くなっちゃうぞ?」

「今日はよく寝たから大丈夫なのだ」

「じゃあバッチリだね」


 再びの笑い。

 プリンスが言う。


「フリードリヒ公爵に聞いたら、市民権非保持者を領民にするという原案はユーラシア君のものだそうじゃないか」

「義父上って呼ばないんだ?」

「ちょっと迷ってるところなんだ……ってそういうのいいから!」


 そーゆーのを掘り下げたいんだがニヤニヤ。


「戸籍のないドーラ人からすると、市民権のあるなしで社会的地位に差をつけるのはわかりにくいんだよね。市民権剥奪が罰則になってるのはわかるけど」

「ユーラシアの罰則は魔法の葉青汁とドラゴンのエサの二択だものな」

「更生の見込みがあるなら青汁、ないならエサ。個人への罰則として明瞭でしょ?」

「市民権剥奪だって個人への罰則であろ?」


 帝国人は個人への罰則という意識でいるんだろうなあ、とは思った。


「厳密には違うぞ?」

「どう違うのだ?」

「ある市民が空の民になると、残りの市民が圧迫されちゃうんだよ。例えば今まで一〇人で払っていた税金を九人で払わなきゃいけなくなります、というケースを考えたらわかりやすいと思うけど」

「……本当だの」

「罰則を受ける人だけじゃなくて、全員が不利益を被るシステムは間違ってると思うよ」

「予も市民権非保持者を領民にすると得になるというアイデアを聞いて、初めて構造的欠陥に気付いたんだ。今まで誰も気が付かなかったと思う」

「国が税金取るってのは、市民を強制労働させて搾り取ることじゃん? 市民の数が多い方がより多く搾り取れるに決まってる」


 鼻白むプリンスリリー黒服。

 あたしは偽悪的な物言いが好きなわけじゃないけど、インパクトを与えるには必要だったりする。


「……こういう話をしているユーラシアは大層賢く見えるの」

「あたしはいつ何時でも賢いとゆーのに」

「犯罪者に対する罰則をどうするかはともかく、ユーラシア君の考えでは市民権の剥奪に反対なのだな?」

「でもないよ。でも現行の帝国の法制では、一度市民権剥奪されると這い上がるのすげえ大変みたいじゃん?」

「罰則を重くしないと犯罪に対する抑止にならないからな」

「罰則が重かろうが軽かろうが、過ちを犯すことはあるんだよ。過失者が救われる道筋は必要だし、市民が得できるシステムならなおいいね」

「損得勘定か……」

「そうそう、損得損得。でも皆が得する方向に持っていけばいいはずなのに、何故か通らない摩訶不思議なこともあるんだよ」

「例えば?」

「画集『女達』の帝国版出そうと計画してるんだ。絵師は幸せ、モデルも幸せ、購入者も幸せなのに、どーゆーわけか閣下もプリンスも協力してくれない。理不尽だ」

「それとこれとは話が違うよ!」


 大笑い。

 ヴィル呼んどけばよかったな。


「明日昼過ぎくらいに迎えに来るから、午前中はパウリーネさんとイチャイチャしててちょうだい」

「昼過ぎなのは当然?」

「我が起きられぬ」

「おお、大胆に開き直ったなあ」


 リリーの生活のリズムに文句は言えんけど。

 あたしも寝てるとこ起こされると腹立つしな。


「リリー朝御飯は食べた? 世間一般では昼御飯の時間だけれども」

「実はまだなのだ」

「じゃ、塔の村の食堂だな。あたしもお昼食べてないから御相伴に与るよ」


 あたしとしたことが、施政館と新聞社に寄ってきたのに御飯をいただくのを忘れてきたのはどういうことかって?

 忘れてたわけじゃないわ。

 たまにはリリーと食べたかったんだわ。

 転移の玉を起動して一旦帰宅する。

まあ帝国はしっかりした国だよ。

ドーラとは大違い。

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