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第1639話:お肉ムーブメント

 ――――――――――二六〇日目。


「こんにちはーって、留守か」


 朝から灰の民の村にやって来た。

 こうやってただ一緒に歩くだけでも、うちの子達との大事なふれあいの時間だ。

 世界が広がって、あたしの単独行動が増えているということがあるから。

 あたしの影響力を及ぼせる範囲が大きくなってワクワクする反面、一抹の寂しさも感じる。

 

 サイナスさん家には誰もいなかった。


「あたし達が来るってわかってるんだから、お茶くらい用意して待ってるべきだよねえ」

「アンダスタンしてないね」

「じゃあ予知してるべき」

「姐御じゃねえんでやすから。おそらくショップの方でやすぜ」

「よし。お土産だけ置いて、JYパーク行こう」

「「「了解!」」」「了解だぬ!」


          ◇


「サイナスさん、おっはよー」

「おはようぬ!」

「おや、皆お揃いだね」


 ニコニコしてるサイナスさん。

 売れ行き好調なのかな?

 灰の民の栽培する野菜は大きくておいしいから、いつでも人気だろうけど。


「お土産のお肉は家に置いてあるからね」

「いつもすまないね。今日は施政館行くんじゃなかったのかい?」

「早い時間は忙しいみたいなんだよ。一〇時過ぎたら行こうかと思って」

「正午前くらいの時間に行くと、昼食を食べさせてもらえるという作戦だな?」

「バレたかー」


 アハハと笑い合う。

 もっとも今日はリリーを連れ帰るという予定があるので、昼食は塔の村になるかもしれない。

 皇妃様サイドの話も聞いておきたいしな。


「最近のカラーズや開拓地の状況はどうなの?」

「肉を食おうというムーブメントがあるな」

「えっ?」


 何なのそれ?


「実に素敵なムーブメントだね。あたしに関係のないところで巻き起こっているのがちょっと悔しいというか」

「ユーラシアに関係ないことはないんだ。焼き肉親睦会があったろう?」

「あったねえ。随分昔のことみたいに思えるけど」


 黒・黄・灰の民の親睦を深めようと企画したイベントだ。

 半年以上前のことになる。

 カラーズ各色の民の融和やレイノスとの交易に繋がる、今振り返ってみるとターニングポイントになった試みだった。


「以降も君がちょくちょく肉を持ってきたりするもんだから、皆が肉の味を覚えるだろう? レイノスとの交易が始まって手に入るものが多くなってくる。次は肉だ、という流れなんだ」

「ある意味当然だった。肉はラブ、肉はピース、肉はミートだから」

「肉はミートって当然過ぎる


 笑うサイナスさん。

 これはあたしの尊敬する古の大先輩ヒバリさんの名言だよ。


「現状、ウシやヒツジなどの大型家畜の肉は白の民しか供給できないし、簡単に増やせるものでもない。サブロー氏達が狩ってくる魔物の肉が売り物になることもあるが、もちろん需要は多いから追いつかない」

「まあねえ。だからニワトリ増やしてるんでしょ?」

「もちろんだ。ただいろんなアプローチが必要だということでな」

「えーと意訳するといろんな種類のお肉が食べたいと」

「ああ。増やしやすいんじゃないかってことで、ウズラとウサギの飼育が実験的に始まってるよ。これは灰の民が主導してるんだ」


 知らんかった。

 ちょっとずつ前に進んでるんだなあ。


「お肉を食べようとゆー動機が、まことに本能に忠実でいいね」

「野生の鳥獣を飼い馴らして家畜にできるのが、ウズラとウサギくらいだと思われているんだよ」

「わかる。パッと他に思いつかないもんな」

「ユーラシアは他に心当たりがあるかい?」

「この前話したブタにはメッチャ期待してるんだ。家畜化が実現さえできれば、飼育自体は簡単ですぐに広まるはずだから。実験進めてるエルフんとこには時々行って、進捗見てくるよ」

「早期に実現できそうなものだと?」

「結果を欲しがるなあ。帝国にアヒルってのがいるよ。カモを飼い馴らしたやつだって。これはすぐ導入できそうだけど、飼うのに池が必要なんだよね。ニワトリの方が簡単だから保留にしてるの」

「アヒルか。移民から聞いたな」


 考えてください。

 あたしももっと様々な国に行く機会があれば、違った家畜を知ることができるかもしれない。

 いいのがいたら導入を検討します。


「JYパークには何か用があったのかい?」

「新しい料理を教えてもらったんだ。クララが作ってみるって言うから、牛乳を買いに来たの」

「ほう、料理に牛乳? スイーツかい?」

「ではなくて。シチューなんだ」


 サイナスさん興味ありそうですね。

 クリームシチューがウケるなら、白の民とコラボして売り出せばいいよ。


「オリジナルレシピでは牛乳・バター・小麦粉を使うんだよね」

「バターか。白の民はほとんど生産してないんじゃないか?」


 チーズは保存食という側面があるけどバターはな?

 要は牛乳から取る油に過ぎないのだ。

 スイーツを発達させたいという目的がなければ、わざわざ作る理由に乏しい。


「そのシチューはホンワカした風味が独特なの。バターは小麦粉使用のスイーツに必須だから、普及させたいんだけどなー」

「スイーツの普及度次第だな。大体バターってどうやって作るんだ?」

「サイナスさんが知らないものを、あたしが知るわけないじゃん」

「手がかかるんだとムリだぞ?」

「うーん」


 バターの増産は難しいんじゃないか?

 安いバターを普及させてスイーツをどこでも食べたいってのが、ほぼあたしの私情に過ぎないから、協力者が得られないんだよな。

 『オーランファーム』ではある程度作ってるみたいだけど、どうやってるんだろ?

 今度ダンにでも作り方教えてもらお。


「新しく教えてもらったシチューは、バターじゃなくて他の油を使うとどうなるんだ?」

「わかんないんだよね。ふつーの食用油とコブタマンの脂があるから、それ使ってクララが作ってみるって」

「ふむ、楽しみにしてるよ」


 実際にクリームシチューを食べてみた感想として、油の種類の違いは風味に現れるだろう。

 が、完成するものが不味いわけはないのだ。

 期待しちゃっていいと思うよ。

 要はコストとどれほど原型からかけ離れるかの問題だけだ。

 クララの手腕に期待する。


「あんた達どうする? お弁当買ってく?」

「バイするね」

「シチューの試作品は夕御飯にしましょう」

「じゃ、帰りにもう一度寄るよ。サイナスさんバーイ」

「バイバイぬ!」


 白の民のショップで牛乳買ってこ。

お腹を満たせるようになったらお肉のことを考える。

健康的な考え方だなあ。

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