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第1621話:本に満ちた社会

 フイィィーンシュパパパッ。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「よくいらっしゃいました。こちらへ」

「あれえ? ノアの言葉遣いが丁寧アンド大いなる違和感」

「そういうのいいから!」


 帝国の高貴な方々その他を連れて、イシュトバーンさん家にやって来た。

 イシュトバーンさんはヴィクトリアさんに会ってないから、無礼を許さない人かと警戒してたかもな。

 そんな心の狭い人と付き合わにゃならんほど、あたしの人生は暇じゃないんだが。


「これ、お肉とワイバーンの卵だよ」

「厨房に運ばせよう」


 ニライちゃんとヴィクトリアさんが興味津々のようだ。


「ずいぶんおおきなたまごぞなもし」

「驚いた? これはワイバーンっていう魔物の卵だよ。黄身が大きくて旨みも強いの。ちなみに『ケーニッヒバウム』のピット君とのスイーツ対決には、鶏卵の代わりにワイバーンの卵を使ったんだ」

「ほう」


 やっぱワイバーンの卵を使用すると一味違うのだ。


「肉が魔物肉なのかの?」

「そうそう。コブタマンっていう魔物のお肉。本当においしいお肉は、単純に焼いて塩が最高だってことを再認識することになるよ」

「ユーラシアさんの持ってくるお肉は間違いないです」

「楽しみじゃの!」


 どこ持っていっても大喜びのお肉なのだ。

 楽しみにしててください。

 屋敷の方へ。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「おう、よく来た」

「ヴィクトリアさんは初めてだね。この家の主のイシュトバーンさんだよ」

「うむ、主殿よろしゅう」

「こちらこそ」


 ボロが出さないように言葉少なにしてるイシュトバーンさん。

 笑える。


「ここは腕のいい料理人を抱えていて、もう一人グルメ女王グレタさん推薦のスイーツ料理人も来てるから、皆さんの舌を十分に満足させるよ」

「ほう、グレタの推薦? あれか。『サバランの裏レシピ』関係でドーラに派遣されているというパティシエじゃな?」


 グレタさんか、あるいはフーゴーさんから聞いてるんだろうな。


「うん。レシピの研究をしてもらってるんだ。イシュトバーンさん、スイーツレシピの方どうなってるの?」

「簡易レシピはほとんどできてるんだが、今はヘリオスんとこが手一杯だろ? 料理人も裏レシピそのものの写しとドーラの食材の研究してるぜ」

「簡易レシピと裏レシピ? どういうことじゃの?」


 うむ、わかりにくい。

 でもヴィクトリアさんの興味あることだよ。


「お宝の裏レシピには、すげー煩雑な手順や手に入りにくい食材があるらしいんだ。裏レシピ自体もメモ書きみたいなところが多くて、解読も難しいそーな。だからそれを一般的にして、手軽においしいスイーツをどこでも食べられるようにしようねっていう試みで、簡易レシピ集を作って売ろうとしてるの」

「ほお? 革新的な試みじゃの」

「ところが今本を作る方が忙しくてさ。フィフィリアって知ってる? ババドーン元男爵の娘で、今ドーラに来てるんだけど」

「茶会の際に、チラッとルーネロッテから聞いたの」

「フィフィがドーラに来た時のハプニングなんかを文章にしてるんだ。フィフィがまたトラブル体質だから、かなり笑える内容になった。その体験記の印刷で印刷屋さんが忙しいの。今月中に出版されるって話だよ」


 身を乗り出してくるヴィクトリアさん。


「フィフィリアの本にも興味があるのじゃが」

「軽い読み味でヴィクトリアさん好みだと思う。相当面白く仕上がったから期待してて。少なくとも『輝かしき勇者の冒険』よりは読める。画集みたいに字の読めない人にまで売れるもんじゃないけど、かなーり知られる本になるな」


 ん? 新聞記者さん達、何?


「その画集『女達』ですけれども、おそらく読み書きできない人にはほとんど売れていないと思われます」

「意外だな。何で? 表紙があたしだぞ? 見るだけで欲しくなっちゃうでしょ」

「字の読めない人は本屋へ行かないですから」

「おおう、目にする機会すらないってことか」

「口コミで少しずつ広まっているとは思いますが……」

「ちょっと残念だなー」


 考えてみりゃ帝都ではドーラみたいに、イシュトバーンさんが絵描いてるとこ見せたりポスター別売りするような販促活動をしてないからな。

 あれ? とゆーことはまだまだ帝国では売れる余地があるわけか。

 第二弾帝国美女版の発行が遅れてしまうなあ。

 ま、原画を描いとくのはいつでもいいわけだけれども。


「本か……」

「おっ、ノルトマンさんも乗り気かな? 何かアイデアある?」

「書き手を育成するのはありかと思いましてね。ユーラシア殿のように安い本を大量に売るという発想はありませんでしたが、可能であるなら心沸き立つものがあります」

「識字率が上がって本が安くなれば売れるよ。本が売れる社会になれば書き手も増える」

「おお、伯爵! ユーラシア! 本に満ちた社会にするのだ!」


 本だらけの社会にするためには、安くていい紙も必要なのだ。

 鉱山跡地近辺には土に毒が混じるから、耕作や酪農には向いてないと聞いたことがある。

 でも紙用の植物の栽培だったら構わないんじゃないの?

 ノルトマンさんが本気で本を商売にしようとするなら提案してみよ。


「そーいやヴィクトリアさんは、口伝で伝えられている民話を集めているとかって聞いた」

「うむ。妾の楽しみの一つじゃ」

「民話みたいなのこそ子供に読ませたいんだけどなあ」

「民話集を出せということかの?」

「いや。分厚い本だと高価になっちゃうから庶民は買えないじゃん? 子供が持って読むにも重くて不向きだし。一話二話を一冊にして安く売れないかなあ?」

「子供向き限定じゃ購買層が狭すぎる。売れねえだろう?」

「今はまだ売れる土壌がないな。でも低年齢層に本読ませないと、本買う人が増えない。とゆーことはいつまで経っても本書く人も増えない。ヴィクトリアさんの待ち望む、面白い本の溢れる社会は永遠に訪れないことになっちゃう」


 焦るヴィクトリアさん。

 ちょろい人だなあ。


「どうにかせえ!」

「あたしは目一杯働いとるわ。まず識字率上げることが前提条件なんだよね」

「ふむ、本を読み得る人間を増やせということじゃな?」

「うん。母数が増えないとどうにもこうにも。ちなみにドーラではこういうものを作って売ってまーす」


 ナップザックから札取りゲームを取り出して見せる。

あたしの目指す豊かな世界のためには、どーしても識字率が必要になる。

ただこれ、一般人のやれることは限界があるなあ。

統治者の意識を変えないと。

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