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第1617話:パラキアスさんに話を通しておく

 ――――――――――二五七日目。


『ユーラシアか?』

「そう。眩しい朝の日差しを浴びて爽やかに目覚めた、美しくも可憐なあたし」

『今日は曇ってるじゃないか』

「天気もアドリブを利かせて、あたしのセリフに合わせてくれないと困るよねえ。でも雨は降らないみたいだよ」


 アハハ、まあ朝の忙しい時間だ。

 ヴィルに調べてもらったら、たまたまパラキアスさんが一人だったので連絡を取ってみた。


『どうした、連絡事項か? 今日はルキウス大使殿下を帝都に送る日だろう? 行政府に来るなら、その時話してくれればいいじゃないか』

「わかってるでしょ? 皆の前では言えないことだよ」

『『アトラスの冒険者』関係か』

「うん。廃止がギルドの正職員には伝えられた。本当は今月末あたりに知らされる予定だったんだけど」

『早まった理由は?』

「こっちの世界から水魔法のスクロールの外注出してるじゃん? 異世界でどういうことだって、問題視されたみたい」

『ああ、なるほどな』


 表向き納得の理由。

 ただし『アトラスの冒険者』廃止の理由は複雑だ。

 あたしにもまだ見えてない部分がある。


「異世界でもこっちの世界と関わりを持つことが法律違反ではないらしいよ? でもこっちの世界にはなるべく不干渉が建前みたいだから」

『巻き込んだユーラシアの責任が大きいんじゃないか?』

「あたしのせいにされたって困るわ。外注を受けたのは向こうだわ」


 しかも皆が得する案件なのだ。

 何がおかしいって、外注を受けてくれなくなるのがおかしい。

 ……まあもっとも予想できる事態ではあった。

 だからこそスキルスクロールの完全ドーラ内製の早期実現を目指してたんだから。


『となると、今後のスケジュールに影響が出るのかい?』

「いや、『アトラスの冒険者』自体には影響ないみたい。飽魚の月末に廃止という予定は変わってないよ」

『『アトラスの冒険者』以外に影響がある?』

「水魔法スクロールの納品は今月までだって。もうちょっと引っ張るつもりだったけど、仕方ないから来月分から全部ドーラ内製に切り替えるよ」

『可能か?』

「そこがなー。できるはずなんだけど、盾の魔法だって生産始まったとこだし、計三〇〇〇本のスキルスクロール生産なんてやったことないじゃん? トラブルも起こり得るんだよね。合理化のために生産ライン見直し中、来月分は三〇〇〇本全部は納入できないかもって、商人さんに言っといてくれないかな?」

『了解だ』

「後継の代替組織についてね。ドワーフに頼んでる新『アトラスの冒険者』用の転移の玉、まず一〇個分がそろそろでき上がるんだ。三日後に取りに行くつもり」

『順調と思っていいか?』

「いいんじゃないかな。ほんとに納品されてデス爺のチェックを受けてからじゃないと安心はできないけど」

『私も一つ欲しいのだが、融通は利かないか?』

「転移の玉とホームに設置する用のビーコンのセットを、三万ゴールドで売るけどいい?」

『もちろん構わない。というか三万ゴールドくらいの費用でできてしまうものなんだな』

「いや、もっとずっと安いんだけど、新『アトラスの冒険者』の当座の運転資金が必要じゃん? 原資に充てようと思って」


 今後は独立採算の事業になるからな。

 ドーラ政府にもおゼゼはないので支援は期待できない。

 しっかり儲けねば。


「この前の皇帝陛下の手紙の話だけど」

『ああ、何だろう?』

「プリンスに遺書めいたものがあることを伝えとけってこと。あれ、パラキアスさんは納得してたみたいだけど何でなの? どー考えてもわかんなくってさ」

『リモネス氏がそう言ったということは、結果を変えられる余地があるということだ』

「かもしれんけど」

『やるだけのことはやろうじゃないか』


 つまり工作して、次期皇帝争いでプリンス有利の状況を作り出せるかもしれないのか。

 パラキアスさんの手がどこまで伸びてるか知らんけど。


『ユーラシアが有力者を大使殿下の味方につけることはできないか?』

「難しくなっちゃった。あたしが次期皇帝についてプリンス推しであることは、主席執政官閣下も新聞記者も知ってるの。でも露骨に動くと預かった遺書自体の信頼性がなくなっちゃいそう」

『状況がよく見えているな。君の活動は目立つということもあるか。では私に任せろ』

「うん、お願いしまーす」


 パラキアスさん、何するつもりなんだろうな?

 興味はあるけど突っ込んじゃいけない部分か。


『この件について、リモネス氏の身辺が探られてるようだという話だったろう? 具体的に誰だかわかるかい?』

「一人はわかる。ヴィクトリア第一皇女だった」

『ほう。意外というわけではないが、何故わかった?』

「お茶会に誘われてさ。リモネスに何か聞いておらんかって直接聞かれた」

『ハハハ、ストレートに来ることもあるんだな。何と答えた?』

「陛下の遺書を持ってるか持ってないかって話に誘導したんだ。で、直接聞いてみりゃいいよ、リモネスさんウソ吐かないからって言ったった」

『いいのか? それで』

「実際に遺書持ってるのはあたしだからね。リモネスさんが否定すれば終いだな」

『ああ、リモネス氏の言うことは信用しなければいけない気になる』


 あたしは特別な感じは受けないんだが。

 リモネスさんの持ち固有能力『断罪』の効果なのかな?

 確かにリモネスさんの言うこと、誰も疑おうとしないし。


「ヴィクトリアさんを今日、ドーラに連れてくるけど会う?」

『待て待て、どうしてそうなった?』

「ツムシュテーク伯爵家のニライちゃんって子がスライムが好きだから、ドーラの牧場の可愛いスライムを触らせてあげようという前提があって。ヴィクトリアさんも可愛いものに目がないから、じゃあ一緒に来るって」

『ふむ、人物としてはどうだ?』

「身分が身分だから、一定の影響力はあるんだろうね。でも普通の人だよ」

『ではユーラシアに任せる』

「オーケー」


 パラキアスさんもヴィクトリアさんがどんな人か、ある程度の情報は持っていたに違いない。

 でも普通の人ならドーラ政府が関わるメリットは小さいと考えたんだろうな。

 むしろヴィクトリアさんと関係の良くないリリーが塔の村にいる関係で、とばっちりを受ける可能性もある。


「じゃねー。リリー起こしてから行政府行くよ」

『うむ、後ほど』

物事が色々動き出そうとしている。

でも皇帝陛下の寿命についても『アトラスの冒険者』廃止についても、あたしが積極的には動けないやつだ。

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