第1608話:うわっ、キモっ!
魔物退治要員の新人三人がスライム、植物系、昆虫系等の魔物を倒しながら聖モール山の裾野付近を巡っていく。
ちなみにあたしが草食魔獣を倒し、夕御飯のお肉を確保する重要な役目だ。
ヴィルは運搬係を務めてくれている。
木人の大きいやつは三人の手に余るだろうが、小さいやつは全然問題ないな。
なかなかやるじゃないか。
リリーの従者黒服の教育の賜物だ。
「肉食魔獣が出ないなあ」
「標高の高いところや森にはいる。しかし麓付近の草原にはせいぜい魔物ではないキツネやイタチ程度だ」
魔物じゃない肉食獣、しかもキツネやイタチじゃ全く脅威にならない。
肉食魔獣のプレッシャーは結構強いから、新人さんに勉強させてやりたかったなあ。
まあ塔のダンジョンで、オオカミの魔物くらいには遭ってるだろうからいいか。
ん? あれは……。
「人形系の魔物もいるんだ?」
知らん子だ。
形や大きさは踊る人形に似てるが茶色っぽい。
「マジシャン土偶だ。土魔法『アースクロッド』を先制で撃ってくる。ヒットポイントは一。今回は単体だが、二体で現れることも多い」
へー、踊る人形の変種かな?
チラリと黒服を見るメルヒオールさん。
「セバスチャン、新人は人形系に有効な攻撃法を持っているか?」
「三人とも『経穴砕き』を習得しております」
「そうか、ならばよし」
満足げなメルヒオールさん。
人形系はせいぜいヒットポイント一か二程度のやつしか出ないんだろうな。
レッツファイッ!
マジシャン土偶のアースクロッドを一人が受けるが、経穴砕きで倒す。
うんうん、いいねえ。
リリーが得意げに言う。
「爺様、なかなかのものだろう?」
「うむ、期待以上の仕上がりだ」
「ねえ、じっちゃん。この辺の強い魔物って木人のデカいやつくらい?」
「標高の高いところにいる魔獣や霊は強いな。しかしやつらが下に降りてくることはない。この辺りで注意すべき魔物はあと一種いる」
「どんなやつ?」
「言ってしまうと勉強にならん。しかし初見だと危険ではあるのだ。襲われたら助けてやってくれ」
「わかった」
メルヒオールさんは、さりげなく危険なやつが出ちゃうフラグを立てるなあ。
でも肉食魔獣は出ないんでしょ?
じゃあどんなんだろ?
楽しみだなあ。
あ、角ウサギの群れだ。
「薙ぎ払い!」
よしよし、四匹もいると結構なお肉だな。
ヴィルだけじゃ持てないから、クララも一緒に飛んで運んでもらう。
魔物退治要員達が感心している。
「見事ですねえ」
「『スナイプ』の攻撃遠隔化の効果は、同じ全体攻撃スキルの『薙ぎ払い』と『五月雨連撃』のどっちにも乗るんだよ。群れで出現する魔物も多いから、どっちか持ってるといいんだけど?」
「あ、自分が『薙ぎ払い』の付属している『サイドワインダー』を装備してます」
「いいね。あたしは『アンリミテッド』っていう、人形系にダメージの入る衝波属性を持つパワーカードを常時使ってるから、武器属性まで乗る『薙ぎ払い』を便利に使ってるんだ。でも単純な与ダメージは『五月雨連撃』の方が多いから、どっちを選ぶかは好みだね。中には両方使える人もいるよ」
エルマやデミアンがそうだ。
確かにソロの人は使い分けが必要かもしれない。
リリーが言う。
「パワーカードが優れているのはわかるのだ。しかし、我にはどうも合わないというかピンと来ないというか」
「あたしは逆にパワーカードしか使ったことないからな。でもリリーの言いたいことはわかるよ。パワーカードは直観的じゃないんだよなー」
例えば棒を持ったら、叩くなり突くなりっていうアクションを想像しやすい。
でもカード一枚渡されて、これが武器です言われても戸惑う人が多いだろう。
あたしは冒険者になる前は武器なんか使ったことなかったからすぐ馴染んだけど、リリーみたいな拳士はそーもいくまいなあ。
「まーあんた達はパワーカードで始めたんだから、迷うことないよねえ?」
「「「そうですね」」」
「ところで気付いてる?」
「何がですか?」
「魔物がいるぞ?」
三人が慌てて周りをキョロキョロ見ているが遅いんだな。
とゆーか気付いてないのは新人魔物退治要員達だけだ。
あっ、『サーチャー』持ちの子はようやく気付いたか。
でもまだまだ甘い。
やはり経験が足りてないから、ちょっとわかりにくい魔物だと後手に回っちゃう。
突然地面から大きな虫がにゅっと伸びてきた。
意外なほど速い!
一人の足が噛まれる。
「あ、痛い痛いっ!」
「うわっ、キモっ!」
「ほう、恐ろしげだの」
大きな顎でがっちり挟まれた魔物退治要員が虫に引っ張られ、バランスを崩して倒れたところを穴に引き込まれそうになる。
「わわわわわ?」
「割と面白かったな。よっと」
虫の頭をちょん切る。
まあどうってことない。
「毒持ちではなさそうだね。リフレッシュ! 大丈夫だった?」
「え、ええ、助かりました。ありがとうございます」
しゃがんだまま、気味悪げにキモく恐ろしげな虫の亡骸を見つめている。
変な虫の魔物がいるなあ。
「何でしょう、この魔物は?」
「人食いハンミョウの幼虫だ。体長が二~三ヒロはあり、付近を歩く獲物を巣穴に引きずり込んで捕食する性質がある」
おっかない虫がいるなあ。
慄然とする三人。
「今日は大勢だったから、魔物の気配も読みづらかったのではないか?」
「酌量すべき情状ではあるけど、魔物は勘弁してくれないんだよなあ」
メルヒオールさんが三人に教え諭すように言う。
「魔物の気配を読めぬでも、知識と経験でカバーできる。こうした乾いた地面の露出している場所は人食いハンミョウの狩場だ。特に穴が開いているのを見つけたら気をつけよ」
「「「はい」」」
「食らいつかれるのは大体足だ。しかし慌てることはない。巣穴に引き込まれるまでに落ち着いて始末すればよいのだ。身体は柔らかいので、斬撃属性の武器はよく効く」
「「「わかりました!」」」
お、ヴィルとクララが帰ってきたか。
「大体実力はわかった。山の地理と魔物の性質を知れば、十分な戦力となる。今日はここまでにして引き返すとするか」
「あっ、じっちゃんちょっと待った! このままだと夕御飯が貧弱になっちゃう。もう少しお肉狩らせて」
だから笑うな。
あたしの都合だってことはわかってるわ。
でも御飯が寂しくなるのは許せんわ!
知らない魔物が出てくると楽しいなあ。
冒険者っぽい?