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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1579話:エメリッヒさんは重要人物

 昼食後、うちの子達と灰の民の村へ足を運ぶ。

 エメリッヒさんの研究のために採取してきた、レッドドラゴンの鱗を届けるお仕事だ。

 ゆっくり歩くのもまた、贅沢な時間の使い方だと思う。


「わっさりだね」

「わっさりですね」

「わっさりだぜ」

「わっさりね」

「わっさりだぬ!」


 うむ、今日は完全な五段活用だな。

 何がって、途中の湧き水のところだ。

 しばらく見てなかった魔境クレソンがかなり繁殖している。

 やたらと成長が早いなあ。


「姐御、クレソンはもうわざわざ魔境に取りに行く必要ありやせんぜ」

「そーだね。必要な時はここ来りゃいいか」

「サイナスさんへのお土産に持っていきましょう」

「おっ、お肉かと思わせてガッカリさせる作戦だね?」

「そんなことシンクするのボスだけね」


 アハハと笑い合う。

 もちろんお土産用お肉も持ってきている。

 お肉は平和と幸福の使者だから。


「クレソンは生でもお肉と炒めてもスープでもイケるからなあ。利用価値が高いよ」

「夏を越せるかが問題ですけれども」

「まだ検証できてないんだったな。クララの予想としてはどうかな?」

「ここは湧き水で水温が若干低いですから、問題ないのではないかと。他の場所でも、生育は悪くなると思いますけど、枯れてしまうようなことはおそらくないです。魔境では夏も越しているはずですので」

「なるほど、了解」


 一年は観察しながらじゃないといけないけど、さほど心配なさそう。

 さて、灰の民の村へ。


          ◇


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「やあ、ユーラシア。いらっしゃい」


 サイナスさん家にエメリッヒさんもいた。


「お土産だぞー。クレソン!」

「葉っぱか」

「と、おにーく!」

「「おお!」」


 ハッハッハッ。

 サイナスさんだけじゃなくて、エメリッヒさんも大喜びだわ。

 やっぱクレソンじゃテンション上がんないもんな。


「エメリッヒさんの顔色大分良くなったじゃん」

「美味いもの食わせてもらってるからな」

「新鮮な野菜はおいしいよねえ」


 貴族の食卓みたいな繊細な調理はできないだろうけど、取れたてってだけで素晴らしく美味いものなのだ。


「あれ、エメリッヒさんって料理できる人?」

「できねえ」

「うん、まあできるわきゃないと思ってたけど。御飯どうしてるのかな?」

「弁当の残りとか、誰かに食わせてもらったりとか」

「ドーラに今一番必要なのは、エメリッヒさんの嫁のような気がしてきた」


 エメリッヒさんはスキルスクロール生産や転移術の継承だけじゃなく、独自の研究も始めている。

 いずれもドーラの発展に必要なものだ。

 おかしなもの食べて死なれたりでもしたらえらい迷惑だわ。


「できればオレの嫁さんも手配してくれるとありがたいんだけど」

「サイナスさんの嫁には心当たりがあるんだ。でもまだどうなるかわかんない」

「えっ?」


 そんなに驚かんでも。

 いずれ紹介できると思うよ。

 あたしのカンだが。


「ま、どうでもいい話は置いといて。レッドドラゴンの鱗持ってきたよ。じゃーん!」

「おお、助かるぜ。料金はいいのかい?」

「いらないよ。また必要なものがあったら言ってね。取ってこられるものなら調達するから」

「ありがたい研究環境だぜ」

「でも商品化すると鱗の供給も冒険者に頼まなきゃいけなくなるよねえ。コスト上がっちゃうなあ」

「『逆鱗』ではない普通の鱗には、素材的な価値はないんだろう?」

「今のところ買い取ってもらえるものじゃないね。でも必要性が生まれると価値ができちゃうからな。ドラゴン倒せる人が多いわけでもないし」


 もっともドラゴンを倒すことより、危険な魔物がウロウロしてる魔境で鱗を毟ることの方が神経使う気がする。


「今は研究段階だろうから、うちのパーティーで取ってくりゃいいか。いずれレッドドラゴンを倒す人材を育成しよう」

「おい、何枚あるんだよ?」

「え? わかんない。どれだけ必要か知らんから、取れるだけ取ってきた。でも倒したレッドドラゴンは一体だけだよ?」


 一枚の鱗で魔力かまど最大一〇基分くらいにはなるらしい。

 じゃあ当面必要量は確保されてるな。

 好きなだけ研究してちょうだい。


「石けんの材料についてだが」

「うん。でも灰の民の作る石けんもなかなかだって聞いたけどな?」

「ああ、大したもんだ。高級品を作って金持ちに売り捌き、ぼろ儲けしたい」

「おお、魅惑のワードが出てきたね。全面的に協力しようじゃないか。必要なものは何?」

「ツバキの油と香料となる植物だな」

「ドーラにはツバキが少ないんだって。他の植物油じゃダメなん?」

「もちろんいいんだが、高級品となるとな。オレが知る限りツバキがベストだ」


 エメリッヒさんの作る高級石けんにはツバキ油が必要か。

 サイナスさんが言う。


「君以前、ツバキがどうのこうのって話してたろう?」

「クエストで手に入れた、メチャメチャ花が多くて油が取れるお宝のツバキがあるよ。いずれドーラ中で増やしたいけど、まだ一本しかないの」

「いや、急いでないからいいんだぜ? 使えるレベルの魔力かまどをオレん家に設置する方が先だ。魔力かまどがあれば作業がうんと楽になる」

「香料を作るんだっけ? 香料になる植物ってのは、具体的にどんなやつ?」

「簡単に言やあ、いい匂いのするやつだな。花だと採取できる期間が限定されちまうから、例えば柑橘類みたいな長持ちする実とか、あるいはハーブの類とかがいい」

「魔境で取ってきた、香りの強いタイムがあるよ。この前うちで取れた新芽を初めてハーブティーにしたけど、かなり気に入ってる。植えときゃ育つみたいだから少しあげるね」


 喜ぶエメリッヒさん。


「助かる。石けんより香料の優先順位がうんと上なんだ。香料は香水にもアロマキャンドルにも使えるからな」

「お金持ちがおゼゼを出しそうなグッズだなあ」


 香料は用途が多いらしい。

 貴族の需要はよくわからんけど、エメリッヒさんがいるとどんどん掘り起こしてくれそうだわ。


「あたしも使えそうなもの見つけたら紹介しに来るよ。でもハーブなら、灰の民の村でも作ってるでしょ?」

「少しはね。こっちでも香りの強いものを選抜していってみるよ」


 ハーブティーでも香りの強いものの方がよさそう。


「じゃねー。アレク達は図書室にいる?」

「ああ。昼に帰ってきたよ」

「バイバイぬ!」


 図書室へ。

香料か。

生活必需本じゃないものに需要があるのは、豊かな国だからだな。

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