第1572話:魔境でのんびり
タルガから帰宅後、うちの子達と魔境を探索する。
リラックスできるなあ。
一仕事したあと、うちの子達とのんびりするのは、とてもいい時間の使い方だと思う。
「タルガはどうでやした?」
「港がでっかいのはビックリしたな。言ってみりゃ港だけの町なんだけどさ。一つの機能だけで十分に価値があると思った」
タルガは帝国のテテュス内海への玄関口という性格がハッキリしているのだ。
貿易特化でもいい町。
辺境開拓民という存在が彩りを添えているのは特徴的だ。
「ただ周りを開拓しようっていう姿勢は見られなかったな」
あたし達が遭遇した魔物はごく弱いハマサソリだけだ。
街を拡張しようと思えば簡単だろうにな。
もっとも土地が荒れてたから、土が肥えてるわけじゃないんだろう。
畑にしにくいんであえて広げないのかも。
「魚はおいしかったよ。辛めのちょっと変わった味付けだったんだ。カラシとトウガラシと、あとは何入ってるかわかんなかった」
「カレーの味付けに応用できそうですか?」
「おっ、クララ鋭いね。かれえって、入ってるスパイスの種類がある程度多いほど複雑でおいしくなりそうじゃん?」
検討に値する課題だ。
いずれにせよ知らない香辛料っぽかったから、いずれチェックはしておきたい。
イコールまたタルガには行きたい。
「賑わうポートタウンね?」
「うん。レイノスみたいな町を想像してたら、結構船もいたの。でもアンヘルモーセンの首都は、タルガとは比べものになんないくらい賑わってるって話だったな。アンヘルモーセンすごい」
だからこそ内海貿易を独占しようなんて、くだらないこと考えるんだろうけど。
アンヘルモーセンが何故サラセニアを狙うのか、もう一つわからん。
あたしが目指すのは自由な交易のできる世界だ。
アンヘルモーセンにも従ってもらう。
「クレイジーパペットね」
「ほい」
一発フレイムは食らうが、軽く倒して透輝珠と藍珠をゲットする。
いつものパターンだ。
「リフレッシュ! そーいや内海では帝国以上に魔宝玉高く売れるみたい。少し換金してきたよ」
「やはり魔宝玉のメインの売買はドーラでですか?」
「うん。ドーラの大事な外貨獲得手段だから。ギルドや行政府も儲けさせてやりたいわ」
あたし達は食うに困ることないし。
「ベヘモスぬよ?」
「珍しいのが出たな。久しぶりだね」
普通に倒して『ベヘモス香』ゲット。
「『ベヘモス香』って必ずドロップするのかな? 今まで落としていかなかったことないよね?」
「本にはレアドロップとありましたけど」
「ドーラ産のベヘモスは必ず落とすのかもしれやせんぜ」
「地域によって差があることも考えられるか」
ベヘモスはあんまり遭えない魔物だから、『ベヘモス香』がマジでレアドロップだったら結構困る。
「ルーネと遊んでやれなくなっちゃったんだ」
「ホワイね?」
「お父ちゃん閣下からストップがかかった。デビューするから、社交に力入れろってことみたい」
何故かうちの子達が不満げだ。
「力入れろったってなあ」
「何もできないと思います」
「まあねえ。でも同年代の貴族の令嬢とお話しするんだと、ハイソな話題を身につけておかなきゃいけないんじゃないの? よく知らんけど」
ドーラの冒険者に付き合わせてたんじゃ、どうやったってハイソとは縁遠いから。
ただルーネのためということなら、いろんな経験させてやるべきだがなあ。
まあ優先順位はあるか。
「ボスの話はどこへ行ってもアイアンボードね」
「鉄板かもしれんけど、あたしはどこへ行っても面白枠だからじゃないの? おいこら、誰が面白枠だ! 訂正しろ!」
「しないぬ!」
アハハと笑い合う。
「ま、最後になりそうだから、ルーネにも魔物を倒させてやったんだ」
「閣下に怒られやすぜ?」
「いや、毒さえ気をつければ武器持たない子供でも倒せるっていう、都合のいい魔物がいたの。遠くから風魔法当てれば危ないことないし」
「いい記念になりますねえ」
うむ、いい記念になったんじゃないかな。
社交界でも毛色の変わった面白枠の話にはなるかもしれないし。
ん? クララどうした?
「これサンショウの花ですよ」
「サンショウって木なんだ?」
いつか赤眼族に聞いたやつだ。
香辛料調味料の類らしいが?
「変わった匂いがするねえ。割と好き」
「柑橘の仲間なんですよ。香辛料として使うのだとすると実だと思います。皮を剥いて乾燥させて」
「なるほど。柑橘の皮ってそーゆー使い方するって聞いたことあるもんな」
「ボスはフードのことだけよく覚えてるね」
「よせやい照れる」
「照れるぬ!」
笑い。
ヴィルは確実に拾ってくるなあ。
いい子だね。
「でも木だと育てにくいな」
「棘がありやすぜ」
「本当だ。むーん?」
クララが解説してくれる。
近縁種がいくつかあって、それぞれ香りが違うそーな。
面白いが、半日陰と水を好む植物?
水はカカシが何とかしてくれるにしても、木で半日陰好きを栽培するって面倒だな。
「結論、保留。積極的に育てるもんじゃないとわかった。実がなった頃に取りに来よう」
「まばらな林のようなところだと、比較的育つと思うんです」
「よし、種が取れたら、よさげなところに蒔いてみよう」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
最近この手のが多いな。
しかし確実に有用な植物ではあるのだ。
優先順位が低いだけで、いつか一生懸命栽培したくなるかも。
「タルガでトサ様って人と知り合いになった。スイープのお頭やサブローさんとともに三羽ガラスって呼ばれてた人だって」
「ユースフルなパーソンね?」
「辺境開拓民地区を案内してもらうのに、ちょうどいいかなと思う」
「タルガ以外でも興味深いところはありそうですか?」
「どーだろ? ないかも」
タルガ周辺は痩せた荒地って感じだった。
魔物がいてもドーラみたいに肥沃な地だとやる気も出るけど、あんなんじゃ耕してみようって気にならない。
「たまたまタルガの周りがそうなだけで、他の辺境開拓民の集落を知らないからかもしれないんだよね。魔物が強いだけならどうとでもなるじゃん?」
「美味い魔物ならやる気が出やすね」
「今度皆で行ってみようよ」
皆が頷く。
ひょっとして珍しいものが出てくるかもしれないしな。
「もうちょっと魔境を満喫したら帰ろうか」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
うちの子達と楽しく魔境巡りするのは、あたしの単独行動が多くなっている最近では重要なことだ。
言い訳じゃないわ。
明確な理由だわ。