第1568話:タルガ総督府にて
「ふーん、タルガも身元のチェックとかはないんだねえ」
「怪しいやつばっかりだからな。チェックしたって仕方がねえ」
「あんたも含めて?」
「あんたこそ悪魔を肩車してるじゃねえか」
「わっちは怪しくないぬよ?」
「そーだそーだ、ヴィルはいい子だ」
怪しい怪しくないといい子悪い子は別物かな?
ともかくタルガの町までやって来た。
正門を潜ると喧騒が耳を刺激する。
おーおー、朝っぱらから怒鳴り声が聞こえるやん。
カトマスより荒っぽい町だな。
ハハッ、ルーネがキョロキョロしてら。
『訓練生』持ちスティーヴが指差す。
「あそこが開拓民局だぜ。他、正門近くは食堂と宿屋、武器や消耗品の店が多いな」
「辺境開拓民の町って感じがするねえ」
「だろう? で、どこへ行く? メインストリートを真っ直ぐ行くと港だぜ」
港もいいな。
規模や賑わいがどんなもんか知りたいし、新造軍艦も見てみたい。
でもその前に……。
「タルガ総督府はどこかな?」
「総督府? 開拓民局の隣だぞ」
「あ、港の近くじゃないんだ? 町の拡張を考えてるからかもしれないな」
「お、おい。総督府はお偉いさんのいる役所だぜ? そんなところに用があるのか?」
「あるんだよ。サソリの尻尾換金したら行こうか」
世界のVIPたるあたしを案内しながら何をビビっているのだ。
この『訓練生』持ちは。
まったくしょうがないな。
◇
「こんにちはー。美少女精霊使いユーラシアがやって来ましたよって、ツェーザル中将に伝えてくれる?」
「は、はい。少々お待ちを」
総督府の受付でいつもの挨拶したら、『訓練生』持ちは仰天してるし、ルーネは感心してる。
「何だよ、今のは?」
「あたしいつもあんな感じだけどな? パターン変えると実力を発揮できなくなりそう」
「ユーラシアさんらしいですよ」
「ええ……ツェーザル中将とは?」
「中将で通じないのか。どこから説明が必要? あたしも帝国軍の階級は詳しいことと知らんのだよな」
「ええっ? 本物の中将か。重要な用事なのかよ?」
「……特に重要ではないな。御機嫌伺いだよ。中将も美少女の顔を見たいと思うから、遊びに来ただけ」
「ちっともわからねえ!」
言われてみると、タルガ訪問の理由は曖昧ではあるな。
あ、誰か来た。
「タルガに派遣された宮廷魔道士ってマーク君だったのか」
「植民地赴任の任務もこなしておくといいそうなので」
マーク君は平民の研究者的な宮廷魔導士なのにな?
出世コースに乗ってるのかも。
「ルーネロッテ様もおいでになったんですね」
「はい。ユーラシアさんに誘ってもらいまして」
「彼はスティーヴ。元タルガに住んでた辺境開拓民で、現在は移民としてドーラに来ている人だよ。今日の案内を頼んだんだ」
「よろしくお願いします。こちらへどうぞ」
奥へ案内される。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ガハハ。来たか、ユーラシア。ルーネロッテ様もようこそ。こちらがサエラック総督だ」
「毎度っ! あんさんがユーラシアはんでっか。もうかりまっか?」
「まあまあでんな」
やや出っ歯で痩せ気味の中年男。
このタルガ総督はデフォルトで笑顔みたいだな。
役人というより商人だ。
中将が聞いてくる。
「今日はどうした?」
「中将がタルガに赴任したって聞いたから、査定しに来たんだよ」
「何? それは気張らなければならんな」
「カットした中将の給料は、わての方へ乗せとくんなはれ」
アハハと笑い合う。
「中将がタルガに着いて新造艦も就任だよって、一昨日ガリアに伝えてきた」
「情報が早よ伝わるのはいいことでんな」
「それ聞いたガリアの王様が変なこと言ってたんだ。もうアンヘルモーセンが海上で仕掛けてくることはないから、早期にタルガと貿易開始だって。アンヘルモーセンって対応が過激なん?」
顔を見合わせる総督と中将。
「サラセニアに対してアンヘルモーセンがキツいゆうのは事実ですわ」
「第三者の帝国人総督でも、キツく見えるくらいなのか」
「上がってくる報告もそれを示唆しているな。かなり露骨に貿易制限をしている。食料の入りにくいサラセニアはたまらんだろう。ただアンヘルモーセンの魂胆なのか、商人の独断なのかはわからん」
「アンヘルモーセンの国と認定商人と天崇教は三位一体でっせ。軍事力に訴えることはない思いますけど、紛争になってもおかしない雰囲気はありまんな」
「ふーん」
サラセニアは貿易制限をチラつかされてるってガリアで聞いたけど、タルガの見解では露骨にやられてるみたいじゃん。
アリスの言ってたこととも符合する。
となると?
「何でアンヘルモーセンがサラセニアにいらんちょっかいかけるのか。タルガでわかることある?」
「ありまへんな。天崇教の宣教師をぎょうさん送り込んどるんです。サラセニアの親アンヘルモーセン派と結びたい意図はわかります。やが、何故急いでことを運ぼうとするのかがわかりまへんねん」
サエラック総督と同様、あたしも引っかかるのはそこだ。
サラセニアに魅力を感じているのだとしても、アンヘルモーセンは何故急ぐ?
「ユーラシアはドミティウス閣下に何か言われているか?」
「いや、施政館には寄ってないんだ」
「施政館にテテュス内海の詳しい情報は入ってないでっしゃろ? こっちで判断して対応しないといけまへんな。ユーラシアはんはどう思います?」
あたしに振るのかよ。
「そりゃせっかく軍艦作ったんだから元取らないと」
「元を取るでっか。大事でんな」
「しれっとアンヘルモーセンと貿易続けるでしょ? 同時にガリア&サラセニアと貿易を開始して、他の国々とも直接交易を模索する」
「ふむ、アンヘルモーセンは嫌がりまんな」
「文句言ってきたら、軍艦ですが何かって言ってやりゃいいよ。でも実力行使には出ないでね。損だから」
「ハハッ、痛快でんな」
「何か主席執政官閣下やガリアの王様に言っとくことある?」
「今はありまへん。商人も少しずつ集まってきてますで、サラセニア向けの輸送を今日明日中にも委託しますわ」
商人集まってるのか。
懸念材料だったところだ。
やはり天使国アンヘルモーセンに反感を持ってる商人は、態度にこそ出さないだろうけど当然いるってことみたい。
仲間に引き込むべし。
「じゃねー。軍艦見物に行ってくるよ。マーク君借りるね」
「バイバイぬ!」
タルガ総督サエラックのイメージは明石家さんまさんです(笑)。