第1567話:ハマサソリという注目すべき魔物
掃討戦跡地、現在は開拓民の集落になっているところの転移石碑近くにフワリと着地する。
「どお?」
「素晴らしいスピードです! 素晴らしい体験です!」
高速飛行魔法アトラクションにルーネ大喜び。
うむ、いきなり飛行魔法には悲鳴を上げる人が多いけど、ルーネは驚きゃしない。
実に素質があるなあ。
カラーズを案内してから開拓地へ転移してもよかった。
でも今日はタルガでどれだけ時間食うかわからないからな。
直接クララの『フライ』で開拓地まで運んでもらったのだ。
えーとガイドをお願いする『訓練生』持ちの何やらさんはと。
あ、おっちゃんと一緒にいる。
「おーい、サブローのおっちゃーん!」
「おう、精霊使いの嬢ちゃんじゃねえか」
「今日、タルガへ行くんだ」
「聞いてる。スティーヴがガイドするんだってな」
そーだ、この『訓練生』持ちの名はスティーヴだった。
スティーヴスティーヴ、うん、忘れそう。
「オレはサブローさんほどの腕はねえが、タルガのガイドなら任せてくれ」
「おっちゃんとは知り合いだったんだ?」
「いや、オレが一方的に知ってた。サブローさんは実力ある辺境開拓民として有名だったんだ。ドーラへ渡ったって聞いた時は耳を疑った」
笑うサブローさん。
「おいらだっていつまでも浮き草暮らしはできねえよ。歳も歳だ。野垂れ死ぬ前に勝負するならドーラだと思ってよ」
「おおう、ドーラに狙いを定めたとは、カンがいいねえ」
「ところでそちらは? いいとこのお嬢みたいだが」
「帝国のドミティウス主席執政官の娘、ルーネロッテ皇女だよ」
「「えっ?」」
この間抜け面が見たかったのだ。
ルーネを先に迎えに行ってよかった。
もちろんルーネに高速『フライ』を味わう機会を与えてやろうとか、帝国からの移民の開拓地を見せてやろうとかいう気持ちもあったけど。
「初めまして。本日はよろしくお願いします」
「あっ、はい……」
「ほーん、つまりスティーヴに案内させて、皇女様とタルガ観光ってわけかい?」
「目的の半分はそう」
不安そうなサブローさんと『訓練生』持ち。
「タルガは荒くれ者の町だぜ?」
「サブローさんの言う通りだ。皇女様を連れて歩くようなところじゃねえ」
「うん、大体予想はついてる。でもあたしとあんたがいれば平気だぞ?」
もう『訓練生』持ちだってかなりのレベルなのだ。
少々絡まれたって全然問題ないわ。
むしろルーネにちょっと危ない経験をしてもらいたい、まであるニヤニヤ。
「精霊使いの嬢ちゃんがいるなら、心配するだけムダだろ」
「ムダなことは嫌いだな。時間のムダでもあるから、とっとと行くよ」
赤プレートに話しかける。
既にヴィルにはタルガに先行してもらっているのだ。
「ヴィル、聞こえる?」
『聞こえるぬ! こっちは準備オーケーだぬよ』
「じゃ、そっちへ飛ぶよ」
新しい転移の玉を起動し、タルガへ。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルとルーネをぎゅっとしてやる。
羨ましさ五〇%懐かしさ五〇%の顔を展示する『訓練生』持ちスティーヴ。
「ここはタルガの郊外なのかな?」
「ああ。あそこが正門。真っ直ぐ街道が伸びて、帝国本土と交通している」
「ふむふむ」
お父ちゃん閣下がひょろ長国土大臣に街道整備しろなんて言ってたけど、ドーラの西域街道よりもずっとずっとしっかりしてるじゃん。
やっぱ帝国はすごいわ。
「しかし町の外か」
「何かまずいことある?」
さすがに初めての場所でヴィルを街中に遣るわけにいかんから、必然的に郊外になるんだが。
「町の外は危険だぜ。この辺にもハマサソリっていう、毒持ちの魔物がいることがある。棒持ってて位置わかってりゃ誰でも倒せるけどな」
「んー、こいつのことかな?」
遠距離から『スナイプ』で射程を伸ばし、ぺしっとやっつける。
驚く『訓練生』持ち。
「足元にいても気付かず刺されることがあるんだ。あんなに遠くにいるやつ、よくわかったな?」
「気配があるからね。こっちに敵意を向けてたんじゃないから必ずしも倒す必要はなかったけど、ルーネの勉強のために」
「ありがとうございます!」
「もう一匹、今のより近い位置にいるよ。探して『ウインドカッター』でやっつけてみようか」
「はい、やってみます」
言われて『訓練生』持ちもどこにいるかわかったらしい。
レベルが上がると魔物の気配にも敏感になるでしょ?
頑張れルーネ。
「……わかりました。ウインドカッター!」
「お見事」
構えた杖から魔法がほとばしり、一発で両断だ。
よしよし、いい経験になったね。
「皇女様は風魔法の使い手なのか」
「はい、そうなんです」
「あんただって今は『ウインドカッター』使えるじゃないか。スティーヴは『訓練生』っていう固有能力持ちなんだよ。基本的な魔法やバトルスキルを色々使えるの」
「すごいですね」
「大してすごくはないんだ。器用貧乏」
「あんたが言うな。せっかくだから気持ち良く褒められたいだろ」
「褒められたいんだぬ!」
アハハと笑い合う。
冒険者としては微妙だけど、レベル三〇超えで異なる系統のスキルをいくつも使えるって、結構すごい人だからな?
自分でわかってる?
「ハマサソリにはタルガ開拓民局から常に退治依頼が出てるんだ」
「弱いとはいえ、こんな毒持ちの魔物が町の近くをウヨウヨしてたら危ないもんねえ」
「毒のある尻尾をちぎって開拓民局に持っていけば、一匹三ゴールドないし一〇ギルと交換だぜ。小遣い稼ぎにしている子供もいる」
「子供が? 危なくない?」
スライムよりよっぽどヒットポイントは小さい。
機敏でもなさそうだから確かに子供でも倒せるだろうが、毒持ちだぞ?
「目線の低い子供の方が見つけるの上手いんだぜ。刺されても開拓民局にはヒーラーが常駐しているからな。未成年だと無償で解毒してくれるんだ」
「へー、うまいシステムだな。手厚いんだねえ」
経験値はおそらくスライム以下、微々たるものだろうけど、繰り返してきゃレベルも上がる。
タルガには子供の頃から魔物に親しみ、自然と魔物退治の人員を育てる仕組みがあるんだなあ。
ドーラでも取り入れたい手法だが、ハマサソリみたいに素人でも倒せるような弱い魔物がいない。
「せっかくだから、尻尾持っていこうか。これも経験の内だよ」
「はい」
タルガの町の中へ。
こんな弱い魔物もいるんだなあ。
参考になるわ。