第1553話:特大のスクープがあるよ
リモネスさんに聞いてみよ。
「セウェルス殿下の思考は読みにくかった?」
「思考と言えるものではありませんでしたな。感情と欲望をごちゃ混ぜにしたドロドロの何かです。あんなものをぶつけられるのはたまりませんな」
「話してても取り留めがなかったわ。意識してないんだろって感じの、話題の飛び方で」
「執着だけがあって、出口を求めて彷徨うような得体の知れなさでした」
リモネスさんの言う通りだな。
セウェルス殿下の、欲望と言うには不純物の多過ぎる何か。
リモネスさんは相手の思考に混じりけが多いと読みにくいのかもな。
あたしを読みやすいのはほら、ピュアだから。
「陛下の思考はどうなんだろ?」
ようやく本題だ。
リモネスさんが何かを取り出す。
「これを」
「手紙? あっ!」
うっかり公爵からもらったのと同じ封筒だ!
まさかこれも遺書?
「予想外のものが出てきたぞ?」
「誰もいない時に、陛下から直接手渡されたものです。安心されたのか、その後陛下が目を覚ますことはなく、昏々と眠り続けております」
最近リモネスさんと顔を合わせることは多くなかった。
セウェルス第三皇子『強奪』イベントの時が最後だったか。
おそらく陛下の側にいることが多かったのだろう。
リモネスさんが言葉を続ける。
「陛下は最後まで悩んでおられた。思考も徐々にか細くなっていきました」
「うん」
目を細めるリモネスさん。
やや苦悩が見える。
「陛下の最終的なお考えは私にも推し量ることができませなんだ。私も読んではおりませぬが、この二通の手紙は皇帝後継者に関する重大な決定について書かれていると断言できます」
おお?
やっぱ重要なものだったか。
テンション上がるわ。
「リモネスさんにも手紙が渡されてるってのは、当然あり得ることだったわ。そこまで考えられなかったあたしは未熟だったわ」
「ハハハ、二通残されたのは、失われることを恐れたこと、信用性を高めるためからかと思います」
「じゃあ同じ内容なのかな?」
「おそらくは」
「三通四通あることはない?」
「はい」
これまた断言だ。
おそらく直筆、陛下が最後の力を振り絞って伝えようとした意思か。
となればぜひとも尊重してやらねばなるまい。
しかし具体的にどうする?
「私の方の手紙も、精霊使い殿が預かってくだされ」
「えっ?」
何ぞ?
予想外にもほどがあるんだが。
「実は私が陛下の遺言を受けているのではないか、との噂が密かに流れていましてな」
「噂も何も事実じゃん」
「ハハハ。まあそうなのですが、私がこの手紙を所持するのはいささか都合が悪いのですぞ」
ははーん、手紙を持ってると奪われる危険も身の危険もある。
あたしに渡したならば、自分は持ってないと『断罪』の効果で突っぱねることもできるってことか。
誤魔化してると信念もクソもない。
『断罪』の効果出なさそうだしな。
だからさっき固有能力の話なんか始めたんだな?
「精霊使い殿にとっては、手紙が一通であろうと二通であろうと同じことでしょう?」
「変わらないね。わかった、あたしが持ってるよ」
「ありがとうございます。して、どうします?」
問題は遺書の活用法だ。
一番この手紙を有効に使うには……。
「……帝都の新聞記者を呼ぼう」
「ほう、名案ですな!」
『サトリ』持ちは話が早いなあ。
ヴィルの持つビーコンと新しい転移の玉を交換する。
「新聞記者トリオ見つけてくれる? 近衛兵詰め所や新聞社みたいな話しかけられるところにいたら連絡取って」
「わかったぬ!」
姿の掻き消えるヴィル。
しばらくの後、赤プレートに通信が入る。
『御主人! 新聞社にいたぬ! 代わるぬ!』
『ユーラシアさんですね?』
「そう、ドーラの美少女精霊使いことあたしだよ」
『どうされたんです? 記事ネタですか?』
「特大のスクープがあるよ。通信じゃ話せないネタなんだ。時間あるなら、ヴィルとこっちへ転移して来てくれる?」
『行きます!』
「じゃ、ヴィル。記者さん達連れてきてね」
『はいだぬ!』
来た来た。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
あんたはよく働いてくれて偉いね。
ぎゅっとしてやる。
「あっ、リモネスさん?」
「ここユーラシアさんの家ですよね?」
「まあ落ち着きなよ」
ハーブティーをどうぞ。
で、いきなり用件だけれども。
二つの封筒を見せる。
「これは? 手紙ですか?」
「皇帝陛下の遺書だよ。次期皇帝指名について書かれている可能性が濃厚な」
「「「えっ!」」」
驚く記者トリオ。
それ以上の言葉が出てこない
ハッハッハッ、大ネタを披露した時の反応はこうじゃないとな。
「一通はうっかり元公爵、もう一通はリモネスさんに託されたものなんだ」
「な、なるほど。ともに陛下の信頼の厚い……」
「で、この二通の遺書をあたしが預かることになりました!」
「「「えっ!」」」
ハッハッハッ、テンポよく驚いてもらえると気分がいいなあ。
「うっかり元公爵はラグランドに渡ってもう隠居だからってことだった。一方でリモネスのおっちゃんは陛下の遺言聞いてるかもって噂で、身辺が危なめなんだって」
「だから襲われる心配のないユーラシアさんに?」
「あたしは陛下と面識ないしドーラ人だし、一見無関係だからね。さて、ここからが記者さん達の仕事だよ」
居住まいを正す記者トリオ。
「あたし達は陛下のお考えを正確に伝えなければなりません。外部の思惑が混じってはいけないから、陛下が亡くなる日までこの件については秘密だよ」
「「「はい」」」
「遺憾ながら陛下が亡くなったという報が入ったら、即座にあたしが遺書を預かっている、帝国民注視の中開封し、内容を公表すると新聞発表して」
「えっ? 内容は御存じないんですか?」
「誰も読んでないんだ。本番まで知らなくていいよ。陛下の意思は変わらないんだから。そう思わない?」
「「「思います」」」
リモネスさんも頷いてるし。
「くれぐれも新聞発表のタイミングは間違えんなよ? 遅れると後継候補者同士の争いや、下手するとクーデターや暗殺事件とか始まっちゃう。かといって早過ぎると新聞潰されちゃうぞ?」
「心得ております」
これでいい。
タイミングさえ間違わなきゃ皆の意識は遺書に向く。
皇帝崩御後の混乱は最小限に抑えられるだろ。
「急に来てくれてありがとうね。記事の件よろしく。送っていくよ」
ちょっと面白くなってきたぞー。
遺書の内容はわからんけど。




