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第1532話:ふりかけ考

 フイィィーンシュパパパッ。


「こんばんはー。あたしが来た! お肉とふりかけ持ってきたぞお!」

「いらっしゃいお肉! ウェルカムふりかけ!」


 チュートリアルルームにやって来た。

 今日はふりかけデーだ。

 ふりかけはらいすの友になり得るか?

 改善点を探っていかねば。


「ヴィル参上ぬ!」

「お招きありがとう存じます」

「ヴィルちゃんガルちゃん、いらっしゃい!」


 ヴィルとガルちゃんも来た。

 二人をぎゅーするバエちゃん。

 ハハッ、可愛いもんなあ。


「お米は炊けてるわよ」

「よーし、お肉焼こう!」


          ◇


「おおく~おおく~たべて~ゆくに~ぼしらいす~おにく~らびじゅ~」

「煮干しらいすか。魚粉はバエちゃんの世界の煮干しとはちょっと違うと思うけど。むーん?」

「どうしたの? ユーちゃん。魚粉ふりかけ、とてもワイルドでおいしいわよ?」


 絶好調のところごめんよ、バエちゃん。

 クララも気付いたようだ。


「……魚が前面に出過ぎていますね」

「それなー。美味いは美味いんだけどなー」


 魚粉ふりかけは、熱いらいすの上にかけると魚臭さが際立ってしまうということが判明。

 魚フライは揚げて生臭さをなくすことでドーラに受け入れられたが、魚粉ふりかけはこのままじゃ難しいだろうな。

 元々魚食に抵抗のない移民は喜ぶかもだけど。


「刻みネギミックス醤油がけは、大変に美味ですわよ? 魚臭さもそう感じませんし」

「うん、メッチャ美味い。お肉を忘れそーになるほどらいすが進む。でも刻みネギと醤油を用意しなきゃいけないというところで、完成度が低いな。バエちゃんの世界ののりたまふりかけに遠く及ばない」


 ふりかけも簡単じゃなかったな。

 かといってのりと卵を使うと、製造工程が複雑になる上価格が跳ね上がっちゃう。

 バエちゃんが聞いてくる。


「この魚粉は高いの?」

「すごく安い。海の王国で魚から油を搾ったあとのカスなんだよ。ほとんどタダみたいな値段で手に入る」

「じゃあ仕方ないんじゃない?」

「安いからって問題点に目を瞑るのは、あたしのやり方じゃないんだな」


 魚粉・海藻・塩の基本の組み立てはいいのだ。

 他に混ぜ物をして魚粉比率を下げるのが正統的な考え方か。

 でも販売価格が上がっちゃうんじゃ本末転倒な気もするなあ。

 じゃあ魚粉の欠点を目立たなくする使い方をすればいい?


「冷えたライスに使えばよいのですわ」

「……お弁当か。なるほど、冷えたらいすに使うなら魚臭さが出にくいかもな。ガルちゃん冴えてるね」


 今の魚粉ふりかけはお弁当用移民用にして、魚粉比率を落とし他の材料を多くしたふりかけを別に考えりゃいいな。

 まあいい、今年の米は試験生産で、大量に作るのは早くて来年から。

 今の時点でふりかけがここまでできているというのを前向きに考えよう。


「のりたまの完成度が高いことは理解した。ちなみにバエちゃんとこの世界では、ふりかけにどんな材料が使われるのかな?」

「海苔と卵の他にってことね? お肉でも魚介類でも何でも使われるわよ。でも味に大きく影響するのは、スパイスやハーブの類ね」

「結局そこか。味変は食文化に密接に関わるなー」

「カレーふりかけもあるし」

「あっ、なるほど?」


 スパイスの配合によっては、かれえも当然可能だわな。

 ふりかけには無限の可能性がある。


「ところでのりたまののりって海藻だよね?」

「柔らかい海藻を薄く干し固めて紙みたいにしたものよ」

「……わざわざ加工したものをまた細かくしてるのか。何でそんな面倒なことしてるの? 最初から粉末にすりゃよくない?」


 ぶんぶんと首を振るバエちゃん。


「違うの。海苔はライスを包む食材なの」

「ライスを包む?」


 どゆこと?

 戸棚からのりを出してくるバエちゃん。


「これが海苔。食べてみて」

「本当に黒い紙みたいだね」


 あむり。

 パリパリ。

 口の中で溶けてなくなる。


「……今まで知ってる海藻とは全然イメージ違うな。食感が軽くて変わってる。柔らかい海藻ってのがよくわかる」

「これでライスを包めば、手に持ってもベタベタしないでしょう?」

「ふむふむ、テイクアウトに使いやすいのか」

「醤油にも合うのよ。湿気に弱いけど」


 面白い。

 いずれ海の女王に提案してみよ。

 でも米が普及しないと売れないな。

 あれ、アトムがらいすとお肉をのりで巻いて食うとるやん。

 うまそーだな。


「勉強になったよ。まだまだグルメの探求は尽きないな。工夫の余地はいくらでもあるとゆーことがわかった。研究しないと」

「ユーちゃんは食べ物に熱心ねえ」

「おいしいものができたら、私にも食べさせて欲しいのですわ」

「もちろんだよ」


 おいしいものは愛であり、幸せの象徴なのだ。

 あたしも探求者として伝道師としてフードファイターとして、美味いものを追い求めていかないとな。


「全然関係ないけど、バエちゃんに聞きたいことがあるんだった」

「何かしら?」

「前に脱落しちゃった『アトラスの冒険者』の名簿もらったじゃん?」

「ええ。役に立ってるかしら?」

「今役に立ってるっていうより、将来への布石だな。もう何人かには会ってるんだ」

「よかったわ。脱落しちゃった人は思うところあると思うから」


 かもなあ。

 後悔までは行かなくとも、いつまでも気にはしてそう。


「聞きたいこととは何なの?」

「『福助』って固有能力を持ってる人がいるんだ。自分含めた周りの運を上げる効果だって教わったんだけど」

「正直冒険者としてはどうなの、という固有能力ではあるわね」


 冒険者としてはあたしの『ゴールデンラッキー』の方が、運の効果がハッキリするだろうな。

 それでもどこに効いてるのかよくわかんないけど。


「どういう固有能力なのか、もう少し詳しく知りたいんだ。バエちゃん何か知らない?」


 小首をかしげるバエちゃん。


「……レアでほとんど例のない固有能力なのよ。おそらくレベルの上昇により、効果の強さではなくて範囲が広がるのだろう、ということしか。でも何で?」

「あたしの信頼する占い師、画集の『マーシャ』って子だけど、すげえ重要視してるんだよね。長くドーラに幸運をもたらすって」


 効果範囲が広がるか。

 とにかくレベルを上げろってことだな?


「ごちそーさま。ありがとうね。今日は帰るよ」

「こちらこそ。また来てね」

「バイバイぬ!」

「御機嫌よう!」


 転移の玉を起動して帰宅する。

ふりかけ道も奥が深いわ。

それだけいろんな可能性が。

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