第1520話:レダ、ギルドへ
――――――――――二四四日目。
「レダであるか?」
「うん。あの子メッチャ変わってるよねえ。全然悪魔らしくない」
今日は凄草株分けの日。
いつものように大悪魔バアル、畑番の精霊カカシと雑談しながら作業を進める。
カカシが面白そうだ。
「へえ、ユーちゃんがそう思うくらいの悪魔なのかい?」
「淡々としていて忠義者オーラが漂うというか。がっついて来ないんだよね。見かけ天使っぽいこともあるけど」
「ほお?」
欲がないように思えるのだ。
悪魔は自分好みの負力を得ようとして行動するのが基本だ。
いい子のヴィルであっても例外ではないのに、レダは自分というものを押し出さず丸っきり受身に見える。
あんなんで好みの負力を得られるのかな?
行動原理がわからん。
バアルが首をかしげる。
「不思議なやつではある。思うにレダは悪食なのではないか?」
「「悪食?」」
どゆこと?
「高位魔族は身体の維持のために、また活動のエネルギーとして負力を必要とするである。通常はそれに悪感情が相当するである」
「よーくわかる。御飯は大事」
ヴィルみたいな好感情好きを除いては、だ。
悪魔は尊敬されたり認められたりすることも好きだが、一般にイメージのよろしくない悪魔は実際にそんな感情を得る機会はほとんどない。
だから手っ取り早く悪感情を得ようという行動になるのだ。
「あくまで推測であるが、レダの摂取する負力は何でもよいのではないか?」
「何でもいい?」
レダがどんな感情であっても負力として摂取できると仮定する。
あえて相手を悪感情にさせる必要がないから、ああいう物腰でいいのか。
「理屈は通るな。なるほどなー」
「大悪魔の推測はさすがじゃねえか」
「照れるである」
相手から何らかのメリットを引き出そうとするのは、悪魔じゃなくても普遍的に見られることだ。
人間だって得になることをしようとする。
だけど、悪食の悪魔だからがっついた行動を取らなくてもいい、ってのは面白い理屈だなあ。
逆に言うと、レダみたいな無欲な子に言うこと聞いてもらうのには、かなり方法を考えないといけないのかもしれない。
カカシが言う。
「レダって悪魔は、性格まで天使みたいってことかい?」
「いや、天使とは真逆である。天使は高慢で横柄で驕傲で無礼で不遜で権高である」
「随分と並べ立てたなあ。感心するわ」
「恐縮である」
「……ユーちゃんって、天使の要素が多くねえか?」
「えっ? 外見が天使っぽいって?」
「「……」」
こら、あんた達黙るな。
どうやらあたしは天使で悪魔らしい。
魅力的ってことだな。
あ、海岸に行ってたアトムとダンテが帰ってきた。
「お帰りー」
「姐御、新しい『地図の石板』はなかったでやすぜ」
「そーかー」
昨日帰宅時にクエスト終了のアナウンスがあったのだ。
新しいクエストが来ないということは、『ガリア・セット』はまだ続くらしい。
クララの声だ。
「朝御飯ですよ」
「今行くー」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「やあ、いらっしゃい、ユーラシアさん。今日もチャーミングだね」
「おっはよー、ポロックさん。あたしは毎日欠かさずチャーミングを心がけているよ」
ギルドにやって来た。
この時間だとまだ人は少ない。
ポロックさんが声を潜める。
「……『アトラスの冒険者』が廃止されるって、本当なのかい?」
「うん。八の月の末までだって。残り四ヶ月切ったね。もう一ヶ月もすると、ギルド職員には本部から正式に通達があるはず」
「そうか……寂しくなるねえ」
「ならないぞ? 代替組織を作るからね」
「ユーラシアさんが代替組織を作る方向で動いているとは、大雑把にペコロス君から聞いたが……」
「ちょっと進んでるんだ。ほら」
二個の転移の玉を見せる。
ドワーフに作ってもらった、デス爺設計のものだ。
「これは?」
「新『アトラスの冒険者』用転移の玉のプロトタイプだよ。各冒険者に自分のホームとギルドに行ける転移の玉を支給するでしょ? で、ギルド近辺に各地への転移石碑を設置しようと考えてるの。現在やってることはアバウトに補完できるだろっていう」
「ああ」
クエストを得られないけど、っていう考えがポロックさんにはあるみたいだな。
いいよ、冒険者は塔のダンジョンと魔境で稼げばいい。
あとはイレギュラーな依頼をこなせば十分。
「新『アトラスの冒険者』を組織したら、職員さん達は皆辞めないで移ってくれるのかな?」
「正職員に関しては、全員代替組織に所属したいという意志があるよ」
「やったあ!」
じゃあ運転資金さえあれば困ることないな
資金は新『アトラスの冒険者』に所属するメンバーから集めりゃいいし。
「このプロトタイプは塔の村とギルドに飛べるやつなんだ。二人の冒険者、リリー皇女とカラーズ赤の民族長の娘レイカに渡すつもり。ギルドに遊びに来ると思うから、よろしくしてやってね」
「わかりました。でもいいのかい? ユーラシアさんの負担が大きいだろう?」
ポロックさん心配そうだけど。
「あたしが好きでやってることだからいいんだぞ? それより新体制になると、本部から資金補填が受けられないじゃん。赤字だとやっていけないから、職員の皆さんで儲け方は考えておいてよ。冒険者が多くなれば解決すると思うけど、最初からはちょっとムリだからさ」
「ああ、もちろん」
ようやく笑顔になるポロックさん。
「ところでポロックさんに紹介したい子がいるんだよ」
「ほう、どんな人だい?」
「人じゃなくて悪魔なんだけどね。あ、来たかな?」
ヴィルとレダがシンクロワープしてやって来た。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子! よく連れてきてくれたね」
「ユーラシア様、おはようございます。ここがギルドなんですね?」
「そうそう。レダ、こちらがギルド総合受付のポロックさんだよ」
「よろしくお願いいたします」
興味津々のポロックさん。
「こちらこそよろしくね。レダさんは本当に悪魔なのかい?」
「はい、高位魔族であること間違いないです」
「魔王配下で連絡係やってる子なんだ。ソル君が『魔王』のクエストもらってたじゃん? 今ソル君と魔王は友達なんだけど、魔王からソル君に連絡を取る術がないってことだったから、ギルドで伝言すること教えてあげようと思って。
「ああ、なるほど。どうぞ中へ」
ギルド内部へ。
レダにも興味あるが、天使にも興味ある。