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第1508話:キメラの成獣も美味かった

 フイィィーンシュパパパッ。

 今日は雨なので、表紙絵の受け渡しを明日にすることをイシュトバーンさんとフィフィに連絡してから、海の王国にやって来た。

 キメラのお肉は美味いから女王も喜ぶだろうな。


「グオングオングオングオングオングオーン!」


 うちの子達が意外そうだ。


「姐御、いきなりでやしたね?」

「うん。隙を見せずにすかさず叩き鳴らしてしまう作戦だよ。魂を震わせる銅鑼の音を聞け!」


 おっと、女王転がり出てきたぞ?


「肉肉肉?」

「肉肉肉!」

「やっほーい!」


 ひらひら舞い踊る女王。

 これが情熱を秘めた喜びの舞いか。

 それとも食という欲望に踊らされる哀れな道化か。

 面白ければ何でもいーんだよ。

 ヴィル呼んどこ。


「今日のはキメラっていう、いつもと違う肉なんだ」

「ほう、美味かの?」

「幼獣は食べたことあるんだ。軽い食感でなかなかおいしかった。これは成獣だからどうかわからんけど、幼獣より旨みが強くなるんじゃないかな」

「楽しみじゃの!」


 あたしも楽しみだ。

 一般に成獣のお肉は硬いから、焼き肉なら薄切りがいいかもしれない。

 まあいいや、魚人シェフの采配に任せよう。

 衛兵達がキメラ肉をえっちらおっちら調理場へ運んでいく。


「じゃーん! 御主人に呼ばれてヴィル参上ぬ!」

「よーし、よく来た! ヴィルいい子!」


 ぎゅっとしてやる。

 あんたは可愛いのう。


「席についてたもれ。そうじゃ、最近海底にも醤油が入荷するようになったのじゃ」

「よかったねえ。これからどんどんいろんなものが入るようになるよ」

「いいものは紹介してたもれ」

「りょーかーい」


 イコール生活が豊かに便利になるってことだ。

 素晴らしい。

 どんなものを導入できるかは、ハヤテが来た時に聞くといいよ。


「肉は入らんのかの?」

「お肉? ウシとニワトリは買えると思う」

「コブタマンはどうじゃ?」

「魔物肉は流通ルートに乗ってないな。そもそもコブタマンは生息場所が特殊でさ。あたしらしか狩ってこられないんだ」

「ふむう、そうじゃったか」


 コブタマンはドーラにいないみたいだしなあ。

 生息場所である本の世界に行けるのもあたし達だけ。

 本の世界は『永久鉱山』だから、コブタマンを狩り尽くす心配はない。

 あたし達が供給すりゃコブタ肉は出回るが、面倒なノルマを抱えたくないしな?

 お土産に持ってくくらいでちょうどいい。

 家畜肉の生産者を育てるべき。


「コブタマンに食味が似てるワイルドボアっていう魔物を、森エルフが家畜化しようとしてるんだ。その内いろんな肉を食べられるようになるよ」

「うむ、期待しておるぞよ」


 魔物の家畜化って難しいらしいけど、あたしも期待している。

 あ、料理出てきた。

 いただきまーす。


          ◇


「ごちそーさま! おいしかった!」


 キメラ成獣はなかなかうまーい!

 女王とヴィルが一緒になって全身で床掃除してるのがその証拠だ。

 脂の乗りはコブタマンに及ばないから、エルフの族長アビーの好みじゃないかもしれないけど。


「実に美味い! しかも塩に合う!」

「そーだね。キメラのお肉も料理法をあんまり選ばないだろうな。きっと何しても美味い」

「また持ってきてくれるかの?」

「うーん、これ魔王島で狩ってきたんだ。生息数もさほど多いわけじゃないみたいだから、しょっちゅうはムリっぽい。でも機会があったら狩ってくるよ」

「すまんな。期待しておるぞ」

「いや、あたしもたまには食べたい、おいしいお肉だわ」


 アハハと笑い合う。

 おいしいお肉は幸せを生むなあ。

 女王がちょっと落ち着いたようだ。

 目を細め聞いてくる。


「魔王島、か。おんしは相変わらず外国に関わっておるのかの?」

「うん。今日もこれからガリアってとこ行くんだ。『アトラスの冒険者』は面白いことに関わらせてくれるよ」

「ラグランドじゃったか? 蜂起が起きたという。あれはどうなった?」

「無事解決って言っていいな。今後ドーラもラグランドから特産品を輸入できるようになるよ。うまーいスイーツが作れるようになるから、そっちも期待しててね」

「うむうむ。おんしの働きはヒバリ以上じゃのう」


 女王は褒めてくれるけどなー。

 そーでもないんだよなー。


「ドーラ黎明期のヒバリさんの活躍ってすごいんだよ。伝説じみた言い伝えが残ってるだけで、よく知られてるとは言いがたいんだけどさ」

「地上のことはよくわからんが……盛んに亜人の間を取り持とうとしていたことは覚えておる」

「人種の垣根を取り払うってのも、あたしのやりたいことだな。ヒバリさんはノーマル人居住域を格段に広げるってこともやってるんだよね。街道を通すことで。あたしもヒバリさんに倣いたいことがあるんだよ。でもどーやってるのかわかんないことが多いの」


 ヒバリさんは転移の手段や飛行魔法を持ってたわけじゃないだろうに、行動範囲がかなり広い。

 わかってるだけでも現在の塔の村を中心とするレイノス以西と、さらに西の亜人居住域にまで及ぶ。

 ヒバリさんは碧長石をどこで手に入れたんだろうな?

 あれが手に入るなら、あたしも南部に街道を通すことができるんだけど。


「描いてた構想もわかるんだよなー。あたしと似たこと考えてるの」


 現在の塔の村は、かつてドワーフの集落だったと言う。

 おそらくヒバリさんはノヴォリベツまでをノーマル人居住域とし、塔付近で亜人と交流することを考えていたんだろう。

 だから街道は現在の塔の村まで延びているのだ。

 あたしの塔の村経済圏構想と近い。

 賑わっていた当時のノヴォリベツは、亜人のお客さんが多かったのかもしれないな。


 決定的に違うのは、ヒバリさんは自分の考えを実現するためのキーアイテム碧長石を手にしていたが、あたしは持っていないということ。

 集落は魔物除けの札で何とかなるにしても、道を通すにはやはり強力で長持ちする魔物除けが必要だ。


「焦っても仕方がないぞよ? おんしはようやっておる。外国に伝手を作るのは、おんしでなければできないことであろう?」

「まあねえ」


 あたしは海外方面で働けってことかもしれないしな。

 あ、ヴィル来た。

 よしよし。


「女王、ありがとう。やれることをやるわ」

「期待しておるぞよ」

「さて、帰ろうかな。そーだ、お酒買ってこ」


 これから転移石碑や転移の玉でデス爺を働かせなきゃいけないので、機嫌を取っておかなければな。

そう、やれることをやろう。

どうせあたしのことだから、夢を現実化する展開はあるわ。

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