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第14話:何をすべきか、鍋だ!

 ――――――――――六日目。


 今日は雨か。

 半年前、あたしが成人しクララとともに故郷の村を出ると決まった時、族長デス爺以下村の皆で建ててくれたこの家はとても丈夫だ。

 嵐になろうがビクともしない。


「あたしの髪、クセっ毛だからさあ。雨降るとボワっとなるんだよね」


 バエちゃんにもらった本を読んでいたクララが、あたしの朽葉色の髪の毛の跳ね具合を見て首をかしげる。


「ユー様、それは寝グセですよ」

「真実を語るのが残酷な場面ってものがあるじゃん?」


 残酷? って顔だな。

 クララの頭部の角度が急になった。

 変な格好で本読んでると首が痛くなるよ。


「雨の日こそ、チュートリアルルームへ遊びに行けばよいのでは?」

「あたしのいない寂しさもバエちゃんに思い知らせてやらないといけないし」


 クララがクスクス笑っている。

 一つクエストを終えたから、バエちゃんとこへ行きたいは行きたいのだが。

 報告だけというのはどーも。


「何の本読んでるの?」

「イシンバエワさんにいただいた本の内の一冊、『魔法スキル大全』です。ユー様、レベルが上がって『ハヤブサ斬り』を覚えたじゃないですか」

「うん。使えそうなんで期待してる」


 スライムクエストから帰還する時、転移の玉を使用したタイミングでレベルが上がり三となった。

 『ハヤブサ斬り』は、その際に習得した単体二回攻撃バトルスキルだ。

 ただしクリティカルは出ないらしい。

 今までマジックポイントを使う機会がなかったから、与ダメージ増を期待できるスキルの習得は嬉しいな。


 魔法とバトルスキルの違い?

 魔法もバトルスキルも、両方スキルには違いない。

 魔力を媒介にするのか、単に発動コストとしてマジックポイントを必要とするのかの違いですよって、クララ先生が言ってた。

 なるほどわからん。

 状態異常『沈黙』で使えなくなるのが魔法、そうでないのがバトルスキルと覚えておく。 


「クララは昨日のクエスト、どう思った? 色白精霊的感想を聞きたい」

「あはは、色白精霊的感想って何ですか。魔物と戦う経験はしたことがなかったですので、新鮮ではありました」

「レベルが上がった時の感覚は? あたしあれ病みつきになりそう」

「高揚感ありますよね。私も好きです」


 世の中には戦いを追い求めてしまうバトルジャンキーなる人種がいるという。

 レベルアップの快感を知ると、何となくわかる気がする。

 魔物を狩って経験値を稼ぎたい。


「クララも風魔法覚えてたよねえ」

「はい。『プチファイア』より『ウインドカッター』の方がかなりダメージが出るので……」


 うむ、クララが口ごもった理由はわかる。


「昨日のクエストで、戦闘における問題点はかなり明らかになったね」

「まず、基本的な力量が足りてません」


 最弱の魔物スライム相手であれほど苦戦するということは、攻撃力、防御力、魔法力、敏捷性など全てのパラメーターが不足しているのだ。

 レベルの上昇や戦い方の工夫でマシになったとはいえ、強力な魔物に対抗できるわけもなし。

 じゃあどうする?


「昨日のクエストのところ行ってさ。スライム倒しまくって少しレベルを上げられるならよかったんだけど、もういないじゃん。これ次のクエストで魔物強くて倒せなかったら詰みだと思わない?」

「私も同感です。どう考えても、工夫じゃどうにもならないです」

「弱い魔物が生息しているエリアに心当たりがあるとか、あるいはどこかでパワーカードが手に入るなら事情は異なるけど」

「ハッキリ言って、もう二枚ずつパワーカードを装備していたら、スライムに苦戦することはなかったですよ」


 うむ、クララもそーゆー見解か。

 せっかくおぼろげながらも勝利への方程式が見えてきたとゆーのに。

 同時に解が存在しないケースの可能性も明らかになってしまった感じだ。

 困ったな?


「スライムクエストが終わったから、次の『地図の石板』が来るだろうね」

「ええ。難易度の低いクエストが来ることを祈りましょうか」

「あたしは普段の心がけがいいから大丈夫と思いたい」


 アハハ。

 クエストのことよりも、と。


「晴れたら村へアイテム換金に行こうか。クララは何か欲しいものある?」

「今のところ特には。素材は売らずに取っておきましょうか?」

「うん、クエスト進むまで売るのは様子見よう」


 スライム爺さんによると、かつてパワーカードを装備していた冒険者は、新しいパワーカードを作ってもらうために素材を集めていたそーな。

 パワーカード製作者が素材を要求するってことなんじゃないかな。

 もし今でも製作者がいるなら同じに違いない。


「やっぱ冒険者も簡単じゃないなー。辞めちゃう新人は少なくないって、バエちゃんが言ってた理由がわかったよ。魔物を倒せないと心が折れそーになるかもしれない」

「でも私達は最初のクエストをクリアしましたから」

「クララの言う通りだ。勝利は我らの手にあり!」


 スライム爺さんは、初めての戦いなのにあたし達がスライム五匹全部倒したこと驚いてたな?

 普通一人で初陣だと一匹のスライムを倒せるかどうかだとも。

 あたしもクララの助力がなければ、多分一匹倒すので一杯一杯だったろうな。

 ということは、あたし達比較的イケてるのか?

 いや待てよ?


「……普通に考えれば、ド素人に武器渡して魔物倒せなんてちゃんちゃらおかしいわ。経験者がついて教えるべきだろ」

「でしょうねえ」

「どういう基準で『アトラスの冒険者』を選んでるのか知らんけど、制度的な欠陥だな? 何の心得もない者をいきなり放り出すなんてあり得ん」


 いかに武器と転移の玉をくれるとは言え、そりゃ新人辞めちゃうわ。

 しかしせっかく手に入れたエンジョイ未来へのきっかけだ。

 放棄するなんてさらにあり得ん。

 あたしの世界征服計画(冗談)に支障をきたしてしまう。


「何が足りないって実力が足りないんだけどさ。情報はもっと足んないんだよ」

「はい。情報を得られるとすれば、イシンバエワさんかスライム牧場のお爺さんですか」


 スライム爺さんにはかなり参考になることを聞かせてもらった。

 経験論的なことはまだまだためになることを知っているだろう。

 しかし引退してしばらく経ち、現在の事情には疎い。

 となれば……。


「鍋だな!」

「はい?」


 唐突なあたしの宣言に、クララが豆鉄砲食らったような顔をしている。

倒せる魔物でレベルを上げられるって幸せ。

でも魔物はこっちの都合に合わせて現れてくれないんだなあ。

弱い魔物から順番に現れてくれればいいのに。

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