第1387話:アクシデントウェルカム
ハキハキ答えるヴィル。
「わかると思うぬ。特徴的な間の抜けた負力だぬ」
「おおう、ダイレクトに言うなあ。じゃあじっちゃん。毎日リキニウスちゃんと会話させてあげるから、我慢してね」
「えっ……どうやって?」
「うちのヴィルはワープの得意な悪魔だよ。連絡係をこなしてくれるの」
「「「「悪魔?」」」」
うっかり公爵とお付きの面々が驚いてる。
アデラちゃんはこの前ヴィルに会ってるんだったか?
「悪魔だぬよ?」
「ヴィルはそんじょそこらの悪魔と違って、好感情好きのいい子だよ。嫌なことはしてこないから心配いらない」
「いい子だぬよ?」
「ええと、どういうことだ?」
首をかしげるうっかり公爵。
ま、これだけの説明でわかってもらえるとは思っちゃいないけれども。
間の抜けた顔がさらに空っぽに見えるなあ。
「簡単に言うと、あたしはヴィルがどこにいても話すことができるし、ヴィルの行けるところならどこへでも転移できるの。使者の乗る船に転移してじっちゃんところにヴィルを送れば、リキニウスちゃんとの通話を中継できるってことだよ」
「おお、そうか! よろしく頼むぞ!」
「頼まれたぬ!」
「連絡時にヴィルが行くから、温かく迎えてあげてちょうだい」
「わかったぞ。ん? その理屈だと、わしを使者の船に転移させることもできるのではないか?」
気付いたか。
案外油断ならないな。
おバカと間が抜けてるのはジャンルが別なんかな?
「じっちゃんはアクシデントウェルカムだからダメだとゆーのに。船が沈没したらどーするつもりだ」
「いくら何でもひどい!」
あたしも今のは暴論だと思った。
でも恐ろしいことに、うっかり公爵のお付きの面々が全員頷いてるからな?
トラブルメーカーっていうのは、うっかり公爵みたいな人のことを言うんだと思う。
あたしはトラブルメーカーじゃないわ。
「まーリキニウスちゃんの声だけで満足しなよ。甘やかすばかりが能じゃない。男の子は経験で成長するのだ」
「う、うむ、わかった。リキニウスちゃんの貴重な成長の機会だものな……」
御納得いただけたようだ。
「ヴィルは今後も施政館に行くことあると思うんだ。アデラちゃんもヴィルに会った時は可愛がってやってね」
「はい、もちろん」
ヴィルがアデラちゃんに撫で撫でされて気持ち良さそうにしてる。
可愛いやつめ。
「あ、いらっしゃいましたね」
おそらくは船長だろう。
立派な風采の船乗りに先導され、リキニウス殿下とルーネ及び随員達がやって来た。
「「ユーラシアさん!」」
「おお? ルーネどうしたの?」
「「素晴らしい!」」
リ殿下とルーネが駆け寄ってきた。
ルーネなんか抱きついてきたぞ?
うっかり公爵と片眼鏡杖職人が大喜びしてんの。
ルーネが言う。
「私の固有能力を鑑定してもらったんです。『風魔法』だということでした!」
「風魔法使いだったか。いいね。レベルが三〇くらいになると飛行魔法使えるはずだよ」
「飛べるようになるんですね! 楽しみです!」
つっても皇女様がレベル上げる機会なんかあるのかな?
冒険者になりたいってことだったか。
ルーネはできる子だから協力してやりたいけど、溺愛お父ちゃん閣下の干渉が大きいからなー。
リ殿下が目をキラキラさせて聞いてくる。
「ユーラシアさんは、もちろんドラゴンを倒したことがあるんですよね?」
「もちろんだ! 超絶美少女精霊使いが一振りで五体のファイアードラゴンを倒すのを、私は実際に目撃している!」
「何でナバルのおっちゃんが得意げなのよ?」
「すごいです!」
「『輝かしき勇者の冒険』以上です!」
「『輝かしき勇者の冒険』は所詮フィクションだ。現実の超絶美少女精霊使いはドラゴンなどに苦戦したりしないのだ!」
「いやだから何でおっちゃんが得意げなのよ?」
リ殿下とルーネが尊敬の目で見てくるやん。
実にいい気分だなあ。
「実にいい気分だぬ!」
「よしよし、ヴィルもいい気分か。リキニウスちゃんも冒険者やドラゴンに興味があるんだ?」
「あります! 『輝かしき勇者の冒険』は何度も読みました! ぜひユーラシアさんのお話を聞きたいです!」
「リキニウスちゃんが御所望だ。ユーラシア君、話してやってくれ!」
「そりゃ構わないけど、もう船が出るんでしょ?」
「「ええー?」」
何なんだあんた達は。
仕事しろ仕事。
「あとで船に遊びに行くから、その時にね。午後になるかな」
「船に遊びに? どうやって?」
「ヴィル、この船マークしといてね」
「はいだぬ!」
「はい注目。この子は悪魔のヴィルです。うちの連絡係をしています」
「「悪魔?」」
「すごくいい悪魔だから、可愛がってやってね」
「「はい!」」
頭を撫でられて気持良さそうにするヴィル。
悪魔ダメな人って案外少ないなあ。
「あたしはヴィルのいるところならどこへでも転移できるんだよ。船にヴィルを飛ばすから、見かけたら入れてやってね」
「「わかりました!」」
リキニウスちゃんはマジで整った顔だこと。
ニコニコしてるとすげー可愛い。
「お爺様の若い頃によく似ていると言われたことがあります」
「へー。皇帝陛下ってハンサムなんだ?」
「いえ、陛下ではない方のお爺様に」
「えっ、うっかり公爵に? 由々しき事態だね。中身まで似ちゃいけないよ?」
「どういう意味だ!」
「一字一句文字通りの意味だわ!」
断言したった。
大笑い。
うっかり公爵はオチに使うのにちょうどいいとゆーか、使い勝手のいいキャラだなあ。
トラブルに巻き込まれるのは嫌だから、身近にいて欲しいとは思わんけど。
よーく見ればうっかり公爵もダンディと言えないこともない。
隙のあり過ぎるところが気になって、容姿に目が行かないんだよな。
「御用意ください。出航します」
船員の声とともに使者一行が乗り込んでいき、すぐ出発となった。
ばいばーい、大きく手を振る。
うっかり公爵泣き過ぎだってば。
「り、リキニウスちゃん……」
「大丈夫だってば。ところでじっちゃんは、何時頃になればお屋敷に帰り着くのかな?」
側近の男が言う。
「馬車で来ておりますので、午後三時過ぎならばまず間違いなく到着しているかと」
「じゃ、夕方に連絡入れるね」
「よろしく頼むぞ! リキニウスちゃん……」
心配するなとゆーのに。
孫離れしろ。
「またあとでね」
転移の玉を起動し、一旦ホームへ。
特徴的な間の抜けた負力(笑)。
悪魔は負力に敏感だこと。