第1370話:皇女ルーネロッテ
「ひやあああああ!」
「あ、ごめんね。ちょっと愛情込めちゃった」
「愛情か。愛情ね?」
納得してるらしい。
実におもろいじっちゃんだなあ。
新聞記者トリオがネタ増えたみたいな顔してるわ。
主席執政官閣下が聞いてくる。
「むしろ何故、ユーラシア君はグレゴール殿と面識がなかったのかな?」
ドーラ総督が大貴族だってことは聞き知ってたけど。
存在感空気で全然話題にならなかったわ。
「えーと、前のドーラ総督はお飾りとゆーか仕事してないとゆーかごにょごにょ……下々の者が簡単に会える人じゃなかったよ」
「天下のカル帝国の公爵であるからな!」
今の在ドーラ大使は天下のカル帝国の皇子だけどな。
だから閣下よ、そーゆー話題を振ってくるな。
完全にうっかり公爵を笑うためだろ。
エンタメは好きだけど、あたしを狂言回しに使うな。
植民地大臣アデラちゃんが場を引き締めるように言う。
「本日お呼びしたのは、ラグランド植民地の蜂起の件です」
「ラグランドで蜂起があったことに関しては、新聞記事にしていいんだよね?」
「構わないよ」
よし、許可が出た。
新聞記者トリオが嬉しそうに頷いている。
うっかり公爵が言う。
「ラグランドで蜂起が起きたのか? ふむ?」
「リキニウス様に全権大使をお願いしたい、というのが、施政館の意向です」
「「「「「「えっ?」」」」」」
リ殿下メッチャ可愛いけど子供やん。
何ができるってゆーんだ。
うっかり公爵大喜び。
「リキニウスちゃんに相応しい大役だ!」
「高位の文官が補佐につくってこと?」
「ルキウスに補佐させる」
「えっ?」
プリンスルキウスは在ドーラ大使じゃん。
どゆこと?
閣下が説明してくれる。
「一日ルキウスを貸してくれ。ユーラシア君の転移があれば可能だろう?」
「そりゃまあ」
しまったな。
余裕を見せたつもりで以前、プリンスは忙しそうでもないって伝えたのが、こんな形で返ってくるとは。
しかもいい条件でラグランドと和解したとしても、所詮補佐だから功績が喧伝されない?
なるほど、閣下ったら面倒なことを考えたな。
でもあたしと連携が取れるプリンスなら、ラグランドとの交渉がうまくいく可能性が一番高いのも事実だし……。
アデラちゃんが言う。
「ルキウス様はアーベントロート公爵家のパウリーネ様と婚約されたとのことで、帝都に戻っていただく予定なのです。以前の次席執政官のポストを用意しております」
「在ドーラ大使はどうなるのかな?」
「当然任を解く」
「ええ? 相当優秀な人が後任じゃないと賛成できないんだけど?」
「ホルガーを予定している。ホルガーのラグランド総督としての任期がもうじきなんだ」
現地首脳の考えを受け入れて新統治体制になるであろうラグランドで、旧体制の象徴であるホルガーさんが総督留任ではよろしくない。
一方でドーラとしては、ホルガーさんの能力なら文句ない、ということか。
すげーうまいこと考えたなあ。
感心するわ。
まあプリンスをドーラに置いとくとどこまで化けるかわからない。
プリンスの実務能力を政権安定に使いたい、って考えが閣下にあるんだろうけど。
「ホルガーさんくれるならいいか。わかった。ドーラ行政府にはそう伝えとくね」
「よろしく頼むね」
プリンスルキウスには『威厳』がある。
基本的には帝都にいた方が、有力者や市民に影響を及ぼしやすいはず。
次期皇帝争いには有利だと思いたい。
「じゃーん! 今日最後のお楽しみでーす!」
「予の娘ルーネロッテか」
閣下の表情が緩む。
ははあ、相当溺愛してますね?
ルーネはパッと見ただけで存在感ある。
閣下の娘と言われて素直に納得できるポテンシャルだわ。
「何でこの場にいるのかな?」
「ラグランドへの使者に同行させるつもりだ」
「え? 本人は納得してるん?」
「ルーネロッテ本人の希望でもあるのだ」
閣下は感情を隠そうとしているが理由はわかる。
人質のつもりだろう。
使者が交渉中に艦隊を派遣し、ラグランドを怒らせリ殿下プリンスをもろともに始末することはない、という意思表示らしい。
あたしはそこまで考えてなかったけどな。
トラブル起きたら転移で逃げればいいんだし。
「ルーネは何でラグランドに行きたいの?」
「見聞を広めたくて。それにユーラシアさんと行動を共にしたいんです」
「殊勝な心がけだね」
「冒険者になりたいのです……」
頬を染めるルーネ。
何で帝国人のしかも皇女が冒険者希望なんだよ。
いや、リリーも冒険者だったわ。
閣下、娘がこんなこと言ってますよ?
閣下が聞いてくる。
「ユーラシア君、正直な意見を聞きたい。ルーネロッテはどうだ?」
「冒険者に向いてるか向いてないかで言えば、能力的には向いてると思う。ルーネ、これ触ってみてくれる? 掌でぺたっと」
「こうですか?」
ギルドカードを触らせる。
レベルは一。
しかし……。
「ステータスパラメーターが表示されるでしょ? 敏捷性と運以外は、あたしがレベル一の時より高い値だよ」
「ありがとうございます!」
喜ぶルーネ。
対して閣下の複雑な顔。
娘に危ないことして欲しくないんだろうなあ。
「しかし、ユーラシア君には固有能力があるだろう?」
「固有能力はあればあった方が有利だな。ちょっとルーネおいで。ぎゅー」
「えっ? えっ?」
「素晴らしい!」
ルーネをハグしただけだ。
うっかり公爵は何を喜んでるんだか。
「うん、いいだろ。ルーネに固有能力が発現しました」
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
皆さんビックリしとるわ。
「ユーラシア君は、固有能力を発現させるなんてことができるのかい?」
「いや、ルーネにたまたま発現しやすい固有能力の素因があって、一押しすればイケそーな感じだったの。あたしそーゆーのがある程度カンでわかるんだ」
「わ、私が固有能力持ちに?」
「サービスだぞ? 多分何かの魔法系固有能力だよ。でもあたし『鑑定』持ちじゃないから、詳細はわかんない。どこかで調べてもらって」
「ありがとうございます!」
閣下がさらに複雑そうな顔になった。
娘が有用な固有能力を得たのは嬉しいが、今後冒険者冒険者とうるさく言われるのは煩わしいんだろう。
ハハッ、悩んでてちょうだい。
ドーラからプリンスを引き抜く仕返しだぞ?
「じゃ、あたし帰るね」
新聞記者トリオを連れ、転移の玉を起動し一旦帰宅する。
ルーネは物語後半の裏主人公的存在になります。