第1337話:主席執政官閣下が不機嫌らしい
――――――――――二二二日目。
フイィィーンシュパパパッ。
皇宮にやって来た。
「こんにちはー」
「あっ、精霊使い君!」
「どうしたの?」
いつものサボリ土魔法使い近衛兵が焦ってる。
こんなサボリ君を見るのは、皇妃様呪殺未遂の時以来だな。
「ははあ、いつもサボってるのがバレて減給されるんだな? 御愁傷様とゆーか自業自得とゆーか」
「違うよ! 施政館から君に呼び出しがかかってるんだ」
「呼び出しか。よかった」
さらに慌てるサボリ君。
「よくないんだ。使いの文官によると、ドミティウス様の機嫌が見たことないほど悪いそうで」
「悪いものでも食べたんかな?」
「落ち着いてる場合じゃないよ!」
まーあたしに裏切られた気がしてるんだろうけど。
「いや、ちょっと事情があるの。閣下の機嫌が悪いところまでは想定内なんだ。会ってくれるなら問題ないんだよ。会えないと言い訳のしようがないじゃん?」
「そ、そうなのか?」
そーなんだよ。
とりあえず近衛兵詰め所へ。
◇
「「「ユーラシアさん!」」」
「あれえ? 記者さん達どうしたの?」
何故かいる新聞記者トリオ。
今日あたしが来ることは予想できないんじゃないの?
「昨日艦隊が帰還いたしましたので」
「これは何か動きがありそうだと思いました」
「カンがいいなあ」
人払いをしてもらい、近衛兵長さんと記者トリオに話す。
「ツェーザル中将が今日午前中に施政館に来て、主席執政官閣下に報告するんだよ」
「内容は当然ソロモコ遠征の首尾についてですな?」
「そうそう。だからあたしも施政館行くつもりでこっち来たんだ。呼び出しのあるなしに関係なく」
「我々もついて行ってよろしいでしょうか?」
「今日はダメだなー。もし記者さん達に知られたら、問答無用で処刑したくなっちゃうような秘密がボンボン出てくると思うんだ。こんなの取材しようなんて思ったら、命がいくつあっても足りない」
「「「……」」」
顔真っ青になってますけど、誇張でも何でもないですよ?
「もうソロモコ遠征の結果については、公式発表があったのかな?」
近衛兵長さんが重々しく言う。
「まだですな」
「内緒じゃないんだよね?」
「酒場に繰り出してた将兵の口は軽かったですよ」
「じゃあ報道したって構わないか。ソロモコでは戦いにならなかった。交渉の結果、一粒万倍珠、邪鬼王斑珠、雨紫陽花珠、鳳凰双眸珠、幽玄浮島珠の五つの高級魔宝玉を獲得し、和平が成立。双方ともに人的損害なし。記事にできそーなのはこの辺までかな。あとは軍人さんに取材して肉付けしてね」
「ありがとうございます。その魔宝玉というのは?」
「あたしが出した。大赤字だよ。まーでも何もなしで艦隊にお引き取りいただくわけにいかないじゃん?」
「えっ? 大変な価値ですよね?」
「まあね」
あんた達あたしが『ケーニッヒバウム』で鳳凰双眸珠売ったの見てるだろうが。
いや、あれだけじゃ魔宝玉ハンターの真の意味を理解できないか?
「高級魔宝玉は、人形系魔物でもランクの高いやつと、魔境中央部の最強魔物群がドロップするんだ。ドーラで言うとイビルドラゴン、リッチー、ダイダラボッチ、ウィッカーマンが代表的」
「錚々たる魔物ですね」
「うちのパーティーは、特に人形系魔物を狙って倒してたんだ。結果としてレベルが上がっちゃったの」
近衛兵長さんが感心したように言う。
「ドーラには狙って倒せるほど人形系魔物が多いですか。滅多に出現せぬものという認識がありましたが」
「たくさん人形系レアが出るエリアがあるんだよ。でもそこ最近、自爆する魔物が出るようになってすごく危なくなった。魔物図鑑にも載ってないやつ」
「自爆、ですか?」
「とんでもない威力なんだよね。ノーガードで食らうとレベル五〇ある前衛でもやられちゃう。後衛だとレベル七〇あっても危ないくらいの」
「「「ええっ?」」」
謎経験値君はマジでヤバい。
レベル六〇程度だったウシ子が、防御してたにも拘わらず岩に叩きつけられて気絶しちゃったほど。
おかげでパワーレベリングしづらくなったぞ?
「おまけに防御力無視でダメージ来るから、耐性や防御力上昇で対処しようったってムダなんだよね」
「とにかくガードするしか方法がない?」
「あたし達は人形系ハンターだから倒すよ? でも自爆人形系はクセ覚えるまでが大変だよ。自爆しない時は逃げちゃうから特殊な対策が必要だし。ムリして倒そうと思わない方が無難だね」
「それほどの魔物だと、相当すごいお宝をドロップしますか」
と思いたくなるだろうが。
「でもないんだな。一体倒すと黄珠、墨珠、藍珠、杳珠の四つを必ず落としていくよ。運がいいと透輝珠も」
「結構な収獲に思えますが」
「ドーラだと売値合計二〇〇〇~四〇〇〇ゴールドくらいだな。あんなヤバいの相手にして収入それだけじゃ、普通の冒険者は嫌になると思う。うちのパーティーは喜んで倒すけど」
「喜んで倒す理由は何です?」
「一体倒しただけで四、五個の魔宝玉を得られるというのは効率がいいから」
「「「?」」」
矛盾してるように聞こえるか。
「高級魔宝玉は国宝になっちゃうクラスだから、買い手があんまりいないんだよ。売ろうと思ったって売れるもんじゃないから、現金化しづらいの。たくさん売ったら価値が暴落しちゃうってこともある。さほど旨みがないじゃん?」
「なるほど? でも他の冒険者が市場に高級魔宝玉を流すことだって考えられますよね?」
「理屈としてはね。でもイビルドラゴン、リッチー、ダイダラボッチってドラゴンスレイヤーの倍くらいの実力がないと倒せないし、高級魔宝玉はレアドロップなんだ。ほとんど手に入らない。ウィッカーマン倒すのはさらに難易度高いよ。今のところうちのパーティー以外でやっつけたって話は聞いたことがない」
どこから魔宝玉の話になったんだろうな?
今日は施政館で言い訳するのがメインイベントなんだが。
「自慢話はまた今度聞かせてあげるよ。ツェーザル中将が施政館行くとすると、何時頃かな?」
「開館時の混雑を避けて、一〇時くらいじゃないでしょうか?」
「そろそろだな。昼過ぎに『ケーニッヒバウム』へ行く予定なんだ。記者さん達も行く?」
「「「行きます!」」」
「じゃ、あとで待ち合わせよう」
まず施政館へ行くべえ。
主席執政官閣下会ってくれるわ。
イベントの始まりだ。