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第1313話:『強奪』という固有能力

 ――――――――――二一九日目。


「……ユー様、ユー様。朝ですよ?」

「んー眠い……」

「眠いのはわかりますが、今日はラグランドへ行くのでしょう?」

「一つと言わず、三つ食べさせて……世界の食を征服するのだ……」

「早く起きないと朝御飯を食べ損ねますよ?」

「大変だ! 一食でも食べ損ねたら大損だ!」


 バッチリ目が覚めた。

 さすがはクララ。

 あたしの起こし方を熟知してるなあ。

 たわわ姫とは一味違うわ。


「皆、おっはよー」


 うちの子達とともに朝御飯をいただく。

 凄草のサラダは前菜でもデザートでもイケるなあ。

 どっちがいいんだろ?

 甲乙つけがたくて、未だに結論が出ない。


「姐御、飯食ったらすぐにラグランドでやすか?」

「いや、先にカトマス行ってくる。マルーのばっちゃんとこ」

「ワッツ?」

「昨日夢の中で女神様に会って、固有能力をもらったんだ。あたしがいい子だから御褒美だって」

「……ひょっとして強奪しませんでしたか?」

「クララは鋭いな。『強奪』ってやつなんだよね」


 一回だけ他人の固有能力を奪えるらしいのだ。

 ひどい能力があるなあ。


「欲深なボスにピッタリね」

「おいこら」


 何でも欲しがるユーちゃんなのは間違いないので、追及はしないけれども。


「マルーさんに『強奪』の詳しい仕様を聞いてくる」

「夢の中の女神、ですか……」

「前からたまに出てくるんだよ。あたしはたわわ姫って呼んでるけど」

「どんな女神か想像つきやしたぜ」

「たわわ姫はこの世界を管轄してるんだ。『アトラスの冒険者』は異世界のものだから、管轄する神様が違うんだって。たわわ姫としてはこの状態が面白くなかったみたい。あと数ヶ月で『アトラスの冒険者』はなくなる」

「「「!」」」


 驚くわな。

 ある程度の覚悟はできてたろうけど。


「姐御は夢を信じてるんでやすかい?」

「たわわ姫が実在するなら本当と考えるのが妥当でしょ。あたしの深層心理だとしたらカンみたいなもんだ。やっぱり信じざるを得ない」


 頷くうちの子達。


「『アトラスの冒険者』の廃止は決定ですか?」

「多分」

「ライフは変わるね?」

「いや、変わんない。あたし達にはヴィルがいるから、移動には困らないもん。ただ『アトラスの冒険者』はドーラの治安を受け持ってるじゃん? 早めにドワーフと仲良くなって、転移石碑と転移の玉を作ってもらわないと」


 相変わらずやることは多いなあ。


「ごちそーさまっ! じゃ、マルーさんとこ行ってくるね」


          ◇


「こんにちはー」

「ユーラシアさん、いらっしゃい」

「おやおや、アンタかい」


 カトマスのマルーさん家にやって来た。


「お土産のお肉と骨だよ」

「まあ。いつもありがとうございます」


 マルーさんがニコニコ顔で言う。


「すまないね。『オーランファーム』の息子も、あれから二度来たんだよ」

「ダンは案外マメだなあ」


 いい関係みたいだな。

 時間をかければもっと寄り添えると思うよ。

 でもダンもニルエも結婚が遅れそう。


「今日はどうしたんだい?」

「また固有能力が増えちゃったんだ。ばっちゃんに詳しいこと教えてもらおうかと思って」

「ん? ああ、『強奪』か。アンタは固有能力も素因も多いから、ゴチャゴチャしててわかりにくいねい」


 知らんがな。

 あたしのせいじゃないわ。


「夢の中で女神様に会ってさ。世界が繁栄するとボーナスもらえるんだって。で、あたしが大分貢献してるから、固有能力くれることになったんだ」

「そうかいそうかい」


 信じてないな?

 いや、あたしも一〇〇%信じてるわけじゃないけど。

 マルーさんが言う。


「『強奪』は自分で所持者であることが把握できる、数少ない固有能力だねい。アンタはどこまで理解してるんだい?」

「他人の固有能力を自分のものにできる、とだけ」

「正しいねい。自ら持つ素因に関係なく他人の固有能力を奪うことができ、そして『強奪』の能力は失われる。相手の固有能力を知っている時に、一度だけ使用することのできるレア固有能力だね」

「『強奪』もレアなのか」

「相手の素肌に触れていれば効果を発揮することができるよ。体幹に近いところからの方が抜き取りやすいと聞いたことがあるが、本当かどうかはわからないねい。不思議なことに生まれつきの『強奪』所持者はいなくて、皆あとから発現し、『強奪』持ちであることを自覚するんだと」

「へー。変わってるなー」


 マルーさんが感情を隠した顔で忠告してくれる。


「『強奪』持ちであることは、他人には言わない方がいい」

「うん、わかった」

「アンタはあまり拘りがないみたいだが、自分の固有能力には誇りを持っている者が多い。アンタが『強奪』持ちであることを知れば、忌避されることもあるだろうねい」


 あたしの目を見るマルーさん。


「『強奪』を使用した場合、固有能力を盗まれた側は誰が盗んだかわかるんだ」

「そーなの?」

「遺恨が残るんだよ。レアな固有能力の割に話題になることが多いのは、悲惨な前例に事欠かないからだねい」

「例えば?」


 王位を争う双子の王子が二人とも『強奪』持ちで、ともに家臣から固有能力を奪ったが恨まれて殺された。

 虐げられた奴隷に『強奪』が発現、主人の『威厳』を奪って逃走したため主人が身投げした。

 商売の成功を夢見て『道具屋の目』を盗んだ少年が、両眼を潰される刑に処せられた……。

 ニルエ声も出ないじゃん。


「悲惨な例ばっかり。夢も希望もないんだねえ」

「祖父の死に目にギリギリ間に合い、固有能力を継いでめでたし、みたいないい話もあるんだよ」


 なるほど、固有能力を譲りたいケースがなくもないのか。

 もっとも滅多にないことなんじゃないかなあ。


「アンタが『強奪』を得たということは、必ず使用する機会が訪れるんだろう。どういう状況なのか想像できないが……」

「わかった。気をつける」

「まあアンタは賢いから、アタシも心配してるわけではないけれども」

「何となくノリと勢いで使っちゃいそうだったけど、ちょっと考えてからにする」

「うんと考えてからにしな!」


 大丈夫だとゆーのに。

 ただ必ず『強奪』を使用する時が訪れるというマルーさんの指摘は、何となく納得できる。

 あたしもそんな気がするからだ。


「ばっちゃん、ありがとう。今日は帰るね」

「心配だよ!」

「ユーラシアさん、さようなら」


 転移の玉を起動し帰宅する。

元々はユーラシアが固有能力を奪われるエピソードで登場させようと思っていた『強奪』。

成長し過ぎて隙がなくなってしまったので、ユーラシア自身を『強奪』の使い手にしました(笑)。

『……ひょっとして強奪しませんでしたか?』というクララのセリフは第2話にもあります。

繰り返しのギャグってやつです(笑)。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぱっと思いつくだけでも3つくらい、ゲームチェンジャーになれるやべぇ強奪相手がいますねぇw まあ、すでにとっくの昔にゲームチェンジャーなんですが
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