第1288話:あたしも限界だわ!
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
「今日はいくつか面白いことがわかったよ」
『宮廷魔道士マーク氏からの情報かい?』
「いや、違くて」
今日はマーク君のことがメインイベントだな。
かけた時間的には。
サイナスさんも聞きたいみたいだから先話しとくか。
「マーク君とソロモコ行ってきたよ。住民には帝国海軍が三日後に来るけど、救世主と神の使いが追っ払うから平気だぞって伝えた」
『コモンズが通じないのに、毎度伝達方法がミステリーなんだが』
「マーク君も同じこと言ってたな。そーいやうちの子達やフクちゃんも変だみたいな態度だったぞ?」
『誰が見てもミステリーだからだろ』
まーどうでもいい。
伝わるか伝わらないかが重要なのだ。
方法なんてのは枝葉のこと。
「ソロモコにお肉一杯持ってって、お昼に食べた。潮風に吹かれ、大勢で食べるお肉は最高だね」
『どうでもいい報告なんだが』
「あたしらのお面は口のところが開いてるじゃん? マーク君が持ってきたのは頭からスポッと被るタイプでさ。ソロモコの気候ではちょっと暑いみたい。お肉も食べづらそうだった」
『どうでもいい報告なんだが』
ハハッ、どうでもいい話は心の余裕。
「今日マーク君、パワーカード一杯買ってったよ。塔の村のコルム兄のところで」
『もう武器所持の許可取ったのか?』
「昨日レベル上げしたじゃん? レベルの高い魔道士って戦力的に貴重だから、許可もすぐ下りるみたい」
帝国の事情はともかく、ドーラが儲かるのはいいことだ。
『やはり魔道士にとってパワーカードは興味ある対象ということか?』
「あたしも最初そう思ってたけど、マーク君の場合は単なるコレクション趣味かもしれないな」
『ふうん。実用的なことは間違いないから、ムダにはならないだろう?』
「まあね」
『遊歩』なんかマジで便利だしな。
マーク青年にもとゆーか、帝国の宮廷魔道士が研究して新しいパワーカードを開発してくれてもいい。
でも原則的に武器所持禁止の帝国じゃ、隠匿性の高いパワーカードは流行らないって気もする。
宮廷魔道士の研究も職人チックなことじゃないのかもしれないし。
残念だけど。
『面白いことがわかったというのは?』
「現在一般に知られている『永久鉱山』は塔の村にあるやつだけじゃん? ところがもっとあちこちにあってもおかしくないって。これは『全てを知る者』アリスが言ってた」
『ほう? 有益な情報だな。発見されているわけじゃないんだろう?』
「うん。でも魔力の大循環ていう考え方があってさ。魔力を集めてるのが魔境、集めた魔力を放出してるのが『永久鉱山』なんだって。知られている限り、魔境で吸ってる魔力量の方が『永久鉱山』で放出してる量よりも多いから、『永久鉱山』がもっとないと計算が合わないってことみたい」
『確かに学術的には面白いな。しかし……』
「すぐにどうにか、ってことではないねえ」
例えば帝国が広域で魔力の放出を感知するレーダーみたいなものを開発してくれれば、新しい『永久鉱山』を発見できるかもしれない。
でもレア素材や一部の生物系素材以外は、今でも大して高価なものじゃないのだ。
生物系素材は取れる場所じゃなくて人員の方がネックなんだし。
マジレアな素材はどうやったってマジレアだし。
『需要が増えなきゃ空論だな』
「何より大事なのは人口だね。産めよ増やせよ血の道よ」
『最後で人口減ってる』
アハハと笑い合う、この不謹慎さが好き。
世界の人口を増やそうプロジェクト、食糧の増産と技術の進歩だな。
世界の首脳と話し合える場が作れればいいんだけど。
『また君が大それたことを考えてる気がする』
「カンがいいね。聖女らしいことを考えてたんだよ」
ってのは置いといて、本日のあたし的メインイベント。
「『アトラスの冒険者』って、赤眼族を監視するために設けられたんだって。で、塔の村の精霊使いエルもまた赤眼族と同じ、向こうの世界の旧王族。エルは向こうの世界から追われてて、追っかけてるのがエルの母ちゃん。エルの母ちゃんは『アトラスの冒険者』事業の所長だった」
『ええ? 情報量が多い。というか秘密だったんじゃないか? 今の』
「あたしも限界だわ! あたしんとこばっかり内緒話が集まってきて吐き出せないのは苦痛で仕方ない!」
『さっきの魔力を吸収して放出するみたいな話だな』
「あ、本当だ」
サイナスさんが整理しながら言う。
『つまり精霊使いエルの父方が旧王族に連なる者ということだな?』
「みたいだね。向こうの世界は政治と宗教がくっついてて、修道士修道女って言われてる人達は要するに公務員なんだ」
『ということは旧王族は?』
「政治的だけじゃなくて宗教的にも反する存在だから、徹底的に排斥されるんじゃないかな。でも旧王族派も根強いみたいで、そんなところに旧王族の血を引く美少女エルが現れると、社会が混乱してヤベーってことなんだと思う」
『かなり推測も入ってるんだな?』
「うん。今持ってる情報で辻褄合わせるとそーかな? ってくらい。エルの母ちゃんが『アトラスの冒険者』のトップでエルの行方を追ってるってところと、『アトラスの冒険者』が赤眼族監視のために作られたってとこ、向こうの世界が政治宗教の融合した統治方式を取ってるってのは事実」
正直情報に虫食いが多いので、穴埋めが大胆過ぎるとは思う。
でも大筋間違っていないのではないか?
ただ肝心の赤眼天使の思惑がまだ知れない。
敵になるのか共闘できるのかすらわからん。
もう一度会えれば輪郭が見えてくるはずだ。
赤眼天使の持つ固有能力『ダウト』は危険だが、ネタは割れた。
向こうに質問させず、こっちから聞く展開ならさほど問題はない。
『エンジェルさんは逃げた精霊使いの関係者』という、バエちゃんに話したトラップ。
あれに引っかかってくれれば必ずあたしに会いたがる。
「言いたいだけ言ったら眠くなった」
『相変わらず勝手だなあ。それは長所じゃないからな?』
「先に言われちゃったよ。明日灰の民の村に行くね」
『スクロール紙についてだな?』
「うん。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はカラーズ。
コモンズでないと言っても、おにくびみらーはどこでも通用しそう。




