第1262話:ハヤテもお供に
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
「お姉さま、お待ちしておりました!」
魔境にやって来た。
やる気に満ちているエルマがドラゴンに初挑戦するというので、見届け人になるためだ。
既にエルマはスタンバイしていたが。
「遅くなってごめんね。この子も連れてきたんだ」
砂色で羽持ちの精霊を紹介する。
オニオンさんはその精霊が何者か気付いたようだ。
「以前の迷子の精霊ですよね?」
「そうそう。疾風の精霊ハヤテだよ。緑の民の村の『精霊の森』に住んでるんだ」
「えっ? そうなのですか?」
『精霊の森』に食獣植物が現われた際に、驚いて魔境にランダム転移してしまったらしいことを説明する。
アレク及びケスにハヤテのレベリングを頼まれているのだ。
三人で冒険者活動をしているのだが、ハヤテのレベルが低いから支障があるんだよな。
「……で、今は灰の民の村にしょっちゅう遊びに来るんだ」
「無事でよかったですよ」
「わたしにも縁のある精霊さんだったんですねえ」
「精霊だからエルマにはあんまり関わんないだろうけど、こういう子がいることは知っといてね」
「はい」
うんうん、縁なんてどこにあるかわからないからね。
「ハヤテは二人の『精霊の友』とパーティーを組んで、塔の村で冒険者やってるんだ。でもその二人とレベル差があってうまくないから、三〇くらいまでレべリングしてくれって頼まれてさ。今度ドーラでスキルスクロールを量産したいんで、それへの協力と引き換えに引き受けた」
「本当にいろんなことをやってらっしゃる」
様々なことに首を突っ込めるのは楽しい。
見たところハヤテは中級冒険者に足を突っ込みかけってところだ。
レベルアップの早い『早熟』の固有能力持ちではあるし、『豊穣祈念』かければすぐにレベル三〇いきそう。
オニオンさんが言う。
「エルマさんがドラゴンに挑戦という話でしたが」
「そーなんだよ。アイスドラゴンに挑むみたいだよ。エルマのパワーカードの編成はどんな感じなの? オニオンさんにも相談したかったんだ」
「ワタクシも知りたいですねえ」
オニオンさんもパワーカード好きだよな。
何々?
『ドラゴンキラー』『風林火山』『ファイアーフォース』『ハードボード』『武神の守護』×二『氷の護り』か。
アイスドラゴンはおかしな状態異常攻撃を持っていないから、『武神の守護』のヒットポイント自動回復を重視するのはよさそう。
これでも勝てるだろうけど……。
「オニオンさん。武器の属性が複数ついてる時、ダメージってより効果的な方が適用されるんだよね?」
「はい、その通りです。『ドラゴンキラー』の【対竜】と『ファイアーフォース』の【火】ならば、【対竜】の方が有効です」
「そうだったんですか……」
「でも攻撃力補正は『ファイアーフォース』の方が大きいよ。加えてエルマは『火の連続衝』か『風の連続衝』がメイン火力でしょ? 射程長いスキルだし武器の属性も乗らないから、『ドラゴンキラー』必要なくない?」
「対象をアイスドラゴンと決めているなら、『火の連続衝』の方が与えるダメージは大きいですね。しかしどうでしょうか? エルマさんは回復手段に『ドレインアタック』を考えておられるようです。『ドレインアタック』というスキル自体の射程は長くないので、射程を伸ばすパワーカードがないと危険ですよ」
「あ、そーか。じゃあ『ドラゴンキラー』か『スナイプ』のどっちかは必要だな。『風林火山』はどうなんだろ?」
「マジックポイント自動回復ですか? 迂遠でしょう。マジックウォーターで一気に回復するのがいいと思います」
エルマが目を丸くしている。
「知らないことが多いです。自分の持ちスキルなのに……」
「スキルの特性は難しいですよね」
「『初心者の館』で聞くか、オニオンさんに教わるといいよ」
「ワタクシも『勇者の旋律』が人形系魔物に有効ということは、ユーラシアさんに伺うまで知りませんでしたよ」
「エルマは人形系レア対策に『ストライク五〇』があるから、人形系狩り目的で『勇者の旋律』使うことはないんだよなー」
スキルって案外奥が深い。
スキルを作った人の意向があるだろうし、全く意図していない効果が付属しちゃう場合もありそう。
まあエルマは基本ソロなので、味方全員の攻撃ダメージを上げるスキルである『勇者の旋律』を使う機会はほとんどないと思われる。
「エルマにこれ貸したげる」
「パワーカードですか?」
『暴虐海王』。
攻撃力・防御力・魔法力・魔法防御・敏捷性弱体を付与するパワーカードだ。
「『風林火山』の代わりに装備してね」
「エルマさんの習得している単体攻撃スキルですと、『強撃』か『閃光撃』でしたら装備品の弱体化特性を乗せられますよ」
「初っ端に弱体化できたら、比較的楽に戦えると思う」
オニオンさんが聞いてくる。
「『暴虐海王』は随分強烈なカードですね。ユーラシアさん、『暴虐海王』がヒットした時の弱体化有効は何ターンですか?」
「あ、わかんない」
効果が切れるまで戦ってたことないな?
初めてレッドドラゴンと戦った時、確か五ターンで倒したから、それ以上か。
「五ターンですよ」
「エルマはよく勉強してて偉いな」
「とても偉いぬ!」
よしよし、ヴィルをぎゅっとしてやる。
『暴虐海王』は超レア素材『大王結石』によって実現したパワーカードだ。
『大王結石』を手に入れることがほぼ不可能に近いので、今後他の冒険者が手にする機会もないんじゃないかと思われる。
でもアルアさんはどういうわけかこのカードをレギュラー化して、交換レート表の中に入れているんだよな。
おそらくアルアさんの自信作であり、パワーカード使用者に欲しいと思わせるカードだからだろう。
あれ、ハヤテも興味あるみたいだな?
『暴虐海王』は格上の魔物とも戦えるようになるすごいパワーカードだからね。
アルアさんを紹介してやってもいいが、精霊の友以外だとまともに喋れないんだろうし、コルム兄で我慢しなよ。
もし『大王結石』を手に入れるようなことがあったら、アルアさんに口を利いてやるから。
「じゃ、行こうか」
「行ってらっしゃいませ」
「行ってくるぬ!」
ユーラシア隊及び悪魔妹分精霊のトリオ出撃。
ソロでドラゴンを倒すなら、レベル七〇は欲しい。
でもエルマは『大器晩成』のおかげで十分なスキルを持ってるし、ステータスパラメーターの伸びもいい。
『暴虐海王』を装備してれば、レベル六二でもそう不安なく勝てるはず。