第1254話:あたしを信じろ
「魔王の配下は優秀だなー。自分じゃ食べないのに美味いお肉を知ってるとは」
キメラのお肉は軽い食感でなかなかイケる。
マンティコアもだけど、見た目肉食っぽい魔獣でも美味いやつはいるなあ。
……優秀だって褒められた魔王配下の高位魔族達が嬉しそうだ。
どの子とも仲良くできるんじゃないかな。
魔王が話しかけてくる。
「友ユーラシアよ」
「何だろ?」
「今日は近頃の憂いが晴れたいい日だ。友ソールには礼として魔王のスキルを教授することにしている。そなたにも礼がしたいのだ」
「たくさん素材もらったし、おいしいお肉食べさせてもらったからいいんだぞ?」
「魔王が心苦しいのだ」
魔王自身はフェアな取り引きじゃないと感じてるんだろうか?
案外義理堅いな。
あたしとしてはおもろいイベントに参加させてもらったし、魔王とも知り合えたから、十分元は取れているんだが。
「確認になるけど、ウシ子は許してやっておくれよ。あの子はあの子で頑張ってるんだ。応援してやりたいじゃん?」
「ザガムムについてはもう認めたことだ。魔王バビロンの名と存在にかけて誓う」
「ありがとう!」
ウシ子は冒険者活動の方でも働いてくれるはずだ。
塔の村の重要な戦力になる。
「その他は?」
「えっ? じゃあ時々魔王島に遊びに来ていいかな? キメラがこんなにおいしいと、魔物狩りたくなるかもしれない」
「願ってもないことだ。じゃんじゃん狩ってくれ」
これも通ったぞ?
あんまナワバリ意識とかないのかな?
キメラはいろんな素材も取れるみたいだし、ありがたいわ。
「その他は?」
「もう十分だけど」
「全く礼になってないだろう。魔王が落ち着かないのだ」
「そお?」
そこまで言うなら。
でもこれ重い条件だからなー。
「……じゃあ、魔王と魔王の部下。魔王島に関わらないところで人間と敵対するのやめてくれる?」
「それだけでは約束できんな。詳しく話してくれ」
「来月三日にカル帝国の艦隊が出撃するんだ。ソロモコの征服が目的」
「何だと!」
激怒する魔王。
やはりフクちゃんは魔王に報告していなかったか。
ソル君パーティーも言っちゃうんですかって顔してるし。
「人間は魔王の敵か!」
「違うってば。普通の人間はソロモコで尊敬の感情を集めて魔王に送ってるなんて知らないもん」
「……ん? 何故友ユーラシアは知っているのだ?」
「フクちゃんことゾラスに聞いたんだ。全部話すから、ちょっと落ち着きなさい」
「うむ」
あんだけ猛っててすぐ沈静化するのな。
シンプルとゆーか適応力があるとゆーか。
「まず帝国は軍事的成功が欲しいっていう理由があって、手頃な侵略先を探してたんだ。ソロモコが標的になったのは偶然の要素が大きい。魔王が関わってるって知ってたら、手を出さなかったと思うよ」
「うむ」
「『アトラスの冒険者』の仕組みについてはソル君に聞いてるかな? ソル君が魔王助けろってクエストもらったのと同じように、あたしんところにはソロモコ何とかしろってクエストが来てるんだ」
「うむ、しかしゾラスは何をしているのだ! 魔王に報告するのが筋ではないか!」
「どうしてフクちゃんが何も言ってこないんだと思う?」
「えっ?」
仮にも魔王ならビックリした顔晒すんじゃねー。
「必要ないと考えてるからだよ。とゆーか、この件で魔王が手出ししても混乱するだけだと考えてるんだと思う」
「魔王が手出しすると混乱?」
「うん。帝国海軍がソロモコに攻めてきました。魔王だったらどうする?」
「当然迎撃する」
「でしょ? フクちゃんも魔王が打って出ることがわかってたんで報告しないんだよ。ソロモコが戦場になると、尊敬の感情を集めるシステムは壊れる。帝国軍と魔王の戦いを止められないんじゃ、神様の権威がなくなっちゃうもん。魔王は困るでしょ?」
「困る」
眉を寄せて呻く魔王。
顔を上げて問うてくる。
「じゃあどうすればいいのだ!」
「だからあたしに任せておきなって。ソロモコであたしは救世主、フクちゃんは神の使いってことになってるんだ。ソロモコを戦渦に巻き込まず、うまいこと帝国艦隊にお帰りいただけば、より尊敬されちゃうってことだよ」
考え込む魔王。
「……戦争にすることなく、帝国艦隊を追い返せれば……」
「今のまま、尊敬の感情を集めることができる。魔王にとっては最高」
「可能なのか?」
「これまた偶然なんだけど、ソロモコに攻めてくる艦隊司令官に会うことができたんだ。話のわかる人だから、十中八九言い聞かせることはできるな」
人魔大戦になったらどえらい迷惑だわ。
魔王の参戦は止めねば。
「フクちゃんは今の体制を守りたい。だからあたしに賭けたんだよ。魔王に知らせなかったことは、あたしも間違いだと思わないから、フクちゃんを責めないでね」
「……」
「ちなみにこの件についてはソル君もある程度知ってるんだ。でも魔王には何も言ってないでしょ? 言うと却ってまずいことになると思ってるからだぞ?」
「そうなのか? 友ソールよ」
「ああ」
あっさり肯定するソル君パーティー。
「……おかしいではないか。では何故友ユーラシアは魔王に暴露するのだ」
「今日のブラックデモンズドラゴン退治で、あたしの力を見せたからだよ」
「わからん。どういうことだ?」
「ソロモコが攻められます。どこの誰やらわからん人が任せろと言ってるみたいです。任せられる?」
「……どこの誰やらは信用できなくても、友ユーラシアならば信用できるということか」
「そゆこと。あたしを信じろ」
今までは魔王に内緒にできていても、どんなタイミングでバレて飛び入りされるかわからん。
可能ならば魔王にキッチリ言い聞かせて、波乱要因はなくしておくべきなのだ。
「よくわかった。友ユーラシアを信じる。魔王と魔王の部下、魔王島に関わらないところで人間と敵対することはしない。魔王バビロンの名と存在にかけて誓う」
「うん、ありがとう」
これで魔王サイドから不測の事態が起きることはない。
大分やりやすくなったぞ。
「ごちそーさま。じゃ、あたし達は帰るね」
「うむ、また来てくれ。それからヴィルよ」
「何かぬ?」
「いい御主人だな」
「最高の御主人なんだぬ!」
「ヴィルはいい子だな。ぎゅー」
「ふおおおおおおおおお?」
よしよし、いい子だね。
転移の玉を起動して帰宅する。
あんまり信用されないけど、あたしは慎重派なのだ。
ソロモコに魔王がしゃしゃり出てくる危険を排除した。
上出来。