第1253話:こうも呆気なく……
「あたしは自分のレベル以下の魔物なら一撃でやっつけられるスキルを持っているんだよ」
「いや、しかしブラックデモンズドラゴンは、レベルがカンストしているんだろう?」
「以前ブラックデモンズドラゴンは、レベルが一二〇カンストだと聞いたことがあるな。あたしのレベル今一三〇だから、情報が正確ならば一ターンで倒せる」
「おお!」
ハハッ、魔王含む悪魔達が感動してる。
全員なりがちっちゃいし、実に可愛いな。
「ただし溜め技なんだ。一ターン何とかしてやり過ごす術が必要だぞ? どうにかなんない?」
「通常攻撃は集中するわけじゃないですから、問題は全体攻撃の『闇のブレス』を連打される可能性ですよね?」
「うん。『闇のブレス』五発はキツ過ぎる」
実際に食らったことはないけど、災害級ドラゴンだもんなあ。
存在感からして威力は推して知るべし。
「魔王が『マナの帳』を使えるぞ。闇耐性五〇%を付与できる」
「おおう、魔王やるっ!」
サフランが西アルハーン平原掃討戦のボス戦で使ってくれた支援魔法か。
魔法防御上昇効果もあったはずだから、『闇のブレス』の威力を半分以下に落とせる。
『闇払い』のパワーカードの闇耐性と合わせれば十分勝てる!
「しかし魔王の敏捷性はブラックデモンズドラゴン以下なのだ。先手が取れぬ」
「ダメじゃん」
「いや、オレのスキル『天上の高揚』でカバーできると思います」
「どんなやつ?」
非戦闘時に使って、次の戦闘の味方全員の攻撃力・防御力・魔法力・魔法防御・敏捷性を上げる魔法だそうな。
アトムの『スターアライズ』に似ているが、前もって準備して戦いに臨めるのは強くない?
ソル君も『スキルハッカー』らしいスキルを覚えてるなあ。
「イケそーだな。魔王、これ装備して」
「うむ?」
『闇払い』と、敏捷性アップを期待して『プチエンジェル』『鷹の目』のパワーカードを渡す。
あたしは『スナイプ』『暴虐海王』『スコルピオ』『風林火山』を外し、『闇払い』『エルフのマント』『誰も寝てはならぬ』『ハードボード』を装備。
アトムもまた攻撃系二枚を外し『闇払い』『誰も寝てはならぬ』を装備する。
『誰も寝てはならぬ』には防御力もだが、最大ヒットポイント増強効果を期待している。
もちろんクララとダンテも『闇払い』と。
「魔王とあたし以外は全員防御で。魔王は直接攻撃食らうと危ないから、最後衛で『マナの帳』を唱えてね。あたしの『雑魚は往ね』で倒せない場合は、クララの『煙玉』で離脱して逃げるよ」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
「ヴィルは戦闘に参加しないでいいから、あたし達が逃げなきゃいけなくなったら、上空からドラゴンを挑発して気を引いて。いいかな?」
「了解だぬ!」
「魔王の部下達はどうすればよい?」
「戦闘に加わったら死んじゃうぞ? 祝勝会の準備でもしててよ」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
「よーし、リフレッシュ!」
「天上の高揚!」
クララの高速『フライ』でびゅーんと魔王島中央部へ。
◇
「なるほど、これは分断するのムリだ」
ブラックデモンズドラゴンのいる台地はほぼ円形で、ドラゴン達は隅で一塊になっている。
「台地自体が広くないですしね」
「魔力濃度の高いところに住んでる魔物って何食べてるんだろ?」
魔境でもドラゴンや高級巨人、中央部の最強魔物群なんかは、あの身体を維持するだけの何かを食べてる気がしない。
魔力濃度が高ければ生きていけるんだろうな。
「よし、クララ、降ろしてくれる?」
「はい」
うむ、やはり正面から倒すのが一番よさそう。
「手筈通りにいくよ」
ヴィルは上空で待機し、あたし達はゆっくりブラックデモンズドラゴンに近付く。
あたし達を威嚇する程度が強まる。
ドラゴンはケンカっ早いから、この辺まで寄ると戦闘は避けられない。
「……プレッシャーありますね」
「それより結構素材が落ちてるよ。誰も来ないせいかな。あとで拾おう」
「ユーラシアさんは余裕ありますねえ」
レッツファイッ!
ブラックデモンズドラゴンAの爪攻撃! アトムが受ける。思ったより素早いな。ブラックデモンズドラゴンBの闇のブレス! 全員がかなりのダメージを受ける。魔王のマナの帳! よーし、間に合った! これで『闇のブレス』を軽減できる。ブラックデモンズドラゴンCの闇のブレス! これくらいのダメージなら問題ない。ブラックデモンズドラゴンDの爪攻撃! ソル君が受ける。ブラックデモンズドラゴンEの闇のブレス!
「いくぞお! 雑魚は往ねっ!」
「おおおおお?」
バタバタ倒れるブラックデモンズドラゴンを、信じられないことのように見つめる魔王。
やったぜウィーウィン!
「……あのブラックデモンズドラゴンがこうも呆気なく……」
「こら魔王! ボケッとしてるんじゃないよ。『逆鱗』を毟るまでがドラゴン退治だぞ?」
「ユーラシアさん、魔宝玉が落ちてますよ」
「本当だ。燿竜珠二個か。残念ながらレアドロップじゃないけど、欲張れる場面じゃなかったからしょうがないしな」
ダンテに『豊穣祈念』かけさせる余裕はさすがになかった。
「じゃ、素材拾って帰ろうか」
ん、クララ何?
「ねえ魔王。ここに世界樹を植えとけば、ブラックデモンズドラゴンが湧くほど魔力濃度上がらないんじゃないかって、うちの子が言ってるよ。どうする?」
確かに魔境世界樹エリアは、トレーニングエリア中央部ほど強い魔物はいない。
出現する魔物の強さをコントロールできる可能性は十分ある。
「そのようなことができるのか?」
「あたしとしては、時々ブラックデモンズドラゴン倒す方が儲かるような気がするけど」
「世界樹! 世界樹にする!」
「そお? じゃヴィルよろしく」
「わかったぬ!」
魔境世界樹エリアとの往復で、淘汰されそうな世界樹候補の苗を三本持ってきて植えた。
このトネリコの変種は魔力を吸って成長するから、今後は心配あるまい。
魔力放出口の方はどうなってるかわからんけど、どうせ下手に弄れない。
あらかた素材を回収した頃、魔王が言う。
「友ソール、ユーラシア、感謝する」
「あたしも友ユーラシアにしてよ」
「うむ。友ユーラシアよ」
「うあーキュンキュンするわー」
「キュンキュンするぬ!」
大笑い。
さて、祝勝会だなー。
クララの高速『フライ』で魔王の館に戻る。
呆気なさ過ぎるって?
真の無双とはこーゆーもんだ。
注:何故『リフレッシュ』をかけているのかとの指摘がありました。
『誰も寝てはならぬ』を装備して最大マジックポイントが増えたため、満タンまで回復しておく意図です。




