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第1232話:ツェーザル中将

「こんにちはー。美少女冒険者ユーラシア他一名がやって来ましたよ。主席執政官閣下に知らせたい、割と重要めの情報がありまーす」

「重要めの情報? 他一名って……う、ウルピウス殿下? 少々お待ちを!」


 施政館受付のお姉さんが混乱しとるわ。

 慌てて連絡を取りにいった。

 転ばないようにね。

 ウ殿下が言う。


「美少女精霊使いという口上ではないのか?」

「帝国の人は、あたしが精霊使いだっていうイメージがあんまりないかなと思って。帝都では美少女冒険者って名乗ることにしてるの」

「知られていないことはないぞ? ヤマタノオロチ討伐の際に精霊連れであったであろう? かなり報道されて、有名になっているからな」

「そーなの? じゃあこれからウルトラチャーミングビューティーって名乗ろ」

「精霊使いはどこへ消えたのだ」


 殿下と掛け合いをしてる内にお姉さんが戻ってきた。


「お会いになるそうです。こちらへどうぞ。御案内いたします」


 執政官室へ。


          ◇


「こんにちはー」


 部屋の中には二人の男がいる。

 一人は茶髪ロングの主席執政官第二皇子だ。

 そしてもう一人は?

 青を基調とした騎士と違い、緑の制服を着ている。

 軍人さんだな。


「やあ、ユーラシア君、ウルピウス。いらっしゃい。こちらが……」

「ひょっとしてツェーザル・フィッシャー中将?」


 とってもデカい。

 黄の民の眼帯男とタメ張るサイズだ。

 四角い顔に濃い茶髪、口回りをぐるっと覆う髪と同色のヒゲ。

 眼光は鋭いが、どこか好奇心を湛えた目が印象的だ。


「ほう、知っていたか」

「ガハハ、我が名はドーラにまで轟いているか」

「だってドーラ独立の時、全権を委任されて交渉に当たった軍人さんでしょ?」


 いかにも豪快な笑い声だ。

 確かに軍人っぽいが、油断のない視線は相当な人物であることを示している。


「クリークさんが言ってたんだ。計算のできる緻密な頭脳を持った猛将だって」

「おう、クリーク少将か。ん? クリーク少将?」

「クリークさん、今ドーラにいるんだよ。在ドーラ大使プリンスルキウスの下で働いてもらってるの」

「なるほど、ドーラに渡ったとはな。軍を辞めたところまでは知っていたが、海外に新天地を求める構想があったのか」

「ドーラには使える人材が少ないからありがたいの」

「少将は切れる男だ。ドーラはいい人材を得たな。ウルピウス様もお久しぶりです」

「うむ、中将の覇気のある声を聞くと安心するぞ」

「ガハハ、ありがとうございます。それにしても……」


 無遠慮な目であたしを眺めまわすのやめろ。


「ふむう。これがヤマタノオロチを倒したドーラの冒険者ユーラシアか。噂以上だな」

「噂以上に可愛いって? まいったなー」

「君達、性格似てるんじゃないか?」


 アハハと笑い合う。

 ……中将はウ殿下のレベルが上がってることにも気付いたみたいだが、特に何も言わないな。

 余計な情報を第二皇子に与えないためだろう。

 中将は政治家との繋がりは薄いって、クリークさんも言ってたし、次期皇帝レースにも口を出すつもりはないと見た。


「ユーラシア君、ツェーザル中将をどう思う?」

「偏らない男だねえ。こういう人は信頼できるよ」

「うむ、そうだな」


 いや、本音だぞ?

 ウ殿下と中将ビックリしてるけど、ドーラにぜひ欲しいわ。


「予に知らせたい情報があるとのことだが」

「殿下は話題の転換が急だなあ。あれ? 今殿下が二人いるのか。ややこしいな」


 やっぱ第二皇子は閣下って呼ぶのが正解だな。

 中将が言う。


「俺は席を外した方がいいか?」

「いや、中将にも関係しそうなことなんだ。聞いてくれる?」


 中将と視線を合わせる。

 厄介な話を始めるんじゃないかと警戒してるみたい。

 政治的な話でも皇位継承に関する話でもないから、安心しててよ。

 あたしは無謀なことは考えないから、中将を巻き込んだりしないって。

 ただし閣下はどう考えてるか知らん。


「ラグランドが税金高いぞーって蜂起するって。来月の半ば」


 執政官室に緊張が走る。


「……ラグランドか。いつ反乱がおきてもおかしくない植民地ではある」

「ユーラシア君。話の確度はどの程度だ? 情報源は?」

「間違いないと思ってもらっていいよ。情報源はちょっと勘弁して。『アトラスの冒険者』関係とだけ」

「ふむう、ドーラの秘密の諜報機関があるのだな?」

「まあそんなとこ」


 さすがに『全てを知る者』アリスについては話せない。

 飛空艇のことを知ってたくらいだ。

 『アトラスの冒険者』でラグランドの情報も何かの拍子に入手できたのだろう、って思ってくれるといいな。


「しかし、来月半ばか……」


 わかる、悩みどころだろう。

 深刻な表情になる第二皇子閣下と中将。

 ウ殿下が不思議そうに言う。


「兄上、考えねばならんことなのか? 蜂起が起きたなら、艦隊を送って叩き潰せばよいではないか」


 閣下と中将が深刻な表情になるになるのは、ソロモコ遠征と時期が被ってるからなんだよ。

 言わないけど。


「戦争はおゼゼ損するばかりだぞ? 起きない方がいいに決まってる」

「ふむ、ユーラシアの言う通りか」


 中将が微かに頷く。

 ……クリークさんはソロモコ遠征について、ドーラ戦の再戦の意味合いが強いならツェーザル中将が起用されるはずと話していた。

 でもおそらく中将自身は、ソロモコ遠征に乗り気でないんじゃないかという気がする。

 部下はどうだかわからんけど。

 そして主席執政官閣下は、中将が物事を俯瞰で眺められる指揮官だからこそ信頼してるんじゃないか?


「ツェーザル中将」

「はっ!」


 閣下の凛とした声が響く。


「計画に変更はない。貴官は貴官の職務を全うせよ」

「了解。失礼いたします」


 ラグランドがどうなろうと、ソロモコ遠征に変更はないということか。

 まあこんなことで遠征が中止になるとは思っていなかった。


 中将が敬礼をして執政官室を退出する。

 立派な軍人だ。

 自分の思想がどうあれ、命令は忠実に実行するだろう。

 つまりソロモコで確実にあたしと相対することになる。


 ウ殿下が声をかけてくる。


「どうしたユーラシア。ツェーザル中将を見つめて。気になるのか?」

「うん。何食べてるとあんなにでっかくなるのかなーと思って」

「ハハハ、昼食を御馳走しよう。施政館の食事はおいしいって評判なんだよ。すぐ用意させるから待っててね」

「やたっ! 閣下ありがとう!」

ソロモコ遠征は予定通り行われると思っていい。

あたしの出番が近いわ。

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